巫女のお姉さん(F/m)
アカト作
民俗信仰というのはどこにでもあるものだ。現代でも、それは様々な地域で残っている。
廃れてしまった場所もあれば、現代だからこそと言われて昔以上に強い影響となっているものもある。
この地域はまさに後者だった。
町には小さな神社があった。その神社には若い女性の巫女がいつも庭掃除をしていた。
――――悪いことをすると、神社でお仕置きしてもらいますからね。
これがこの町の子供の躾の合言葉のようなものとなっている。
この地域では、子供が悪いことをするのは、悪いお尻になってしまったからと言われている。
そのため、この地域では何かあるとすぐさまお尻をひっぱたくのが通例となっている。
また、あんまりにも悪いことをした場合、神社の巫女にお尻をひっぱたいてもらうことになっている。そしてその神社の巫女は、お尻ぺんぺんの達人であった。
本人の悪さの度合いに任せて、ばちんばちんとお尻が真っ赤になるほど引っ叩く怖い怖い巫女さんだ。子供たちからは一様に恐れられている。
現在、神社には二人の巫女がいる。今もまだ巫女をしている女性と、これから巫女になろうとしている見込み習いの女性だ。どちらもまだまだ若い。特に見習いの子はまだ高校生だ。
高校卒業したら大学に通いながら巫女を頑張るらしい。そのために今から修行をしているようだ。巫女の修行は大変お尻に厳しく、悪い子が子供の頃に受けるおよそ10倍のお仕置きが課されている。今日もお尻が痛いようで、境内の枯葉を竹箒で掃きながら、時折お尻をさすっている。
「――――あら? 弘一じゃない。弓さん…じゃない、お母さんに何か用事?」
「う、ううん。別に…なんでもない」
現在この神社の巫女である春日弓の一人息子の弘一が、木陰からのぞいているのを彼女がみつけた。
「カナミお姉ちゃんこそ、またお母さんにぶたれたの?」
「こーら。そういうことを人に聞いちゃいけません」
カナミは弘一のお尻をぺしんと引っ叩いた。
神社で見習いをする前から、カナミは弓の家族と親交があった。
小さい頃から弓には何かと世話になり、もう一人の母親同然だった。良いことをすればうんと褒めてくれたし、悪いことをすればうんと叱ってくれた。もちろん、おしりを何度もひっぱたかれた。
そんなカナミと弓の様子を、弘一は何度も見ている。お仕置き中のところも何度も見かけたし、逆に弘一が弓からお仕置きされてるところをカナミから見られたことだってある。何度かは二人一緒に弓の膝の上に乗せられて、一緒にわあわあ泣き叫んだことさえあった。
そして、カナミが弘一のお仕置きをしたことも、何度もあった。
今日の弘一は何だか様子がおかしかった。いや、新年になってから、ずっと違和感があった。
元旦の挨拶も私に対してはおざなりだったり、互いによくからかいあう間柄なのに、新年になってからそれが少ない。
まるで、バツが悪くて目を合わせられないような――――
「―――弘一、もしかして私に言わなきゃいけないことを隠してない?」
弘一はビクッと体を固くさせた。
「そ、そんなこと…」
「嘘。嘘でしょ。ほら、さっさと言っちゃいなさい。
でないと、おしりに聞くわよ」
びゅんびゅんと素振りをしてみせると、弘一はすぐさま観念した。
「そうそう、素直が一番いいのよ。
だったらほら、立ち話もなんだしコッチで話しましょ」
弘一の手をとって、私は神社の軒下へと歩き出した。弘一も引っ張られるがままに歩き出した。
そして軒下に私達は腰をかけた。ただし、お尻がはれていることを忘れていた私は、勢いよく座ってしまったことでお尻に激痛が走り、数秒間、悶え苦しむことになった。
「あ〜…痛い。痛いわホント。弓さんもこういう修行したのかしら…。
まあ、それはともかくとして。
弘一、私に何を隠してたの?」
「う、う〜…。…言わなきゃ、ダメ?」
「口で言えないならお尻に言ってもらうことになるけど」
「わ、わかったよ」
しぶしぶ、弘一は理由を語りだした。
――――結論から言うと、弘一は基本的に素直な子だし、私は勘が鋭いから、言わなきゃいけないことがあったけど、言い出しづらくて今までみたいな風になっていたとか。
言わなきゃいけないことというのは、弘一のお仕置きについてだ。
つまり―――――今年からは弓さんでなく、私がずっと弘一のお尻を叩くということ。
それを私に頼むように、弓さんから言われたら言われていたらしい。
「だからか。そりゃあ…まあ、言い出しにくいわよね」
「うん…」
自分から「これからはお姉ちゃんが僕のお尻をぶってください」だなんて、なかなか言えるもんじゃない。
この地域の風習に従って、悪い子は確かにこの神社の巫女にお尻をひっぱたかれることになっている。でも、それはとてつもなく悪い子の場合だ。基本的には、それぞれの家庭内でお尻叩きが行われている。
また、いくら親しい間柄であり、私が弘一のお尻をひっぱたいたことがあるといっても、それは弘一がもっともっと小さな時の話だ。
背は小さい方だし可愛い顔してるから違和感あるけれど、確か弘一は4月から中学生になるはずだ。
中学生になってから、親しい異性にお尻をひっぱたかれるのは、相当恥ずかしいことだろう。ましてや、それをお願いするだなんて。
「弓さんはなんで弘一にそういうことさせるかな。弘一、あんた私の知らないところで悪い子にでもなったの?」
「そ、そんなことないよ!そりゃあ、ちょっと夜更かしとかしたけれど…そうじゃなくて、その…。
…お姉ちゃんが、巫女の修行してるから、何かお手伝いできないかってお母さんに聞いたら…」
「――――――」
なるほど。ようやく理解したわ。
つまり、こういうことだ。
現在の私は、主に「お仕置きを受ける側」として修行を受けている。今だってそれでお尻が痛いことになっている。
ただし、将来は私がこの神社の巫女として、悪い子達のお尻を引っ叩くようになる。しかしながら、私はこの神社の巫女を志すずっとずっと昔に、弘一のお尻を何度かひっぱたいた経験しかない。
そこで、弘一が私のことを想って、弓さんに相談したら、ちょうど良い練習役として抜擢されたということだ。
「弘一。あなたの気持ちはホントに嬉しいわ。
でも…ほら、その…あんただってもう中学生になるのに、親しいって言ったって肉親以外の人にお尻ひっぱたかれるなんて、さすがに恥ずかしすぎるんじゃない?
そりゃあ、巫女の修行する身としては実際助かるし、嬉しいけれど…無理、することないのよ?」
「えっと…その…」
「撤回したら弓さんに叱られちゃうとかだったら、私がしっかり口きいてあげるから心配することないわよ。このことで弘一を叱るなんてこと、絶対にさせないから。
…やめるなら、今のうちよ?」
「その…。…恥ずかしいけど、撤回は…絶対、しない。
お姉ちゃんになら、その、お尻ぶたれても…いい」
顔は私から背けて下を向いていたけれど、弘一の言葉はまっすぐで真剣だった。
恥ずかしさの気持ちを超えるほど、私を助けてくれる気持ちが強いのがひしひしと伝わってくる。今、弘一の顔は真っ赤なんだと思う。髪からのぞく耳がゆでダコよりも真っ赤になっていた。
…顔を背けてもらっていて、ホントによかった。
まるでプロポーズみたいな弘一のセリフに、私も柄にも無く顔を赤くしてしまっているからだ。顔が火照っているのが自分でも分かる。
「ありがと、弘一」
弘一の頭を掴んで引き寄せ、ギュッと抱きしめた。恥ずかしがって暴れだしたけれど、絶対に離さない。だって私が赤面してるのは見せたくないもの。
しばらく抱きしめて私の火照った顔が元に戻った後、弘一を解放する。弘一はというと、私が火照った顔から冷めた分だけ、さらに顔と耳を赤くしていた。
「―――――さーて!それじゃ、弘一。さっそくお尻ひっぱたいてあげる!」
「えっ!?」
事態を飲み込めていない弘一の腕を掴んで引き寄せ、あ然としているうちに膝の上にうつぶせにさせた。弘一の袴をシュルシュルとほどいていき、一気に脱がせてぽいと投げ捨てた。袴の下には作法に則ってパンツを履いていなかった。
久しぶりにみる弘一のお尻は、子供の時と変わらずに可愛らしいお尻をしていた。
「な、なにするのさ!」
「そりゃあ決まっているじゃない。お仕置きよ。
だって弘一、最近夜更かししているんでしょう?」
「あ」
余計なことを言ってしまった、という顔をしている。
「それに本当なら、弓さんに言われたことはさっさと私に言うべきじゃない?
気持ちはわかるけれど、それで新年の挨拶もおざなりだったり、そのあとも私と顔を合わせようとしなかったり。
巫女見習いとして、弘一の悪いお尻を良いお尻にしてあげるんだから」
「そ、その…少しぐらい手心くわえてくれても…」
「それじゃあ修行にならないじゃない。弘一は私の修行の手伝いしてくれるんでしょう?」
「うぐ…」
これ以上の反論の言葉が思いつかなかったようだ。観念したらしく、私の袴をぎゅっと掴んでこれからのお仕置きに備えていた。
私は弘一の服の裾をまくり上げ、しっかりとお尻をさらけ出させてから、手を思いっきり振りかぶった。
「ちゃんと口をつむってないと、舌かんじゃうから気をつけなさいね。
それじゃ、良いお尻になろうね―――――それ、ひとーつ!」
それからしばらくの間、境内には男の子の鳴き声と大きな打擲音が響きわたっていた。
神社には巫女見習いの膝に乗せられてお尻を真っ赤にした男の子と、そしてその男の子を厳しくそしてどこか嬉しそうにお尻を叩いている巫女見習いの姿があった。