ペンペンの恩返し?(F/m)


春一番も吹き、ポカポカ陽気になってきて春を肌で感じるようになった4月の初旬。
ある山の中で太陽を浴びながら、二人の子供が元気良く走りまわっていた。
野上博哉、今年4年生になった9歳の男の子。体は小さいながらも成績優秀、スポーツ万能であり、学校では一躍人気者の存在である。そんな赤の長袖プリントTシャツとデニムの半ズボン姿の博哉は、同級生で友人の川上武と一緒に遊んでいた。
「ねえ、ひろくん。そろそろ帰ろうよ。」
「え、何で?まだ午後2時だよ。まだまだ早いけど。」
「うん・・・僕、今度となり町の塾に行くことになったから、そろそろ帰らないと。」
「そうなの?ふうん、大変だね。」
「僕、本当はすごくいやなんだよなぁ。遊ぶ時間も少なくなるし・・・いいなあ、ひろくんは塾に行かなくても頭が良くて。僕なんかこの前、成績表をママに見せたらカンカンに怒っちゃって、ひどい目にあったし。」
「ひどい目?どんな?」
「・・・お尻ペンペン。」
「お尻ペンペン!?」
「もう最悪だよ。ママの膝の上でたくさんお尻をぶたれてそりゃ痛いのなんのって。いつもだったら服の上からぶたれるんだけど、その日はお尻丸出しにされたもん。僕、涙が止まらなくてヒーヒー言ってた。多分・・・100回は叩かれたと思う。数を数える余裕なんかなかったけどね。」
「・・・・。」
黙って武の話を聞く博哉。博哉は自分がされたわけでもないのにブルルッと体を震えさせる。
「それでお尻真っ赤っ赤になったから、しばらく椅子にも座れなかったし、おまけに塾へ行くことを命令されて・・・ふんだりけったりだよ、ふぅ。」
武はそう言い終えると深いため息をつく。
「ふうん。武くんのママって怒ると怖いんだね。僕のママも怒ると怖いけど・・・お尻ペンペンはされた事はないなぁ。昔、体罰は子供に良くないとか言ってたから、そのせいかもしれないけど。」
「へぇー、いいなぁ。僕なんかしょっちゅうだよ。裸のお尻を叩かれたのは
この前が初めてだったけど。」
「ふうん。」
「もう!さっきから何、その気のない返事?人ごとだと思って・・・ひろくんだって一回誰かにお尻ペンペンされれば僕の気持ちがわかるんだよ。」
「いや、ごめんね武くん。でも僕だってよくわかるよ。ほら、アニメとかマンガでそういうの見ると、すっごく痛そうだって思うし・・・。」
「見るのと実際にやられるのは違うって!」
そんな会話を交わしながら、2人山をおりていく。すると、
「ねえ、あれ何だろう?」
武がある方向を指差す。そこには何かバタバタと暴れている一匹の動物がいた。
そこに近づいてみると、
「へ?これってまさか・・・ペンギン?」
「嘘?ペンギンって確か南極にいる動物だよ?何でこんなところに。」
「僕だって知らないよ。」
思いもしないペンギンとの遭遇に驚きを隠せない2人。2人は戸惑いながらも、そのペンギンの周辺を見渡す。
「ねえ、武くん。見てよ、あのペンギンの足・・・。」
「あ、何かに挟まっている。」
「これは、多分ワナだよ。狸かなんか捕まえるための。この山にはよく狸が出るって聞いたことあるし。」
「ふうん。それにこのペンギンが引っ掛かったってことか。なんだかマヌケー。」
「そうだね。」
「アハハハハ。」
2人が大笑いする。すると、そんな2人に対し、
「クエーー!!」
「うわっ!ペンギンが鳴いた。」
「何か怒っているみたい・・・僕らの話がわかるのかな?」
「そんなわけないじゃん。」
「まあ、かわいそうだから助けてあげようよ武くん。」
「うん。」
2人は力を合わせて、ペンギンの足をワナから外す。
「よし。もう大丈夫だよ。」
「・・・・。」
博哉はペンギンにそう声をかける。しかし、ペンギンは何の反応もないままその場に立っている。
「どうしたの?早く逃げな。」
今度は武が声をかける。そして、
「クエクエーー!!」
ペンギンはいきなり大声で鳴くと、羽をバタバタさせ空へと飛び立っていった。
「・・・・!!」
あ然とする2人。
「ペンギンって・・・空飛べたっけ?」
「うん。確か飛べないはずなんだけどね・・・。」
しばらくの間、2人は空へと消えていくペンギンを見上げていた。
「あっ!こんなことしてる場合じゃないや。早く帰らないと。」
「そうか。武くん、これから塾だったね。」
「走ろう、ひろくん。遅れたら、またママにお尻ペンペンされるかも。」
「うん、わかった。」
2人は全力疾走で再び山をおりる。すると、
「そこの坊や達、ちょっと待ちなさい。」
もうすぐ山をおりきる所である女性が2人に声をかけると、2人は急ブレーキ
をかけてその場に止まる。そこには白い装束を着た黒髪の若い女性の姿があった。
「お姉さん、誰?」
明らかに怪しげな風貌のその女性に博哉はそうたずねると、
「私は・・・坊や達に助けられたペンギンです。」
「は?」
そんな女性の言葉に再びあ然とする2人。女性はさらに話を続ける。
「おかげさまで助かりました。お礼といってはなんですがどうぞこれを受け取って下さい。」
そう言うと女性は赤い色をしたお守りを1つずつ博哉と武に手渡した。
「・・・・。」
あまりにも突然のことに、2人はわけがわからず黙ったままであり、その手には女性に渡されたお守りが握られている。
「いいこと、よく聞いてね。そのお守りの中に1枚の紙が入っているわ。その紙に自分が誰かにしてもらいたいことを書けば、必ずその願いは叶うことになるの。例えば、おもちゃがほしいと書けばおもちゃが手に入るし、宿題をやってほしいと書けば宿題をしてくれる。まあ、してもらいたい人の名前をきちんと書けばよりいいけど、書かなくても願い自体は叶うけどね。」
(この人は、さっきから何を言っているのだろう・・・)
女性の話を聞きながら、2人は同じ事を考えていた。さらに、
「ただし、注意してほしいことがあるわ。このお守りが使えるのは1回だけ。
そして、有効時間はその使用する1日限り。あと、人を指定してない場合は2人までキャンセルが可能だけど、3人目はその書いたことが全て終わるまで作業を続けるからね。」
「・・・・。」
「あとね、該当する人に直接頼むか、近くにいかないとその願い事はしてもらえないの。つまり、願い事を書いたお守りを持っていてもそのまま1人で家の中にとじこもったりして誰とも会わない環境だと、そのまま時間が過ぎて何も起こらないから気をつけて。」
「・・・・。」
「それじゃ、私はこれで。今日は本当にありがとう・・・。」
「え?ちょっと待っ・・・うわっ!」
その女性の前を急に突風が襲い、2人思わずひるんでしまう。そして風がやむと、もうそこに女性の姿はなかった。
「何だったんだ?今の・・・。」
「さあ・・・。」
「夢・・・だったのかな・・・・。」
「いや・・・だって、あのお姉さんが置いていったお守りはここにあるし・・・。」
「僕も・・・ある・・・。」
「・・・・。」
「・・・・。」
その場にたたずむ2人。しばらくして、武が口を開く。
「えーい!わけがわからないよ。一体なんなんだよ、もう!」
「そんなこと言ったって・・・あの女の人、自分を僕らが助けたペンギンだって言ってたし・・・。」
「あんなの全部嘘っぱちだよ!気持ち悪いよ!僕らだまされてるんだよ、絶対!」
「そうかなぁ・・・。」
「そうだよ!なら、ひろくんが試しにそのお守りを使ってみてよ・・・ってそうだ!」
武は何を思いついたのか、自分が受け取ったお守りの中から紙を取り出してなにやら書き込んだ。
「たまたま鉛筆を持ってきてたからちょうどいいや・・・よし、できた!」
武はそう言ってお守りを博哉に渡す。そして、博哉はそのお守りに武が何を書いたのかを確認する。ちなみにこのお守りは表面が透明シートになっていて、何が書かれているのかは一目でわかるようになっていた。そして、その内容に博哉は驚愕する。
[女の人にお尻ペンペン200回]
「えー!何これ?武くん。」
「見た通りだよ。さっき、ひろくんは僕がお尻ペンペンされたことに全く無関心だったから、こうすれば、僕の気持ちを少しでも理解してくれると思ってさ。」
「そんなー!ひどいよー!」
「でも僕だって少しは気を使ってるんだよ。男の人じゃ力が強くて嫌だろうと思って「女の人」と書いたし・・・まあ僕のママだったら大してかわらないけど。あと、「200回」っていうのはちょっとしゃれで書いてみたんだけどね。」
「しゃれって・・・もう、ふざけないでよ!」
「大丈夫だよ、絶対そうはならないって。今日1日それを持ってて、もし何も起こらなければあのお姉さんの言ったことは嘘だという事になるし、心配いらないって!」
「そうかなぁ?だったら、もう1つあるから武くんも何か書いて持っていてよ。」
「え?それは・・・あ、もう塾の時間だ!じゃあね、ひろくん。先に帰るから!」
「そ、そんな・・・待ってよ!武くーん。」
「もう1つのお守りもひろくんにあげるよ!バイバーイ!」
武はそう言い残すと、一目散に走り去っていった。
(ふぅ。武くんてば、本当に勝手なんだから・・・。仕方ない、このままこれを持って家に帰ろう。
今日はパパとママは仕事で夜遅くなるって言ってたから、家にいれば多分大丈夫だろうし・・・)
そんなことを考えながら、博哉はゆっくりと街の方へと歩いていった。


午後2時半が過ぎ、博哉は街の中を通って自分の家へと帰ろうとしていた。
(ほんとにこのお守りって書いたことが本当に起こるのかなぁ。まぁ、本当に起こったらちょっと怖いけど・・・)
こんな考え事をしながら歩いていると、ある美容院の前を通りかかった時に、1人の女性が声をかけてきた。
「やっほー!ひろくん。元気ー?」
「あっ、玲子お姉ちゃん。」
江藤玲子、25歳、独身。
専門学校を卒業後、美容師としてこの美容院で働いており今年で6年目を迎える。その腕前は別として、性格が明るく人柄が良いことから看板娘として人気が高い。さらに茶色に染め上げられた長髪をなびかせ、背が高く、スタイル抜群でモデルのような容姿がその人気に拍車をかけている。
そんな仕事着であるオレンジのエプロンドレスが似合うこの女性とは、博哉は
自分のママがこの美容院のお得意様ということもあり、すっかり顔見知りとなっていた。
「今日はどうしたの?おうちに帰るのかな?」
「うん、そうだけど。玲子お姉ちゃんは仕事?」
「そうね。でも、今日は午前中で終わりだから今はお片付けの途中なのよ。店長もさっき帰っちゃったしね。」
「ふーん。じゃあ、玲子お姉ちゃん1人なんだ。」
「そうよー。今、このはさみの手入れ中に、窓からひろくんの姿が見えたからつい声をかけてみたってわけ。ほら、キラキラして綺麗でしょ。」
玲子は持っていたはさみを博哉に見せ、さらに、
「良かったら持ってみる?」
「え、いいの?」
「いいわよ。別に振り回しでもしなければ危なくないからね。はい。」
そう言いながら、玲子は持っていたはさみを博哉に渡す。その時、
ピッキーン!
玲子の指と博哉の指が触れた瞬間、玲子の脳内で、何か高い音が響きわたる。
当然、博哉にはその音は聞こえていない。
そんな玲子の異変に気付くこともなく、まじまじと渡されたはさみを見る博哉。すると、
「こら!ひろくん!」
「へ?」
いきなりの玲子の叱責に驚く博哉。
「何勝手に店のはさみを触っているの!」
「え?だって、玲子お姉ちゃんが持っていいって言ったから・・・。」
「ひろくん!いつからそんな嘘をつく子になったの!」
そう言うと玲子は博哉からはさみを取り上げる。
「こんな悪い子は許しません!こっちへきなさい。」
さらに玲子はこう言い加えると、博哉の腕をつかんで美容院の中へと入っていった。
博哉は玲子に腕を引張られながら、美容院の待合室へと連れていかれる。待合室には長椅子がずらりと並んでいて、その内の一つに玲子は腰をおろす。すると玲子は博哉の腕をさらに引張って、自分の膝の上に博哉をうつ伏せにする。
(え?え?)
動揺を隠せない博哉をよそに、玲子は博哉の半ズボンに手をかける。
スルリッ
「いーっ!」
玲子はちゅうちょすることなく博哉の半ズボンとパンツを一気に膝のあたりまでずりおろす。その瞬間、思わず博哉は大きな声をあげるが、玲子は全く微動だにしない。
「本当にいけない子ね!そんな子にはたっぷりお仕置きしてあげる。」
玲子はそう言い放ち、高々と右手を振り上げる。この時点ですでに自分にふりかかる事態を予測し、手足をバタバタして抵抗を試みる博哉であったが、体がしっかりと玲子の手と膝で押さえつけられ、まさに「まな板の上の鯉」状態であった。
パシーン!
「うひぃー!」
パシン!パシン!パシン!パシン!パシン!
「ひいっ!痛い!ぴぎー!」
長髪をなびかせながら、テンポよく博哉のお尻を叩く玲子。博哉は生まれて初めて受けるお尻ペンペンの驚きと痛みが頭の中で混合し、声にならない声をあげ続ける。
パシン!パシッ!パシン!パシッ!パシン!パシッ!
パシン!パシッ!パシン!パシッ!パシン!パシッ!
玲子はさらにテンポを上げて休むことなく博哉にお仕置きをする。それほど力は強くない玲子ではあるが、まだまだ子供の博哉にとって、このお尻ペンペンは十分脅威であり、すでに大粒の涙が目に浮かんでいる。
「こら、ひろくん!いけない子!」
パシン!パシッ!パシン!
「悪い子にはこうなるのよ!」
パシン!パシッ!パシン!
「もう二度と悪い子にならないように・・・。」
パシン!パシッ!パシン!
「お姉ちゃんが、ひろくんのお尻を真っ赤にしてあげる。」
パシン!パシッ!パシン!
今度は一転して叱責をはさみながらお尻を叩いていく玲子。叩いた数はこの時点で30回に達し、博哉のお尻は玲子の言葉のとおり、きれいな赤色に染め上げられる。そしてここで博哉はずっとこらえていたものを一気に爆発させる。
「うわぁぁーん!痛いよう!もうやめてー!許してぇ!」
博哉はとうとう大声を出して泣き、必死で許しを求めてきた。しかし、そんな
博哉に構うことなく玲子はさらに右手を振り上げる。するとここで、
ピッキーン!
再び玲子の脳内に響く高い音。それと同時に玲子の振り上げた手がピタリと止まる。
「あれ?私、何してたのかしら?」
玲子は我に返り、思わず長椅子から立ち上がる。すると、いきなり立ち上がったため膝の上にいた博哉は玲子の足元へ転がるように落ちる。
「うわっ!あ、痛っ!」
「えっ?」
玲子は博哉の声を聞き、ふと足元を見ると、そこにはお尻を出して寝そべった
状態の博哉がいた。
「どうしたの、ひろくん?そんなとこでお尻なんか出して。」
「え!」
玲子の信じられない言動に驚く博哉。
「あらあら。お尻、赤くなっているわね。一体どうしたの?どこかにぶつけちゃった?」
「・・・・??」
とぼけているのかどうなのか理解不能な玲子の言葉に頭の中が混乱している博哉。
「まあいいわ。お姉ちゃんがこれからお薬持ってくるから。ちょっと待っててね。」
玲子はそう言うと、何事もなかったような表情で店の奥へ薬を取りにスタスタと歩いていった。


「それじゃ、ひろくん。またね。」
「うん・・・じゃあね、玲子お姉ちゃん。」
そう挨拶を交わし、博哉はお尻をさすりながら再び歩き出す。時刻はもう3時半となっていた。
(さっきのは・・・一体何だったんだろう)
先程の美容院での玲子が博哉に与えたお尻ペンペンのお仕置きは、すっかりと
玲子の記憶から消え、玲子は優しく博哉の赤くなったお尻に薬をぬり、普段と
同じ様子で談笑し、人ごとのように博哉のお尻を気づかいながら、博哉が帰るのを見送った。
(これが・・・お守りの効果・・・)
そう思いながら博哉はポケットからお守りを取り出し、再度確認する。すると、
[女の人にお尻ペンペン170回]
「へっ?」
なんと、武が書いた内容と異なる回数がそこには書かれていため、博哉はびっくりして思わず声をだす。
(あれぇ?最初は確か200回って書いてあったのに、今は170回に減ってる・・・あ!もしかして、さっき玲子お姉ちゃんにお尻ペンペンされたのが・・・30回)
博哉は考える。おそらく先程玲子に叩かれた分が引かれてお守りに表示されている。叩かれている間は痛くて数を数える余裕なんか全くなかった博哉だが、それがもし30回だったのであればつじつまがぴったりと合うこととなる。
(うっわー。やっぱりこのお守りは本物なんだぁ。なんか驚きって感じ・・・ってことは、このままだとあと170回も誰かにお尻ペンペンされるってことじゃないか!)
博哉はハッと事の重大さに気付く。
(もうあんな痛いのは嫌だ!急いで帰らないと・・・)
博哉はそう思うやいなや、街の中を急いで走り抜けようとした。
(誰にも会わないようにすれば・・・いいんだよな)
お尻がヒリヒリと痛みながらも、さらにスピードを上げて走る博哉。すると、そんな博哉の前に何か人影らしきものが立ちはだかる。
「ひーろちゃーん!」
「わーっ!」
博哉は驚いてキキーッと足を止める。すると、目の前にはどんと構えた一人の女性。
「綾・・・お姉ちゃん。」
「ウフフフ。」
辻元綾、29歳、独身。
商店街の八百屋さんである「八百発」の一人娘。
活発で愛想がよく、毎日店の前で大声で客引きを行う姿は、女性でありながら
たくましさが見えて好感がもてる。背は玲子と同じくらい高く、ふくよかではあるが均整がとれた体つきであり、ショートカットの黒髪、白い長袖シャツを腕まくりし、ジーパンさらに緑のエプロン姿をしたこの女性とは、博哉はよくお使いで野菜や果物を買うこともあり、年齢は離れているが会うたびに楽しく会話をする間柄であった。
「一体どうしたの?あんなに急いじゃって。店の前を通ったときは、別に用事がなくても一声かけてくれたっていいじゃない。」
「え?いや、別に・・・。」
「・・・まあいいわ。ちょうどいいところに来たわね。今日は父さんと母さんが出掛けちゃって私一人で店を開いていたんだけど、もう4時になるから少し早いけど店じまいしようと思ってね。で、よかったら少し古くなったけど美味しいリンゴが残ってるから、ひろちゃんにどうかなって。あ、もちろんお金はいらないから心配しないでね。」
「はぁ・・・。」
「どう?いる?いらない?」
「え、あ、あ・・・。」
「男の子でしょ。はっきり言いなさい。」
「・・・頂きます。」
「はい、よろしい。じゃあちょっと待っててね、今持ってくるから。」
綾はにっこりしながらそう言うと、店の中に入って店に並んでいるリンゴを紙袋に次々と入れていく。そして、おそらく5個以上は入っているだろうとみられる紙袋を手に再び博哉の前に戻ってきた。
「はい、どうぞ。」
「あ、ありがとう・・・。」
綾はその紙袋を差し出し、博哉はおそるおそるそれを受け取る。
「もう、何よ。何でそんなにビクビクしてるの?」
綾はそんな博哉を見ながら笑顔で博哉の頭をなでる。そして、ここでまた、
ピッキーン!
綾が博哉の頭をなでた瞬間、綾の脳内で、何か高い音が響きわたる。
当然、博哉にはその音は聞こえていない。だが、今度は嫌な空気を感じたのか、博哉は即座にその場を去ろうとする。しかし、
グイッ
「いっ!」
そんな博哉に対し、綾が背後から首根っこを強い力で捕まえる。そして、明らかに綾の表情がさっきと違っていた。
「こら!何してるの!勝手に店の商品を持ち出して!」
「え・・・でも・・・。」
「言い訳無用!こんな泥棒猫ちゃんは、たっぷり懲らしめてやるわ!」
「・・・・。」
「さっ、くるのよ!」
博哉は綾に首根っこを捕まれながら、そのまま店の奥へと連れて行かれた。そして、6畳間の和室に入り、綾はその場で正座をすると、その膝の上に力ずくで押しつけるように博哉をうつ伏せにする。
「・・・・。」
博哉はすでに覚悟を決め、何の抵抗もせずじっとしている。そして、綾の手により半ズボンとパンツが膝上まで脱がされていく。すると、先ほど玲子に叩かれて赤くなったお尻が綾の目の前にあらわれる。しかし、綾は全く気にする様子を見せず、しっかりと膝の上に博哉を押さえつけると、スッと右手を振り上げる。
「人の物を盗む悪い子はこうなるのよ!覚悟なさい!」
綾は一喝し、博哉のお尻めがけて勢いよく手を振り下ろす。再び博哉の悪夢が始まる。
バシッ!バシン!バチッ!ビシッ!バチン!
ビシッ!バシッ!バシン!バシッ!バシッ!
「ひえぇーっ!痛い!痛いよー!うぎぃー!」
八百屋の仕事で鍛えられた綾の力強い平手打ちが何度も博哉のお尻を襲う。明らかに玲子の時よりも激しい痛みに博哉は叫び、再び涙が目に浮かぶ。
バシッ!ビシッ!バシン!バシン!バシッ!
バシッ!バシン!バチッ!ビシッ!バチン!
ビシィ!バシィ!バシン!バチン!バシン!
ビシッ!バシッ!バシン!バシッ!バチッ!
「びぇぇーん!痛いよー!お尻痛いよー!うわぁぁーん!!」
さらに厳しい連打に博哉はとうとう大声で泣き叫び、ついには我慢できずに右手で自分のお尻をかばおうとする。そんな博哉に対し、綾はその博哉の手を掴み、博哉の背中と一緒にがっちりと押さえつけて戒める。
「何、この手は!素直にお仕置きを受けなさい!」
バシッ!バシッ!バシッ!バシン!バシーン!
ビシッ!ビシッ!バシッ!バチン!バチーン!
「うえぇぇーん!ごめんなさい!ごめんなさーい!」
博哉のお仕置きを受ける態度に怒り、さらに強くお尻を叩いていく綾。そんな綾に恐怖し、博哉はただ泣きながら謝ることしかできないでいた。
ビシッ!バチィ!バシッ!バチン!バチーン!
バシッ!バシッ!バシッ!バシン!バシーン!
「ごめんなさーい!もうしないからやめてぇー!許してぇー!」
非情なる綾のお尻ペンペンはついに50回を数え、博哉のお尻はまるでリンゴが二つ並んでいるように見えるくらい真っ赤になり、腫れ上がっている。博哉はもう自分がどれだけ叩かれているのかわかるわけもなく、ただただ許しを求めて叫ぶ。するとまたここで、
ピッキーン!
再び綾の脳内に響く高い音。それと同時に綾の動きが止まる。
「あれ、ここはどこ?」
綾はあたりをキョロキョロと見渡す。そして、ここが自分の家の和室と気付き、さらに自分の膝の上にうつ伏せになっている博哉を見つけると、
「うわっ!ひ、ひろちゃん!ど、どうしてこんな所に!それに何でお尻丸出しにしてるの?」
「・・・・。」
綾は驚きの声を上げ、博哉がまるでいきなり自分の目の前に現れたかのような態度をとる。泣いている博哉、真っ赤な博哉のお尻、そしてその博哉が自分の膝の上にいる。綾はこれまでのことを思い出そうとしばらく腕組みをして考え、そして一つの結論に達する。
「そっか!ひろちゃんはお仕置きされちゃったのね。」
「え?綾お姉ちゃんはわかるの?僕がお尻ペンペンのお仕置きをされたって。」
博哉はびっくりする。玲子の時は自分をお仕置きしたことを全く覚えていなかったため、今度の綾の場合においても同じようにお仕置きしたことを忘れていると思っていたからである。ところが、
「そりゃわかるわよぉ。こんなにお尻を真っ赤にされて・・・ほんと厳しいわねぇ、ひろちゃんのママって。」
「へ?」
「それで、慰めてほしくてお姉ちゃんの所へ来たんでしょ。フフフ、もう大丈夫よ。どれだけ悪いことをしたか知らないけど、これからお姉ちゃんがこの痛くされたお尻を優しく冷やしてあげるからね。ちょっと待ってて。」
綾はそう言うと、博哉を膝からおろし笑みを浮かべながら和室から出ていった。
(や、やっぱり同じだ・・・綾お姉ちゃんも玲子お姉ちゃんも僕をお尻ペンペンしたことをすっかり忘れてる・・・何で?)
博哉は心の中でそう疑問をいだきながら、よつんばになって真っ赤なお尻を出したまま、その場にうずくまるのであった。


「バイバイ、ひろちゃん。これからはママの言うことをきちんと聞くのよ。」
「うん・・・じゃあね、綾お姉ちゃん。リンゴありがとう。」
そう挨拶を交わし、博哉はズキズキと痛むお尻のせいで明らかに変な格好で歩き出す。
博哉は綾に真っ赤に腫れ上がったお尻を氷水に濡らされたタオルにより冷やされ、その間、綾はどうして博哉のママがこれだけ厳しくお仕置きしたのかを博哉に問いただす。しかし、当然そんな事実はないので博哉は言葉を濁す。すると、綾は「子供は親に叱られながら大きくなるんだからね」と励ましの言葉をかけ、博哉も戸惑いながらもうんうんうなずき、その場は次第に和んでいった。
それからしばらく談笑してる内に、時間も5時を過ぎたため、博哉はまだまだ痛むお尻をかばいながらなんとか綾の家を出て、再び自分の家へと向かうのであった。
(えっと・・・さっきどれくらい叩かれたんだろう)
そう思いながら博哉はポケットからお守りを取り出し、2度目の確認をする。すると、
[女の人にお尻ペンペン120回]
「げっ!」
残りの回数を見てがっかりする博哉。どうやら自分が思った数よりも綾は自分のお尻を叩いていなかったようだ。
(えーっ!まだあと120回も残ってるぅ。てっきり、綾お姉ちゃんには100回以上叩かれたと思ったのにぃ。ということは、これで玲子お姉ちゃんに30回、綾お姉ちゃんには50回お尻ペンペンされたってことか・・・って待てよ。何で、叩かれた回数がそれぞれ違うんだろう・・・)
博哉はこれまでを振り返ると共に新たな疑問が浮かび上がり、それに対して再び考える。
すると、博哉はあの謎の女性のある言葉を思い出す。
[人を指定していない場合、2人までキャンセルが可能だが、3人目はその書いたことが全て終わるまで続く]
しかしながら、博哉は玲子と綾に対して直接キャンセルを指示したような記憶はない。だが、さらに深く考えると博哉がお仕置き中に無我夢中で叫んだあるフレーズが頭に浮かぶ。
[やめて]
博哉はピンとひらめきこう解釈する。
(そうか。自分が「やめて」と言ったときに2人はお仕置きを止めている。そして、そのタイミングがたまたま30回、50回となっただけなんだ)
博哉は納得した表情をして一人でうんうんとうなずく。しかし、すぐさま博哉はある事実に気付く。
(待てよ?ということは、次に誰か女の人に会ってしまったら、その人に僕は
お尻ペンペンを・・・120回も!!)
博哉はそう思った瞬間、背筋が凍りつき、ガタガタと震え、顔が一気に青ざめる。
(これは・・・絶対に誰にも会わずに家に帰らないと・・・)
そう固く決心し、家へと向かう博哉。しかし、心とは裏腹にお尻の痛みで走るどころか思うように歩けず、ただひたすらゆっくりゆっくりと歩くことしかできないでいた。だが、それでも少しずつではあるが、家までの距離は徐々に縮まっていき、残り約300mのとこまできていた。
(よし、あとは街を出て少し歩けば僕の家だ。家の中に入って部屋に閉じこもっていれば・・・)
博哉は歩きながらこんなことを考え、ついには少し安堵したのか顔にわずかに笑みが浮かぶ。そしてついに街の出入口までたどりつくと、
(ふぅ、ここまでくればあとわずか・・・頑張れ僕!)
博哉はそう心の中で気合を入れ直し、街を今にも出ようとしたその時、
「あら、博哉くんじゃない?」
(ギクッ!!)
背後から聞こえる女性の声。博哉はゆっくりと後ろを振りむく。
「やっぱりそうだ。こんばんは、博哉くん。」
「あ、こ、こ、こんばんは。ふ、文枝おばさん。」
「ウフフ。どうしたの、そんなにあたふたしちゃって。」
「いえ、あ、その・・・。」
博哉と親しく話す眼鏡をかけているこの女性。
永山文枝、35歳、既婚。
街の出入口からすぐの所にある「永山医院」の院長である。
夫は普通のサラリーマンであるが、文枝の父親がこの「永山医院」を開業し、
亡き父の後を継ぐかたちで若くして院長となっている。一人娘は博哉と幼なじみであり、その縁などから博哉は体調が良くないときなどで何度もこの医院にお世話になっている。
背は成人女性平均よりやや高い程度であるが、黒いハイヒールを履いている
こともあり、見た目の高さは玲子や綾にもひけをとらず、スタイルも申し分がない。セミロングの黒髪に、白の開襟シャツにグレーのスカート、脚にはストッキング、さらにその上に白衣を着た姿はまさに女医という風貌をただよわせている。
「これから家に帰るのかな?博哉くん。」
「う、うん・・・。」
「そっ。私も今日の診察が終わったから、後は片付けと戸締りをして家に帰る
だけなんだけどね。帰ったら夕飯の支度もしないとね。」
「あ、じゃ、それじゃまた・・・文枝おばさん。」
博哉は強引に話を切るように文枝に挨拶し、再び歩こうとする。
「ええ、気をつけて帰ってね、博哉く・・・ん?」
そんな博哉に対し、笑顔で挨拶して見送ろうとしたその時、文枝は博哉の異変に気がつく。
「ねえ、博哉くん。何か歩き方が変よ。どこか怪我でもしたの?」
「い、いえ、何でもない・・・です。気にしないで。」
「気にするわよ。明らかにおかしいじゃないの。ちょっとみせてごらんなさい。」
そう言いながら、博哉に近づく文枝。博哉は今にでも逃げたい気持ちでいっぱいであったが、お尻の痛みが邪魔をしてその場を動けないでいた。そして、文枝の手が博哉の肩に触れたその瞬間、
ピッキーン!
文枝の脳内で、何か高い音が響きわたる。そう、玲子にも綾にも響きわたった
あの音である。当然、博哉にはこの音は聞こえていない。だが、もう博哉はすでにあきらめたような顔をしてガックリとうなだれていた。そして、
ググッ
「びいっ!」
文枝はいきなり博哉の耳を引張りあげる。
「ひーろーやー!さっきの態度は何?またこそこそと何か悪だくみしようと考えてたんでしょ!いったい何を企んでいたの!」
「・・・・。」
まるで自分が博哉の母親と思わせるような口調で叱りつける文枝に対し、博哉はじっと黙っている。ここで弁解しても無駄であることを理解しているからである。
「そう、意地でもしゃべらないつもりね。いいわ、これから時間をかけてたっぷりと聞かせてもらうから・・・お尻にね。さっ、こっちにいらっしゃい!」
「いた、いたたたー!」
博哉は文枝に耳を引張られながら、そのまま病院の中へと連行される。そして、診察室へと連れて行かれ、文枝は普段使用している診察用の椅子にそっと腰掛けると、すぐさま博哉をグイッと持ち上げて自分の膝の上にうつ伏せにする。
「・・・・。」
博哉は文枝の膝の上で宙に浮いた手足を少しバタバタさせるが、ほとんど抵抗はしない。そして、文枝はすました顔で博哉の半ズボンとパンツを膝のあたりまで脱がすと、先程まで玲子そして綾に叩かれて真っ赤に染め上げられた博哉のお尻が顔を出す。しかし、そんな状態の博哉のお尻を見ても文枝の表情に変化はない。
「・・・・。」
「・・・・。」
しばしの沈黙。博哉は心臓をバクバクさせながらこれから自分に与えられる衝撃に備え、身をちぢこませている。するとここで、文枝がようやく口を開く。
「博哉!今日という今日は絶対に許しません!これからいやというほどお尻を
叩いて二度と悪さができないようにしてあげるからね!!」
全く身に覚えのない叱責をじっと黙って聞いている博哉。まだ、叩かれる前だというのに博哉の目はうつろになり、心ここにあらずといった状態となっている。そしてこれから、延々と続くであろうお仕置きが始まるのであった。


バチン!パシッ!バシッ!パンッ!ビシッ!パシーン!
お仕置き開始から10分が過ぎようとし、文枝は時間をかけて黙々と、そして厳しく博哉のお尻を叩いている。膝の上に博哉の左手を自分の右手でガッチリと掴んでそのまま博哉の背中を押さえて固定し、白魚のようなしなやかな左手が何度も博哉のお尻に振りおろされる。ただ力まかせに叩くだけでなく、強弱を加えながら、それでいて均等にお尻全体が真っ赤に染まっていくさまはまるで、これまで何回もこうやって子供をお仕置きしているのではないかと思わせるくらい手慣れている。
バシッ!バシン!パチン!パシッ!ビシッ!バシーン!
「びええぇーん!びええぇーん!」
一方、博哉は文枝に左手もろともしっかりと押さえつけられ、お尻をかばうこともできず、なすがままについさっきまで2人の女性にお仕置きされて真っ赤にされたお尻をさらに文枝に打ちのめされ、これまで以上に大声で泣き叫んでいた。
パンッ!パシン!バシン!ビシッ!バシッ!バチーン!
「びえええぇーん!もうやめてぇー許してぇ!」
「だめ!まだまだ許しません!」
叩かれている間、博哉は何回もやめてと叫んでいるが、そのたびに文枝は叱責し、お仕置きを続ける。もはや、博哉自身ではお仕置きを止めることはできず、あのお守りに書いたとおりの回数まで叩かれなければ終わらないようである。しかし、あまりの激痛に博哉は数を数える余裕はなく、いつ終わるかわからないお仕置きに対し、ヘトヘトになりながらもただひたすら泣きながら文枝に許しを求めつづけるのであった。そして・・・ついにその時がおとずれる。
ピッキーン!
再び文枝の脳内に響く高い音。それにあわせて文枝の表情から怖さがすっかり消える。
「あら、私、何していたのかしら?」
文枝はそうポツリと言い、しばらくぼう然とする。すると、自分の膝の上に何か乗っかっている感触と誰かの泣き声に気付き、そのまま下を向くと、膝の上で泣いている博哉を確認する。
「えぇっ!ひ、博哉くん!え?え?どうして?」
「うわぁぁーん。うえぇぇーん。ひっく・・・。ぐすん。」
文枝は困惑する。これまでのことは全く記憶がない。しかし、お尻を丸出しにした博哉をしっかりと押さえつけ、左手を振り上げたままの体勢で自分の体が固まっていたため、自分が今やっていたことが明らかに予測できる状況となっていた。
「え?何で?何で私は博哉くんのお尻を叩いているの?」
さらに混乱する文枝。すると、そんな様子をようやく泣き止もうとしている博哉が文枝の膝の上からじっと見上げている。
(文枝おばさんは・・・自分が僕をお尻ペンペンしたってことがわかっちゃったんだ・・・)
そう思いながら、博哉は文枝に散々叩かれたお尻をさする。3人による合計200回によるお尻ペンペンは博哉のお尻を無残にも真っ赤を通り越し、赤紫色にと痛々しく腫れ上がらせていた。
(そんなことより、どうしよう・・・理由はどうあれ人様の子供にこんなことしちゃって・・・)
しばらく文枝は頭を抱えて悩んでいると、博哉は文枝にこんなことを言い出した。
「文枝おばさん、ごめんね。」
「え?」
突然、博哉に謝られて戸惑う文枝。さらに博哉は言い加える。
「僕、今日とっても悪いことしたから文枝おばさんにお仕置きされちゃって・・・。」
「え?どんな悪いことをしたの?」
「正直・・・よく覚えてないけど、とにかく僕は悪いことをしたの!だから僕、文枝おばさんにお仕置きされたことは全然気にしてないから・・・。」
「博哉くん・・・。」
自分をかばう博哉の言葉に、博哉の優しさを感じる文枝。しかし、文枝はいくら考えても何の検討もつかないことから、しばらくしてようやく頭の中を切換える。
「とにかく、博哉くんのお尻はとってもひどい状態になってるから、さっそく冷やしてあげないとね。すぐに準備するわ。本当にごめんね、博哉くん。」
文枝はそう言って、博哉を膝からおろすと急いで準備を始める。
(本当に謝らなきゃいけないのは・・・僕、っていうか武くんなんだよなぁ。ふぅ)
博哉はしばらくその場でお尻を出して立ったまま、心の中でため息をつくのだった。
そして午後6時が過ぎ、もう外は暗くなってきて商店街や家々に明かりが次々に灯りはじめる。そんな中、「永山医院」で唯一明かりがついている診察室の中では、先程と同じく診察用の椅子に座っている文枝の膝の上にお尻を出してうつ伏せになっている博哉の姿があった。文枝は博哉のお尻を十分に冷やした後、そのお尻に丁寧に優しく薬を塗っている。そんな中、文枝は自分の家庭のことについて話をする。
「実はね、うちの娘もこうやってちょくちょくお仕置きしてるのよ。」
「え、そうなの?」
「そうよ。いっつも言うこと聞かないし、勉強もしないしね。口で言うだけじゃわからないからお尻に教えてあげるのよ。」
「へぇー。」
「まあ、でもまだ小さいから20〜30回ぐらいで許してあげてるけどね。でも、改めてごめんね。博哉くんには、絶対それ以上叩いちゃってるからねぇ。
一体何回叩いたんだろう?本当に何も覚えていないのよね。」
(・・・120回だよ)
博哉は心の中で答える。
「まあでも、幸いにも明日明後日と土日で学校も診察もお休みだから、いつでもここに来なさいよ。まだまだお尻を治療しないといけないからね。おばさんは診察室のお掃除をしながら待ってるから。」
「うん!」
博哉は元気よく返事をする。
「博哉くんは本当にいい子ねぇ。うちの馬鹿娘に爪のアカでも飲ませたいくらいだわ。ウフフフ。」
文枝はそう笑いながら、博哉のお尻をなでるように薬を塗りつづける。
博哉はそんな文枝の笑顔を見上げると、
「あれ?」
「どうしたの?博哉くん。」
「気のせいかな。文枝おばさんの顔が一瞬・・・僕のママに見えた。」
博哉は真顔でそう言うと、
「いやねえ、博哉くん。おばさん、照れちゃうじゃない。でも・・・ママって
言ってくれて、少し嬉しいかな。フフッ。」
「エヘヘヘ。」
文枝の言葉に博哉も照れ笑いを見せる。そんな和やかな雰囲気の中、博哉は、文枝が薬を塗ってくれている温かい手、膝の温もり、そして優しい言葉によって、お尻がズキズキと痛みながらもひとときの安らぎを一瞬母親を思わせた文枝に感じるのであった。
それから、次の日もその次の日も博哉は「永山医院」に行き、文枝にお尻を治療してもらい、その甲斐あって約5日ほどで完治した。その間、少し様子が変だと思われたかもしれないが親や友人の武らに気付かれることはなかった。
また、のべ3日にわたり博哉のお尻を治療した文枝であるが、治療が終わってすぐに玲子と綾と同様にそれらの記憶が、文枝の頭からすっかりと消えてしまったとのことである。
そして結局、武にはこのお守りは嘘だったと嘘をつき武もそれを簡単に信じたため、この不思議な出来事は博哉の胸の中だけにそっとしまわれるのだった。


そして、さらに数日後のある土曜日の午後。
博哉は家で2階の自分の部屋の学習机に向かい、何か書き物をしている。机の上にはなんとあの謎の女性からもらった赤いお守りが1つ置かれていた。あの日、「永山医院」からの帰り道で博哉は自分のポケットに手を入れると入っているはずのお守りが跡形もなく無くなっており、何度か探したものの結局見つからなかった。おそらく、役目を果したためそのまま消えてしまったんだろうと博哉は推測し、そのまま家へと帰った。しかしながら、武から譲られたもう1つのお守りは健在であり、しばらくほっておいていたが、今回ついに何か思いついたのか博哉はお守りから紙を取り出して、黙々と書いている。
「よし・・・。」
博哉はそう言って、その何やら書いた紙を再びお守りの中に入れ、自分のズボンのポケットの中にそのお守りを入れる。そして、部屋の窓をあけ、庭で洗濯物を干している白いエプロン姿の博哉のママに向かってこう叫ぶ。
「ママー!」
「なあに、博哉?」
「ちょっと用事があるから、部屋まで来てよ。」
「えー?一体何の用事なの?」
「いいから、早くー!」
「はいはい。」
博哉のママは2階の窓から顔を出している博哉にそう答えると、いそいそと家の中へと入っていく。ちなみに博哉のパパは外出中であり、家には博哉と博哉のママの2人しかいない。博哉は待っている間、椅子に座りながらソワソワとして落ち着きがなく、少し緊張した顔つきである。その理由は、先ほど博哉が書いていたお守りに書いた内容が原因であるということが、数分後判明する。
ガチャ
しばらくして部屋のドアが開き、博哉のママが現れる。
「何かしら?博哉。」
「あ、あのね・・・ちょっと近くまできて・・・くれない。」
「もう。何モジモジしているの?しょうがない子ねぇ。」
博哉のママは博哉の様子が変だと感じながらも、笑みを浮かべながら博哉にゆっくりと近づいていった。
ちなみに、お守りにはこう書かれている。
「ママにお尻ペンペン100回]・・・と。

ピッキーン!