ワガママわんこ


「いたぁっ…!
 もうやめろよぉ…あかねのバカぁ…! オトコ女ぁ…!」
「そーんな憎まれ口を叩いてるようじゃ、まだまだお膝から降りれないね。
 俊也(しゅんや)がちゃんとゴメンナサイ言えないからお尻ぶたれてるんでしょ?
 全くもう…悪い子、悪い子」

 全体的にほんのり赤く染まってきた俊也のお尻に、またいくつか手の平をおっこどした。
 叩かれるたびに体を反りかえらせたり、丸く縮こませたりして、俊也は小さく悲鳴をあげる。
 そろそろ俊也が良い子に「ごめんなさい」って言えるかもしれないから、お尻を叩く手を背中において、お仕置きをいったん中断する。
 ぐす、って俊也が洟をすする音が聞こえる。私の膝にしっかりしがみついてるけど、謝ろうとしてる様子はない。謝るかどうかを考えてるそぶりもない。

 俊也は3つ年下の私の彼氏。俊也が中学生の時から彼の勉強の面倒を見てて、今年の4月からは無事、大学生だ。俊也が高校に入った辺りから彼氏彼女としても付き合ってる。
 初めて会った時から、俊也はワガママでやんちゃできかんぼうな男の子だった。今もだ。
 初めて彼に勉強を教える時は、本当に全くと言っていいほど言うことを聞かないですごく困ったのを今でも覚えてる。
 俊也のお母さんから、勉強の面倒を見てほしいと頼まれた時に「どーしても俊也が言うことを聞かなかったりしたら、お尻ひっぱたいていいからね。たぶん、そうなると思うの」と言われたけれど、まさか本当にお尻をひっぱたくことになるとは夢にも思ってなかった。
 本当はこんな風な…痛みとかで押さえつけるようなことはしたくないんだけど、何度口で言って聞かせようとしても俊也は言うことを聞いてくれなかった。
 以来、悪いことをしたり、どうしてもゴメンナサイが出来ないような時には、今もこうやって俊也のお尻をひっぱたいてる。
 悪いことをしたら、俊也だって本当は「悪いことしちゃった」って罪悪感持つんだけれど、意地っ張りな性格だからか、どうしてもゴメンナサイが言えない。ゴメンナサイを言える状況にしないと、どうしても言えないみたい。
 あと最近になって分かったことだけど、俊也は「甘えたくって悪いことしたり、意地を張る」みたい。お尻ペンペンのお仕置きをしたあとは、私は俊也にうんと甘えさせてあげるし、甘やかせる。最近はそれ目当てで悪いことしたり、ごめんなさいを言わないことがある。もちろん、ホントに悪いことしたりしてゴメンナサイが言えなくてお尻ぶたれることもあるけど(今回はゴメンナサイ言えなくてのお仕置き)、時々はわざとそんなことをして、お尻ペンペンになることがある。甘えたくなったら素直に甘えてくればいいのにって思うんだけれど、出来ないものは仕方ない。私はそれを理解しながら俊也のお尻を叩く。



 まぁ今回は「ちゃんとごめんなさい言えなくてお尻ペンペン」なんだけどね。罪状(?)はデートの待ち合わせ時間を大幅に遅れちゃったこと。デートの日なのに俊也が朝寝坊しちゃって、それだけならギリギリで間に合ったんだけど、電車もたまたま遅延しちゃって、1時間も私は待たされた。
 電車が遅延した時に「電車が止まったから遅れる」ってメールを送ってくればいいのに、俊也はそれをウッカリ忘れちゃったし、携帯も電源を切ったままだった。そこでちゃんと「忘れてた、ごめん」って言えば済むのに、俊也ったら「俺…悪く、ねえもん…」って。

言うまでもなくトレス

「どーしてこうやってお尻ペンペンされないと、俊也は素直にゴメンナサイ出来ないの?」
「いたぁっ…! だ、だって俺…えぐっ…悪く、ないもん…! 離せよぉ…バカぁ…っ!」
「ちゃんとゴメンナサイ出来るまで、お膝から降ろさないよ。ほら、手でお尻かばっちゃダメ!」
 ぺちっ。
 お尻をかばった俊也の手をはたいて、お尻から手をどかさせる。
「早くゴメンナサイ言わないと、今日お風呂入る時にお尻イタイイタイになっちゃうぞ。
 俊也、ゴメンナサイは?」
「い…やだぁ…っ…!」
「はぁ…」
 どーしてこの子はこう…強情なんだろうか。まぁそこが可愛いんだけど、さすがにもうゴメンナサイしてほしい。
「俊也? 最後通告だよ。ゴメンナサイは?」
「やだって言ってるだろ…! あかねのバカっ! 離せよぉ!」
 最後通告を聞かずに、俊也は膝の上でじったんばったん暴れ始めた。全くもう…出会ってから今までの間に、私の膝から逃げられたことないのに、どーしてこう無駄な抵抗するかな。
「うん、分かった。もうゴメンナサイ言わなくていいよ。その代わり、お尻でう〜〜んと反省してもらうから。
 今から久しぶりにお尻ペンペン百叩きしてあげる」
 片足を俊也のお腹の下からぬいて、私の左足だけに俊也をうつぶせにさせる。ぐいと俊也の体を持ち上げてもっと前のめりにさせて、お尻を突き出させる。その状態にしたところで俊也の背中をがっちり押さえて、俊也の両足をさっきぬいた片足で挟みこんで押さえ込む。
「え、嘘…! や、あかね…やだっ!」
「もうダメだよ。今日一日、ぱんつ履けないぐらいお尻真っ赤のイタイイタイにしてあげる」
 この俊也の足を押さえ込んでのお尻叩きの怖さは、俊也は身を持って知ってる。でも今になってゴメンナサイしてもダメです。最後通告だって聞かなかったんだから。それに最近、俊也のゴメンナサイ出来ないっぷりがまた目に余るようになってきたから、それの薬でもあったりする。
「力いっぱい泣いてもいいからね〜。私の部屋、防音完璧だから。それじゃ、いーちっ!」

 ぱぁんっ!

「ぃっ…!」
「にーぃっ、さーんっ、よん、ごーお、ろくっ!」

 ぱん! ぱちんぱちん! ぴしゃっ! ぱぁん!

「うあっ…やだやだやだやだぁっ! もうやだぁ! 終わりぃ!」

 ほんのり赤く色づいた俊也のお尻に、くっきりと赤い手形がいくつも残った。
 俊也は椅子の端に手を乗せて腕を突っ張って膝から逃げようとするけど、私のが俊也より力も強いし、俊也のことをお膝に乗せ慣れてるから、このぐらいの暴れ方じゃささやかな抵抗にしかならない。足もじったんばったん動かそうとしてるけど、私の足で挟みこんで押さえ込まれてるから、体を揺らす程度の抵抗にしかならない。前のめりの姿勢にさせてるもんだから、私にとってはお尻が叩きやすく、俊也にとってはもっとお尻が痛く叩かれちゃう。加えて、さっきよりも意識的に強くお尻を叩く強さをあげている。
 今、俊也が自由に動かせるのは、肩から先にある腕と頭だけだ。

「あと94回で終わりだからねー。先は長いよー。
 なーな、はち、きゅーうっ」

 ぱん、ぱちんっぱちんっ!

「いったあっ! やめろって言ってるだろぉ、バカぁっ!」

 ぎゃんぎゃん泣きわめいて、私の足をぽかぽか叩く。お尻ぶたれてるもんだから、ぽかぽか叩くのに力がはいってない。でも弁慶の泣き所を叩くのはやめてよ痛いから。

「暴れてもいいけど、それ以上私のスネを叩くんなら両手を背中に押さえつけちゃうからね。
 じゅー、うっ!」

 ばちぃんっ!

「〜〜〜っ! ふえっ…うぇぇっ…っく…あかね、お願い…も、やだぁ…!」

 一際強く俊也のお尻の真ん中を叩くと、お尻を手でかばって弱々しい声でお願いしてくる。

「だーめ。あと90回。さ、お手手どかしなさい」
「やだぁ…!」

 涙をいっぱい湛えた眼をぎゅっと瞑って、俊也はイヤイヤって顔を横に振る。なにこれすごく可愛い。でもまだお仕置き中だから、ダメったらダメです。

「言うこと聞けないんだね」
「あっ…」

 お尻をかばってる俊也の手をつかんで、背中に押さえつけた。
 こうなると、もう押さえつけられてない片腕と頭しか自由に動かせなくて、前よりもずっと抵抗出来なくて、ただただお尻を叩かれるしか無くなっちゃう。

「あと90回がんばろーね」

 ぴしゃん   ぱちん   ぱん    ぱちんっ

 もう抵抗らしい抵抗が出来なくなった俊也のお尻に、一打一打ゆっくりと平手を落とした。
 まだ自由な片手は椅子の足をギュッとつかんで、背中に押さえつけられてる片手に時折力を入れるけどやっぱり背中に押さえつけられたままで逃れられない。足も押さえ込まれてるから、膝から足先をぱたぱた動かすぐらいしか出来ない。
 足をぱたぱた動かして、体を左右に揺らして。「やだぁ…」って嗚咽混じりな声をあげてる。
 50回過ぎた頃には、かんしゃくが起きたみたいに泣きだしてあらん限りの力で暴れたけれど、それでも私の膝から逃げられなかった。逃げられるどころか、フルスイングでお尻を何度もぶたれて、一段と赤い手形がお尻にくっきりと幾つもついた。
 そのあとは暴れる力も残ってないみたいで、スンスンって弱々しく泣きじゃくって、何度も「ごめっ…なさいぃっ…反省したからぁっ…ごめんなさいぃっ…」って。
 もっともっと早くゴメンナサイ出来たらこんなにお尻叩かれることもなかったのにね。お尻はもう真っ赤だし許してあげたい気持ちは山々なんだけど…俊也が中学生の時と高校生の時の2回、こんな風に最後通告してからのお仕置きで、途中でやめてあげたことがあった。そのあとは…まぁ詳しくは割愛するけど「俊也のためにも、次からは途中でやめないようにしよう」って思った。そう思っても高校生の時にしたのは「俊也ももう大人になったことだし」って思ってしたんだけど…むしろ中学の時よりもダメだった。それからは俊也へのお仕置きは、通告した回数は必ず叩くようにしてる。どうしてもダメなときは、後日回数を増やして別途お仕置きする。
 今回は明日明後日は俊也は何も予定がないし、まだお尻もギリギリで大丈夫そうだ。だから最後まで、お尻を叩く。


「――――これで最後だよ。ひゃー、くっ!」

 ぱちんっ!

「〜〜〜〜…っ!!」

 叩かれてから数秒ほど体を丸く縮めてから、俊也は体をくったりとさせた。
 背中に押さえ込んでる手を離してやり、俊也の足をはさみこんでる足をどかしてから、俊也の脇に両手を差し込む。
 『高い高い』するみたいに俊也の体を持ち上げてから、両腕で俊也の体をかつぎあげた。分かりやすく言うと、お姫様抱っこ。
 「ふえええええ…」って弱々しく泣きじゃくって、俊也は私の服をつかんで胸元にすがりついてくる。俊也の髪に軽くキスを落としてから、椅子から立ち上がり、一度俊也をベッドおこうと…したけど、俊也が私に甘えてきて、私の服を強くつかんで離してくれない。可愛い。

「俊也。お尻冷やすように濡れタオルと、のど乾いただろうからお水持ってくるね。ちょっとだけ、ベッドで待っててくれないかな?」
「…えぐっ…ぃっく……ぐすっ……」
 真っ赤にはらした目で私を上目づかいで数秒見つめてから、コクンと小さく頷いてくれた。ベッドにうつぶせに俊也を寝かせてから、私は台所に行って濡れタオルとお水を用意して、すぐに俊也のいるベッドに戻ってきた。
 枕元のキャビネットに水を入れてきたコップを置いてから、私もベッドに座った。
「俊也、おいで」
 ぽむぽむとお膝を叩くと、俊也はうつぶせの状態でもぞもぞと動いて、うつぶせの状態で私の膝に顔をうずめた。お尻にひんやりと冷たい水でぬらしてきた濡れタオルを乗せてから、膝にうずめてる俊也の頭をなでてやる。
「もう怒ってないからね、俊也。
 うん、いい子 いい子…」
 ひっくえっくと嗚咽をあげて泣いてる俊也の頭をくしゃくしゃと撫でてやる。ぽんぽんと、しゃっくりで時折上下に跳ねる背中を優しく叩いて落ちつかせてやる。
「お姉ちゃ…えぐっ…ごめ、なさっ…ふぇっ…ぃっく……」
「ちゃんと反省出来たんだね。俊也、偉いね。
 お姉ちゃん、もう怒ってないよ。うん、いい子いい子」
 スンスン洟をすすりながら、俊也がゴメンナサイって言ってくれる。お仕置きが終わった後や甘えてくる時は、何故か俊也は私のことを「お姉ちゃん」って呼ぶ。なんでそう呼ぶかは知らないけど、私のことを「お姉ちゃん」て俊也が呼んでくる時は、私は俊也をうんと甘えさせてあげるようにしてる。
 いい子いい子って何度も囁きながら、私は可愛い俊也の頭を何度も撫でて、慰めてやった。


 嗚咽が次第に収まってきて、しゃっくりも弱くなってきたころ、
「俊也。お水、飲む?」
「…うん…ぐすっ…」
 膝に顔をうずめたままの状態で、小さく頷いてくれた。
「うん。それじゃ、抱っこするね」
 俊也の両脇に手を差し込んで、ひょいとまた『高い高い』するみたいに俊也を持ち上げてから、お尻が私の膝にもベッドにも当たらないように気をつけて、膝の上に横向きに座らせる。お尻からずりおちた濡れタオルは拾って、キャビネットにおいて、その隣にあるコップを手に取る。
「はい、お水」
「うん…ぐすっ…」
 しゃっくりが弱まってきてはいるけど、まだしばらくは続くみたい。両手で包みこむようにコップを持って、俊也はこくこくと少しずつお水を飲んだ。こう言っちゃ可哀想だけど、叱られてしょんぼりしてる時の俊也はすごく可愛い。
 コップにたっぷり注いだお水を飲み干して、コップを私に渡してくれる(俊也の位置だと、キャビネットまで手を伸ばしてコップをおけない)。私はコップを手にとって、キャビネットにおいた。
「うん。俊也、いい子いい子。大好きだよ」
 俊也の頭を胸元にうずめるようにして、ぎゅっと抱きしめる。俊也もまだ甘えっ子モードになってるようで、素直に私をギュっと抱きしめ返してくれる。ぽんぽんと頭をなでてあげると、もっと力を込めて私の体にギュッと抱きついた。うん、可愛い。