「後回し」の宿命(F/m)


りっきーさん作


「ちょっと祐次・・・、冬休みの宿題終わってるの?ただでさえあんたはいつもいつも・・・。」
母さんの小言をBGMがわりに、僕は残り少ない冬休みを満喫している。
しかしここ数日でクリアしたゲームソフトの山は、時折り僕を現実世界に引き戻してしまう。
友達と遊んで忘れようにも、冬休み終盤となると皆同じような理由で家から出られないようだ。
「うるさいなぁ、ほとんど終わってるって。大体、あと二日も休みあるじゃん。」
「明後日から学校なのに、そうやって今日をまるまる計算に入れてるから言ってるの!
 あと何が残ってるか言ってみなさい。」
「えーっと、習字・・・・・・・・・・・・・・・・・・と読書感想文。」
「だんだん声が小さくなってるわよ。・・・間に合うんでしょうね・・・?」
「だから余裕だって・・・でででででっ!?」
「まったくもう・・・、誰に似たのかしら?」
深い溜め息をつきながら、可愛い息子に締め技をかける母親の姿がそこにあった。
「母さんギブ、ギブギブギブ・・・っ!」
「はいはい、早く宿題やっちゃいなさいね?」
「わかった、から・・・。・・・放し、て・・・。」
母さんは顔に似合わず大の格闘技好きで、事あるごとにこうして家族に技をかけてくる。
本人はコミュニケーションのつもりどころか、ほぼ無意識下に挨拶がわりでそうしてしまうというから始末に負えない。
最も被害を被っているのは何を隠そうこの僕なのだが、母さんの悪癖は遊びに来た友達でさえ警戒させてしまうほどだ。
不思議と誰も怪我をしないところを見ると、一応の加減は心得ているようだが。
「まったく、こうでもしないと始めないんだから。」
「・・・締め技かける前に、宿題させる方法なんていくらでもあると思う・・・。」
「そうそう、母さん最近蹴り技の練習始めてね?」
「宿題やってきまーす。」
逃げるように立ち去ろうとすると、背後から残念そうな風切り音が聞こえた。
怪我をする、そいつは絶対怪我をする。
事件が起こる前に、大人しく宿題を始める事にした。

「今回は習字と読書感想文、か。・・・あの子も学習しないわね・・・ほんと。」




「祐くん、頑張って宿題やってるー?」
「もー母さん・・・じゃなくて、姉さん・・・!?な、何でここに?あとその格好どうしたの?」
「・・・もう少し、嬉しそうな顔しなさいっての。えへ、着物美人ー。いいでしょー?
 早めに帰って来てみれば、祐くんが宿題の真っ最中っていうじゃない?
 手伝ってあげようと、さっきまでは思ってたんだけど・・・。祐くん、姉さんちょっとそれが気になるんだけど。」
姉さんは入ってくるなりある物が気に障ったらしく、着物の腰に手を当てて仁王立ちをして見せた。
表情は微かに笑ったままで、あまり怒られている気はしなかったが、姉さんは本気で怒る時も大体こんな感じなので正直わかりづらい。
「その書き初めが宿題なんでしょ?今日何日だっけ?・・・どうしてまだやってないの?」
母さん顔負けの小言にも聞こえるが、姉さんが口にしている「どうして?」は意味が少し違う。
昔から文字や文章が大好きな姉さんは、それを少しばかり弟の僕にも押し付けてくるところがあった。
宿題を手伝ってもらえば、意地でも文系のものを最優先に終わらせようとする。
書き取りや感想文に全力を注いで全て終わらせた後、余った時間は残りの科目に使っていい・・・という徹底ぶりだ。
昨年は姉さんが忙しく、こうして監視に現れる事もなかったためすっかり忘れていた。
「ね、姉さんが帰ってくるかもしれないから・・・楽しみは後にとっておこうと思って。」
「・・・ほんと?」
「ほんと・・・、ほんと。」
「なら、許す・・・。一緒に書こっか?」
「う、うん。」
割と簡単に口車には乗ってくれるため、言い訳さえ用意していればそれほど困ることもない。
分かりやすい禁句にさえ触れなければ、子供の僕でさえ思い通りに操れてしまうのだ。
言っていて姉さんの将来が心配になってしまうが、なぜか勉強はできてしまうので教えてもらう時には非常にありがたかった。
宿題の答えを写したりは出来なくなるものの、一人で解いていくよりもかなり早くに終わってしまう。
習字をしているところに家族が来ると、だらけてしまって時間がかかりそうなものだが・・・姉さんの存在は、逆に緊張感をもたらしてくれた。
「げっ、もうこんな時間・・・?」
「早いねー、楽しいとあっという間だよ。」
「あーあ、やっぱり最後に回したほうがよかったかなぁ。」
「最後?」
「習字なら忘れていっても学校ですぐ書けるから、読書感想文を先にやった方がよかったかと思って。
 道具さえ持ってけば、どこでも書けるし。」
声に出してしまってから、慌てて口元を押さえる。
まずい、今のは失言だった。
姉さんの事だ、読書感想文まで残っているとわかれば、今度は本気で怒られてしまうかもしれない。
聞き流してくれた事を願いながら視線を送ると、感情を押し殺したように静かな姉さんがそこにいた。
「祐くん、今のは少し・・・聞き捨てならないよ。」
(こ、これはまずい・・・!?)
「すぐ書ける?・・・そんな気持ちのこもってない書き初めなんて、やっても何にもならないでしょ?
 いい?筆を手にした以上は半端な気持ちで・・・・・・。」
(・・・あれ?・・・そ、そっちかぁ・・・。助かった・・・。)
読書感想文については触れてこなかったが、こうなると姉さんの説教はとてつもなく長い。
早々に歯止めをかけないと、このまま小一時間ほど続いてしまうことも珍しくないのだ。
話を逸らしてしまうのが手っ取り早いのだが、その選択にも少々のリスクがある。
「そ、そういう意味じゃないって!ほら、習字って先生も甘く見てるっていうか・・・。
 前にも提出してなくて、そんなに怒られなかったっていう、・・・か・・・?」
誤魔化す時だけ口下手。
父さんからの遺伝なのか、似なくてもいいところだけきっちり似てくれている。
不用意に余計なことをすっかり喋りきったあと、僕の口はようやく閉まってくれた。

「・・・ずいぶん、興味深い話だね?」
「いや、あの・・・。・・・そういえば去年忘れてた友達は、大して怒られてなかったなー・・・って・・・。」
「違うでしょ?そういえば去年は姉さん、祐くんの宿題に口を出す時間がなかったけど。
 ・・・聞いてなかったよね、去年はどんな字書いたの?」
「・・・も、もう忘れちゃった・・・。」
「・・・ふーん?・・・そう・・・?」
喋れば喋るほど、徐々に追い詰められていくのが自分でもわかった。
「てっきり、祐くんの話かと思ったけど・・・?」
しきりに疑問符を多用し始めた姉さんが、完全に僕を疑っているのは明らかだ。
「机、確かめてもいい?」
「・・・ごめんなさい。」
「ん?」
「去年は・・・やってなくて、そのまま出してません。・・・ごめんなさい・・・。」
「・・・だろうと思った。」
まさか一年近くも経って、未提出の宿題が発覚してしまうとは思いもしなかった。
忘れ物マークが記された当時の連絡帳は既に処分しているし、嘘をつき通そうと思えば出来たはずなのだ。
しかし姉さんからの質問攻めは、そんな選択肢を記憶の彼方に追いやるぐらいに恐ろしい意味をはらんでいる。
「だったら、先に去年のぶんからかな?」
「え・・・?でも、去年の宿題なんて今さらやっても・・・。」
「そっちじゃなくて。」
姉さんが両手の指を支えにして腰を上げ、軽く伸びをした。
そのまま正座で座り直し、着物の太腿辺りに両手を添えながら僕を見る。
「お仕置き。先生にはされなかったんでしょ?そのかわりに。姉さんからは、お仕置きです。」
「う、嘘ぉ?今さら・・・?」
「提出する日から数えたら、まだ一年も経ってないでしょ?・・・時効にするにはちょっと早いかな。」
お仕置きすると口にしてはいるのだが、どう見ても怒っているように見えないのが姉さんの恐ろしいところだ。
「ちなみに姉さん、お仕置きって・・・?」
「そんなの、祐くんにお仕置きするんだから。お尻ペンペンに決まってるじゃない?」
「やっぱり・・・。」
姉さんが僕を怒る時そんな事をするようになったのは、昔の出来事がきっかけだった。
当時から母さんの逆鱗に触れると締められたり極められたりする罰が待っていて、幼い僕はそれをひどく恐れたものだ。
ただ現在のように普段から技をかけてくるような事はなかったため、本当に悪い事をした時だけの"お仕置き"扱い。
その分僕も今ほど耐性はついておらず、母さんが両腕を上げてにじり寄って来るだけで泣きじゃくっていた。
しかし考えてみれば、いくら母さんでもそんな幼い子供を本気で締め上げるはずがない。
未だに何の怪我もした事がないのだから明白なのだが、姉さんの目には怯える僕が哀れに映ったらしい。
「私がごめんなさいさせるから、もう許してあげて・・・?」
そう訴えて解放してくれた救いの女神の手によって、そのあと僕は散々お尻ペンペンを喰らったわけだ。
それでも正直昔は、母さんに怒られるよりは何倍もマシだった。
三度の飯より読書が好きだった姉さんはそれほど腕力のある方ではなかったし、まだ小さい僕を力いっぱい叩くような事もなかった。
僕も痛いのがお尻だけならと、母さんの怒りを買いそうになるたび「姉さんに怒られてくる」と自ら望んで姉さんのお仕置きを選ぶようになり・・・。
いつからか、僕が悪さをした時は必ず姉さんがお尻ペンペンするという図式が完成してしまったのだ。


「だ、だったら。姉さんより母さんに話して怒られてくるよ・・・。」
さすがにお尻ペンペンというのは年を重ねるごとに恥ずかしくなり、今ではむしろ母さんに技を二、三かけられる方を選びたいぐらいになった。
「ご自由に?・・・それじゃ、私からのお仕置きタイムはその後でね。行ってらっしゃい。」
「な、何で!?」
選びたいのだが、姉さんが絶対にそれを許してくれない。
「何でも何も、私が何でこんなに怒ってるかわかる?
 祐くんが宿題をしていなかったことはもちろんだけど、他にもあるでしょ?大きな罪が。」
「・・・ずっと、隠してたこと?」
「そう、それも含めて書の神様への数々の冒涜行為。・・・決して許されることじゃないの。」
(・・・書の神って誰だよ。)
突っ込んだらもっと酷いことになるかもしれない。
色んな意味で恐ろしくて、とても口にはできなかった。
「でもほら、着物だって崩れちゃうし・・・。」
その場凌ぎにと呟いた一言に、姉さんは驚いたようにほんの一瞬、僕と目線を合わせた。
「・・・なるほど、祐くんも考えたね。」
「え・・・?」
「そんな悪知恵まで働かせるようになったんだ・・・。姉さん、嬉しいけど・・・悲しいよ。」
「えっ?えっ?」
「確かにこの格好だと動きづらいけどね、別に、歩き回るわけじゃないし?動かすの上半身だけだし。祐くんと違って。」
「ね、姉さん?何を・・・?」
「今さらとぼけない。姉さんが着物着てて動きづらいから、今だったら言っても許してもらえると思ったんでしょ。」
「・・・姉さん、話を・・・。」
「問答、無用っ!」
この状況で言っても何の説得力もないが、普段の姉さんはそう簡単には怒ったりしない。
僕のお尻を叩く時には自分なりに怖く見せようと努力はしているようだが、お仕置き自体がそう頻繁にあるわけではないため、いつの間にか地が出て元通りになってしまう。
そのため知らない人が見れば温和な大和撫子にしか映らず、親しい人だけはこの思い込みの激しさに振り回される事になる。
「ほらぁ、さっさと脱ぐ。」
「そ、そんな引っ張らないで!やる・・・、自分でやるから・・・!」
「そんなこと言って、これ以上時間稼ごうとしても姉さん騙されないよ?これじゃあ、いつまで経っても宿題の続き始められないじゃない。」
「・・・ぐっ。・・・わかったよ・・・。」
観念した僕は、大人しく姉さんからお尻ペンペンの罰を受けることにした。
さっき口にしてしまった読書感想文の件、姉さんがはっきり聞き取っていたかどうかはわからないが・・・僕がまだ一切手をつけていないのは事実だ。
真面目に本を読んで書くとしても、あらすじ丸写しという封印されし奥義を使うとしても・・・題材の本がなければどうにもならない。
明日が休み最終日という限られた時間の中、これ以上無駄に時間を浪費するわけにはいかなかった。
読書感想文だけは、忘れると姉さんはもちろん・・・先生にまで大目玉を喰らってしまうという事態になりかねない。
もちろん、今は目の前の姉さんに許してもらうのが先決なわけだが。
「覚悟はできた?それじゃ、一回目ね。・・・よっこいしょ。」
「お、思いっきりはやめてよ・・・?」
「祐くんのお願いは聞けません。・・・いくよ?」
問いかけに返事をする暇は与えてもらえなかった。
久しぶりすぎて忘れかけていた姉さんの平手打ちは、ぱちぃん、と間抜けで大きな音を立てながら部屋中に響いた。
記憶の中のお仕置きよりも遠くで鳴った気がしたのは、少しずつ身体が大きくなっている証拠かもしれない。
しかし姉さんも僕の成長に合わせ、その分だけ出来るだけ痛くしようと心がけているらしい。
たった一つ鳴らしただけでお尻の色が変わるほど痛々しいお仕置きが執行されるなど、幼い頃には考えもしなかった。
「はい、二回目ー。」
ぱちぃん!
再び同じような音を立て、今度は反対側のお尻に平手打ちのあとが残る。
左右のお尻がバランスよく痛んでちょうどいい・・・などとはもちろん思わない。
ひりひりと痛むお尻にこれから更なる痛みが与えられ、酷い時には大人しく座っている事さえ出来なくなってしまうのだ。
僕は姉さんがいくつ叩くつもりなのかがどうしても気になって、つい聞いてしまった。
「ま、待って姉さん。・・・これ、何回やるの?」
「あっ・・・、考えてなかった。」
(・・・おいおい。)
危ないところだった。
もし僕が聞かずにいたら、姉さんはいつまでも際限なく叩くつもりだったのかもしれない。
「・・・うーん、習字の半紙って去年も同じだった?」
「同じだよ?お題の字は違ったと思うけど・・・。今回と同じ、上手く書けたやつから三枚を提出。」
「・・・じゃあ、四文字を三枚かぁ・・・。よし、四かける三で十二回だね。」
「えっ・・・?じゅ、十二回・・・?」
「そうだよ、あと十回。それが終わったら続きしようね。」
(やったぁ、思ったよりずっと軽い・・・!)
姉さんが僕にお尻ペンペンをする時、回数は特に決まっていない。
いや、その場の思い付きで決められてしまうと言った方がいいだろうか。
昔は痛みこそそれほどでもなかったのだが、回数だけは今よりだいぶ多かった。
悪さをして怒られていることを印象付けるためだったのか、五十六十は当たり前。
強くは叩かなくても、長く叩き続ければ幼いお尻などみるみる真っ赤になってしまうものだ。
つまりはある意味で子供騙しと言えるお仕置きだったのだが、何度か叩かれるうちに僕もだんだんそれがわかってきてしまう。
そうなってくると、小さい時よりも痛くするかわりに、回数を少なめにする事で文字通りにお仕置きとして成立させる必要が出てきてしまった。
強さと回数は初めから姉さんの気まぐれだったのだが、今までなら、少ない時でも二十回に満たない数で終わる事などまずなかった。
(これは、チャンスかもしれないぞ・・・?)
僕はこの機を利用して、今後お尻ペンペンされる時の回数を一気に減らしてしまおうと考えた。
「えぇー・・・、十二回も叩かれたら、お尻が痛くてもう書けないよ。」
「もー、大袈裟ねぇ。」
これは一種の賭けだった。
交渉に失敗すれば、反省していないとみなされて数が減るどころか増える可能性だってある。
しかし僕は、姉さんの性格を誰よりもよく知っていた。
こうして情に訴えかければ、姉さんの心はふわふわと揺れ動くに決まっているのだ。
「でも・・・わかった。お仕置きの残りは書き初めが終わってからにするね。
 あっ、数は十二より減らさないよ?痛いだろうけど、"たった一文字"の重みを思い知るように。」
「・・・はーい。」
(よしよし・・・、十二回でも重いって思ってくれれば、今後もこれぐらいに・・・。)
残り十回とはいえ、僕はまだあのお尻ペンペンに耐えねばならない。
それなのに、あっさりと先が見えたおかげで気持ちはずいぶん楽になっていた。
まだひりひりと痛むお尻をひとまずズボンの中にしまい、習字の続きに取りかかろうとする。
すると姉さんは、思い立ったように僕の方を見て呟いた。
「・・・そうだ、言うの忘れてた。そのあとで本探すのも手伝ってあげるね。」
「本?」
「まだでしょ?読書感想文も。」
どうやら、はっきり聞こえてしまっていたらしい。
一年も前の習字とは違い提出期限は過ぎていないので、今すぐ罰せられるような事はないのだが。
もしも明日中に終わらなかった時を想像すると、一瞬で頭の中は真っ白になってしまった。
「・・・そ、そうだね。これが終わってからゆっくり・・・。」
「うんうん、題材くらいは今日中に決めておかないとね?
 ・・・もし、間に合わなかったら。・・・それはそれは大変なことになるもの・・・。」
「・・・ちなみに、どのくらい・・・?」
「祐くんの読書感想文って、確か原稿用紙五枚でしょ?去年は知らないけど、一昨年もその前も一緒だったよね。
 一枚が四百字として・・・、五枚分だとお尻ペンペン二千回。・・・すごーい。」
「いやいやいや、ちょっと待って!?おかしいって!!」
「祐くん、これは算数の問題になるけど四百かける五は二千・・・。」
「そこじゃないよ!!」
「・・・知ってる。でも一字につきお尻ペンペン一回は絶対だよ。これはもう姉さんが決めたの。
 さっき、祐くんだって何も文句言わなかったでしょ?」
課題を出した先生でさえ、僕の家庭でこんなことが起きているとは想像もできないだろう。
一度は丸めこんでしまえると思った姉さんは、習字の時と違い全く折れてくれる気配がない。
「じ、十二と二千を比べないでよ!あと、二千文字びっしり埋めてる子なんていないじゃん・・・。」
「あっ、両方足したらちょうど二千十二ね。祐くん、今年はいいことありそうじゃない?」
「お願い、話を聞いて・・・。」
もう完全に、姉さんのペースに巻き込まれ始めている。
「・・・それなら、せめて先に読書感想文やらせてよ。」
「ダメ。・・・聞いていなかったの?一度半紙と向き合った以上、魂で文字を書くまでは・・・・・・。」
すっかりスイッチの入った姉さんは、持論を語り終えるまで宿題の続きどころかお仕置きの続きさえ始めさせてはくれなかった。
(あぁ、もうダメだ・・・。)
最終日前日の日は暮れていく。
じんじん痛むお尻を擦りながら、僕はまだ気付いていなかった。
この姉さんと本を選びに行って、題材が一日どころで決まるはずがない。
実質的に終わりを迎えていた冬休みは、憂鬱な気分のまま登校初日の言い訳を考えつつ過ごす事になった。


案の定、読書感想文は間に合わず。
一日遅れで提出できたはいいものの・・・先生にもきっちり怒られ、帰ってから姉さんと母さんの前で正直に話す事にした。
さすがにお尻ペンペン二千回というのは母さんが却下してくれたが、それに劣らないペナルティが新たに追加されてしまう。
今後は姉さんが抜き打ちで僕の連絡帳のチェックを行い、一つでも問題があれば即お尻ペンペン。
やり過ぎないようにと母さんが釘をさしてはくれたものの、軽く見積もって昔のように六十回ほどは覚悟しなければならないだろう。
無論・・・今の僕に効き目のある威力で、だ。
更に、少なくとも向こう一年間は姉さんによる検査は続くらしい。
下手をすれば、二千回を何回かに分けて済ませてもらえばよかったと思ってしまう日が来るのかもしれない。
「もし嫌だったら・・・、母さんにお目付け役やってもらう?」
「そのあと、姉さんからもお仕置きなんでしょ?」
「あはっ、そうだよー。」
先日、新しい年が明けたばかりだというのに。
僕の自由な毎日は、どうやら簡単には戻ってきてくれないらしい。

宿題は早め早めに終わらせることにしよう!