| 短編「勉強熱心」 |
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夫と結婚して早、十年近くが経った。月日の流れというのは本当にあっという間だ。 夫とはいわゆる出来ちゃった婚なのだが、子供が産まれてからは本当に･･･毎日が戦争みたいだった。 夜泣きによる睡眠不足も、気付いたら部屋にある色んな物に登りたがっている様子なんかも。 乗り越えた今となっては、全てがあの子との大切な思い出になっている。 ･･･当時は随分と、イライラもハラハラもさせられたんだけど。 小学三年生になった今では、子供なりに大分しっかりしてきてくれている･･･と思ってしまうのは親馬鹿なんだろうか。 ･･･でも、一つだけ。 本当に一つだけ、あの子の母親としてすごく気にかかる事があったりする。 「･･･お母さん、いる？」 「へっ！？あ、孝輔･･･帰ってたのね、お帰りなさい。」 ちょうど息子の孝輔が小学校から帰ってきた。 我が子とはいえ、悩みの原因のほうからいきなり話しかけられると動揺してしまう。 表に出ないよう意識しながら笑顔をつくる。 「ちょっと、話があるんだけど･･･。」 「うん？どうしたの？」 振り返った瞬間から、孝輔にいつもの元気がない事には気付いていた。 ランドセルをごそごそ漁る息子を見ながら、またアレかなぁ･･･と鼻で軽い溜め息をつく。 孝輔が神妙そうにしている時は、大体何を言ってくるか予想がつくのだ。 「これ･･･。」 「あ、算数のテスト返ってきたんだ？どれどれ･･･。」 手渡されたのは今日学校で返ってきたらしい算数のテストの答案だった。 点数は七十五点。小学生としてはいい点とは言えないかもしれないが、本来なら落ち込むような点数でもない。 私も正直、怒る気はしないのだが･･･それでは孝輔のほうが納得しないのだ。 「七十五点かぁ･･･。あと五点で八十点だけど･･･やっぱりやるの？」 「･･･うん、僕が決めたことだから。」 「わかった。じゃあ･･･お尻、出しなさい。」 「はい･･･。」 返ってきたテストの点数が八十点に届かなかった場合、その点数分だけお尻を叩かれること。 それは私や夫ではなく、息子の孝輔自身が決めたルールだった。 私もその時は、我が子の勉強熱心さに胸を打たれて二つ返事で採用してしまったのだが･･･。 最近になって、これが私の悩みの種になってしまったのである。 「さて、覚悟はいい？」 私は右腕の下あたりに孝輔のお尻がくるよう膝に寝かせた。 孝輔は剥き出しのお尻を少し気にした様子で、一度だけコクンと頷く。 たかがテストの点数で、しかも七十五点でここまでするというのはいかがなものだろう。 ･･･と、私自身は思っているのだが･･･こうしないとこの子は納得してくれないのだ。 しかも、八十点に五点届かないのだから五回叩いて終わり･･･というわけでもない。 回数は百点を基準に差し引かれるのだ。つまり今日は二十五回。ヒャ〜。 私が逆の立場だったら、親に反発して家出しちゃいそうなもんだけど。 「いくよ。」 パチィン！ リビングに大きな音が響き、叩いた私の手にも痛みがじわりと広がった。 それなりに手加減はしているが、孝輔と同い年くらいで痛みに弱い子ならこれだけで泣いてしまってもおかしくないと思う。 現に、私の手がこれだけ痛いのだから･･･子供の肌なら更に痛いんじゃないだろうか？ それでも孝輔は声一つ漏らさず、次の平手打ちを待っている。 ･･･パチィン！･･･パチィン！･･･パチィン！･･･パチィン！ 一回叩いては一呼吸おいて、また叩く。 力加減に気を配りながら、傍から見れば容赦ないであろう平手打ちをお尻に浴びせる。 数発叩いただけでもほのかに桃色を帯びてきて、それ以上に痛めつけろというのが私に対する拷問にさえ思えてくる。 しかし、これが孝輔のためになるなら。 それだけを自分に言い聞かせ、また腕を振り上げる。 ･･･パチィン！･･･パチィン！･･･パチィン！ 叩いた瞬間、孝輔が一瞬だけ顔を歪める。 本人は意識していないだろうが、背中も少し反り始めた。本当に痛いのだろう。 私の手のひらも本気で痛い。なんというか、痛すぎてちょっと痺れているくらい。 それでも、途中でやめるという選択肢はないのだ。他の誰でもなく、孝輔自身がそれを認めてくれない。 私はただ心を鬼にして、息子のお尻をひっぱたく他ないのだ。 ･･･パチィン！ ･･･パチィン！ ･･･パチィン･･･！ 「はい、お疲れ様。」 「ってて･･･。」 きっちり二十五回の尻叩きが終わると、孝輔はようやく声を聞かせてくれた。 我が子のお尻にくっきりと残った手形を見るたび、少々思いきりやりすぎたんじゃないかといつも後悔してしまう。 「･･･お母さん。次は頑張るからね。」 「うん、楽しみにしてるよ？」 「へへ、社会は自信あるんだ。来週返ってくると思うんだけど･･･。」 叩かれて真っ赤になってしまったお尻をそのままに、息子が笑う。 私もその頭を撫でながら返事をするのだが、正直今度は八十点以上であってほしいと切に願う。 大事な我が子を叩きたくないとかそういうデリケートな問題以前に･･･私の手がもちそうにない。 あぁ･･･、このまま夕飯作る時も痛いんだろうなぁ。 ま、これで孝輔も頑張れるみたいだから･･･お母さんも毎回応援しちゃうんだけど。 ･･･でも、名前書き忘れて０点とかとってきたら･･･百回も叩かなくちゃいけないのかな？ もしそうなったら･･･それだけは勘弁して、って泣きつこうっと。 |
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りっきー
2010年09月12日(日) 21時17分28秒 公開 ■この作品の著作権はりっきーさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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| ＞アカトさん 実際、心情抜きにしても小学生くらいの子のお尻叩くのって結構キツいみたいですね、手が痛くて。（情報元は伏せます） 鍛えてるお母さんなら大丈夫そうですが･･･そういう人ってうまく手加減できるんでしょうか？ドキドキ。 ＞ウィツさん 長編書くのが途中でめんどくさくなって短くしたんじゃないかと専らの噂です。 こういうお母さんが知り合いに欲しかったり。 |
りっきー | ■2010-09-22 00:17:28 | ||
| りっきーさんやっ！りっきーさんやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ！！ 短編は読みやすい代わりに内容薄くなりやすいのに…この文章力はぱないｗｗｗｗｗ 孝輔くん良い子っ！！そしてお母さんに萌え萌えですっ！！ 楽しく読ませていただきましたっ！！ |
ウィツ | ■2010-09-21 00:10:10 | ||
| りっきーさん復活ｯｯ！りっきーさん復活ｯｯｯｯ！！！ ぺちで叩く方のお母さんが音を上げつつあるって何だか新鮮だｗ 孝輔は純粋に自分にものすごく厳しい生真面目な子なのか、それとも…。 しかし伏線は投げ捨てるものっていう格言があるしな！（えー でも、どっかしらのテストで名前を書き忘れて表記上は０点扱いはいずれ出てくるだろうから…それまでにお母さんは言い訳を考えておかなければ…！ 言い訳を考えるのがぺちられる側じゃなくてぺちる側ってのも新しいな。 ともあれ、投稿感謝感謝です！ 今年の夏は…うん、悪夢のような熱さだった。 ではっ！ |
アカト | ■2010-09-16 19:25:03 | ||
| ＞お茶Ｋさん お久しぶりです。 信じられないくらい暑い夏だったので、ひたすら眠っていたかった気持ちはよくわかります。 ･･･寝てても寝苦しすぎて起きるんですけど。 ただの真面目ないい子なのか、キーに目覚めかけているだけなのか･･･さて、どっちでしょう？ 適当に張った伏線を回収しないことに定評がある私はこのまま去ります。 ＞お尻二百叩き これはさすがにマジ泣きすると思います。主にお母さんが。 |
りっきー（復旧コメント） | ■2010-09-15 14:59:56 | ||
| りっきーさん、おひさしぶりです。永らく冬眠ならぬ夏眠していたお茶Ｋですｗ ほのぼの〜〜な母子スパに癒されました。お母さん視点、いいですね！ キーくんの方がお仕置き熱心なんて、お母さんもびっくりなマジメっ子ですね。 それでも、決めた以上はちゃんと叱ってくれる愛あるお母さんで、ちょっぴりうらやましいです♪ もしかして、孝輔くんはお母さんに構ってほしいお年頃なのかな？ 実は、良い点とったら褒めてもらって、悪い点だったら叱ってほしいという隠れ甘えんぼさんかも！ ここは是非、一斉テスト返却でお尻二百叩きくらいに‥‥！！ がんばれ孝輔くん、そしてお母さん！（笑） |
お茶K（復旧コメント） | ■2010-09-15 14:59:45 | ||
| 感想ありがとうございます。 ＞ピースさん うれしいコメントどうもです！ それ系しか書けないんですという事実はどうぞご内密に。 ＞ヴァルマーさん 実は私、カーさんが本気で怒っているよりもこういう「やれやれ･･･しょうがない」って感じの方が好きだったりします。 叩き慣れた風のこわーいお仕置きもいいですが･･･たまにはこういうのも。 ＞分割に〜 これも色々妄想できますよね。 五日に分けたと思ったら後から答案が五枚も六枚も出てきたりして･･･。 |
りっきー（復旧コメント） | ■2010-09-15 14:59:28 | ||
| 孝輔くんの勉強熱心には頭が下がります。 そして悩みながらも息子の思いに応えるお母さん・・・。 気弱で非力そうなのに、必死になってお仕置きする姿にドキドキです。 もし万一、０点取っちゃっても孝輔くんのために頑張ってほしいと思います。 （分割（２０回×５日）にするとか・・いや、孝輔くん自身が却下するかも。自分に厳しいから） |
ヴァルマー（復旧コメント） | ■2010-09-15 14:59:15 | ||
| りっきーさんが作るお話は全部ほのぼのしてて 最高に大好きです！ |
ピース（復旧コメント） | ■2010-09-15 14:59:05 | ||