素直になった、はしたない子(F/?)


アカト作


 ぴしゃん、ぴしゃんとズボンを降ろして剥き出しになったお尻に何度も平手を振り下ろす。
 いつもはぎゃあぎゃあと私の悪口を言ったり、手足だけでなく身体をよじらせてじったんばったん暴れるこの子も、今回ばかりは少し反省しているようだ。
 お尻を叩かれた痛みで手足をばたつかせたり、反射的に身体をすくめたりするぐらいだ。

「ねーちゃん、ごめんなさい…もうしないからぁ」

 ぐすん、ひっくと泣きじゃくるたびに身体が小さく揺れる。
 正月に入ってすぐお尻ペンペンされるとは思ってなかっただろう。私もするとは思ってなかった。



 この子、薫がお尻をひっぱたかれてる理由は、一言で言うと行儀が悪かったから。
 お姉ちゃんなんだからと、私は薫の冬休みの宿題の面倒を毎年みている。
 薫は宿題を早めに終わらせなさいと言っても聞かず、毎年注意されている。今年もだ。
 けれど、今お尻をひっぱたかれてるのは別の理由だ。
 キレイに字を書くのが苦手な薫は、習字や書き初めが大嫌い。そのため、書き初めの宿題から逃げようと暴れたら、なんとスズリをひっくり返してしまったのだ。
 そのことで今、こうやって申年でもないのにお猿さんのお尻にされている。
 奇跡的に、墨汁が私の着物や薫自身の服についたり、畳の上にこぼれることはなかった。
 ぞうきんで墨汁をあらかたふいて片付けた後、薫のお仕置きをしている、という流れだ。
 薫自身も「やってしまった」というのはよく分かっているらしい。かなり反省もしている。その証拠に「お膝に来なさい」と言った時には、私の膝の上に素直にうつぶせになった。いつもズボンと下着を脱がされる時には暴れるのに、今回は暴れなかった。ぴしゃん、ぴしゃんとお尻を叩きだしても、そりゃあ痛くて足をばたつかせたりするけれど、膝の上から逃げ出そうとするほどは暴れなかった。


「薫、その服はお気に入りなんでしょ?
 もしもさっき墨がかかってたら、シミになって残ってかもしれないよ」
「ごめんなさい…」

 ぴしゃん、ぴしゃん、ぱちん、ぱちん。
 何度も何度も薫のお尻に手を打ち下ろす。
 ぐすんぐすんとしゃっくりをあげている。時折、手でごしごしと顔をこすっているようだ。

「あんまりはしたないことしてはいけません。
 今回は薫もうんと反省してるみたいだけれど、たまに癇癪起こしちゃうクセは今度から気をつけること」
「ごめんなさいっ…」

 ぴしゃっ、ぱちん、ぱんっ。
 いつもお尻ペンペンされてる時は「うるせえ年増」とか「行き遅れ」とか言う子なのに、こんなに素直なのは少しびっくりだ。
 本当に反省してるのかな。

「…。薫、今度からは気をつける?」
「うん…」
「良い子良い子。それじゃあ、薫もうんと反省してるみたいだし、あと一回で終わりにします。
 もうはしたないことしちゃダメよ」

 ぱちん!

「っ…!ごめんなさいっ…!」

 薫のお尻の真ん中の力いっぱい、手を振り下ろした。真ん中に季節はずれのもみじマークがくっきりとついた。
 ひっくひっくと泣きじゃくってる薫を抱え上げるように抱き上げて、膝の上に座らせた。
 じゃじゃ馬なこの子も、お仕置きの後は素直に甘えてくる。私にギュッとしがみついて、安心したのか、わあわあと泣きじゃくる。
 いつもお仕置き中でも悪態ばっかついたこの子が、今日はお尻ぶたれる前にも反省できてたのは、やっぱり成長したからかしら。良いことなんだけれど、なんだか少し寂しい気もする。
 それと…これじゃあ、残りの宿題は明日かな。
 お仕置き後の甘え方が変わらないのに私は何故かホッとして、いつものように薫を優しく抱きしめ、良い子良い子と頭をなでた。