継母(ままはは)との絆・番外編(真夜中の訪問者)


雨が降り止まず、まさに梅雨到来というじめじめとする日がしばらく続いていた。
そんな中で、大吾は宿題を終わらせて、明日の学校の準備をしていると、何気なしに机の上にある1つの写真立てに目がいった。
(・・・ママ)
大吾が幼稚園児の時、亡くなった実の母親である弥生の写真である。時には優しく時には厳しくそして大好きだった、いや今でも大好きな母親。
そのため、大吾は決して忘れまいとして弥生の写真を毎日自分が見れる場所に置いているのであった。
(・・・そういえば、明日はママの命日だっけ・・・)
弥生が亡くなったのも、こんなじめじめした夜の日のことであった。もともと体がそれほど強くはなく、急な病に倒れ、父親と泣きじゃくる大吾にみとられながら、懸命な治療もむなしく突然この世を去ってしまった。
しばらくは子供ながらに意気消沈していた大吾であったが、父親そして先生の励まし、さらに年月がたっていくにつれて次第に元気を取り戻し、そしてなにより、新しい母親となったセレンの存在が、大吾を格段に明るく元気にさせる事となった。
そして、現在はセレンと父親(海外転勤で不在)と楽しく暮らしてはいるが、大吾は一度として実の母親の存在を忘れたことはなかった。
「おやすみ、ママ。」
そう一言言うと、部屋の電気を消して、すばやくベッドに上がり、毛布にくるまる大吾。ちなみに寝巻はいつものグリーンのパジャマを着ている。そして、あっという間に大吾はスヤスヤと眠りにつくのだった。しかし、いつもは母親の写真に向かって言葉を掛ける事はないのであるが・・・これは、無意識に大吾は何かを感じていたのかもしれない。
それから、3時間ほど時間が過ぎ、部屋の時計は午前1時をさしていた。
すでに深い眠りに入っている大吾に対し、ふとこんな声が聞こえてくる。
「・・・大吾。・・・大吾。」
どこからか聞こえるか細い声。どうやら女性の声みたいではあるが、大吾の反応はなくまだ眠り続けている。すると、
「こら、大吾!起きなさい、朝よ!」
「うひゃあー!」
か細い声が急に大声に変わると、大吾は両目をぱっちりと開け、ガバッと起き出した。
「何?何?今の声、誰?」
大吾はあたりをキョロキョロ見回すと、やはり人影すらない。外は雨がやんでおり、月明かりが窓を通して部屋の中を明るく照らしている。
(部屋の外から、ママが呼んでいるのかな?)
大吾はそう思いながらベッドからおりて足早に部屋を出ようとする。ちなみにここでのママはセレンのことである。
「・・・ここよ、ここ。後ろを向いてごらんなさい。」
さらに再びか細い声が聞こえると、部屋のドアの方を向いていた大吾はそーっと後ろを振り返る。
すると先ほどは見えなかったが、学習机の側にある椅子に腰掛けている一人の女性の姿があった。見た目からして、年齢は20代後半といったところか。
「・・・大吾。」
笑顔の女性が大吾の名前を呼ぶ。しばし大吾はその場でぼう然とする、そう、毎日写真で見ている女性・・・大吾の実の母親である弥生であった。細身の体、黄色いカーディガンに紫のスカートそして何よりトレードマークであった純白のエプロン・・・間違いない、確かに弥生である。そして、その弥生が大吾の方を見てにっこりと笑っている。
「・・・ママ・・・本当にママなの?・・・夢じゃ・・・ないよね。」
「・・・・。」
大吾の問いかけに対して、女性はコクリとうなずいたその瞬間、大吾は確信する。
「ママー!!」
一目散に走り出し、椅子に座っている女性すなわち弥生に勢いよく飛びつく大吾。そして、弥生はしっかりと大吾を受け止めると、そのまま強く抱きしめる。
「うわーん!ママー、ママー、会いたかったよぉ!」
「私もよ、大吾・・・。」
弥生はうれし泣きをする大吾をそっと自分の膝の上に乗せるように優しく抱っこをする。そして、その目からは涙がこぼれていた。
伝わってくる温もり・・・本当に夢じゃない・・・死んだはずのママが今ここにいる・・・大吾はそんなことを思いながら自分の体を弥生にゆだねるのであった。
するとここで、部屋のドアの外からパタパタとこちらへ向かって大きな足音が聞こえてきた。
バターン
ノックもなしにドアが思い切り開くと、
「何かあったの、大吾!」
ドアの開いた先にはセレンが血相を変え、息づかいが荒い状態で現れた。どうやら、就寝中に大吾の大声に反応してこちらに来たらしいが、少し動揺してたのか、反応してから来るまでの時間は多少掛かっており、着ている薄オレンジ色のパジャマの襟元がかなり乱れていた。
「・・・ママ。」
大吾はセレンの大声にびっくりして抱っこされている体を硬直させたままセレンに向かってそう言うと、セレンはその声が聞こえる方をバッと見て、
「・・・・!!」
セレンの顔が驚きの表情に変わる。それも当然であり、こんな夜中に大吾の他にもう一人の人間がいるからである。最初は変質者が入ってきたと思ったが、大吾の様子をみてそうではないと察するセレン。しかしながら、大吾の側にいるあの女性はいったい誰?でも・・・どこかで見たことある、それもほぼ毎日・・・。セレンは、自分もまた立ちすくんだまま自問自答を繰り返していた。すると、
「はじめまして、セレンさん。」
「えっ?」
弥生は椅子から大吾を抱っこしたまま立ち上がり、セレンに向かって一礼する。そして、セレンはそんな弥生の様子を見て少し戸惑っている。
「大吾がいつもお世話になってます。」
「えっ?えっ?大吾がお世話になってるって・・・あ!ま、まさか・・・そんな・・・もしかして・・・。」
セレンは何かを思い出した顔をする。そう、1階の和室の仏壇そして、2階の大吾の部屋にある写真の女性が鮮明に頭の中に浮かんできたのである。
「そうです。私は大吾の母親の弥生でございます。」
そう言って再度一礼する弥生に対し、セレンは驚愕する。
「えー!えーー!!えーーー!!!」
セレンは母国からこの国に来てから今まで、いや、生まれてからずっと発したことがないのではないかと思わせるくらいの大声をあげると、そんなセレンを
見て大吾は驚いて目をぱちくりさせ、弥生はクスクスと笑い出した。
「ウフフフ。まあ、それだけ驚かれても無理はないでしょうけどね。」
「・・・本当に大吾のお母様?夢じゃないですよね・・・。」
「はい。夢ではありませんよ、セレンさん。」
「うーん・・・本当かなぁ。じゃあ、試しに・・・。」
セレンはそう言うと、その場で自分で自分の頬をつねりあげた。
ギュイ
「いったーい!」
当然ながら、セレンは痛みに大声をあげる。
「プッ、アハハハハ。」
今度は大吾が大声で笑い出す。
「もう、大吾ったら!」
セレンは恥ずかしそうな顔をして頬をさする。そして、再び弥生が話しかける。
「驚かしてしまって申し訳ありません。」
「え?あ、いや、こちらこそ・・・とんだ失礼をしまして、何て言ったらいいか・・・。」
「まあ、私がここにいる理由も含めましていろいろお話をしたいと思いますので、とりあえずここにでも座りましょうか?」
そう言いながら母親は、大吾のベッドの方へ歩く。
「そうですね、お母様。」
「セレンさん。お母様だなんて、そんなかしこまらなくても・・・。」
「いえ、そう呼ばせてください。大吾にとってはもちろん、私にとっても大切な方ですので・・・。」
「・・・ありがとうございます。じゃあ大吾、これから三人でたくさんお話しましょうね。」
「はーい、ママ!それに・・・セレンママ!」
「フフフ。ママが二人で嬉しい?」
「うん!!」
そんな優しい弥生の言葉に、大吾は満面の笑みを浮かべながら大きな返事をした。



あれから1時間以上が過ぎただろうか、大吾の部屋ではベッドの縁に座る大吾をはさんで右側に弥生、そして左側にはセレンが座っている。この時間での冒頭に弥生が話した内容をここで簡単にまとめてみると、弥生は信じがたいことであるが、いわゆる幽霊だということ。また、この世界に来られたきっかけは不明であるが、おそらく亡くなってから数年目の命日ということでの神のはからいではないかとのこと、そして夜明け前、つまり日が昇る頃には自分はもういなくなるだろうということ。だからそれまで大吾さらにはセレンと時間が許す限りおしゃべりをし、大吾とはさらにスキンシップをはかりたいとの思いを打ち明けた。
そしてそれから、大吾は弥生の思いにこたえるべく、弥生の横にぴったりとくっつきながら、いろいろとおしゃべりをするのであった。小学校のこと、友達のこと、先生のこと、海外で働いている父親のこと、そしてもちろんセレンママのこと、時折セレンも話の輪に入り楽しい時間がしばらくの間続いていた。興奮して眠気がすっかり消えたのか笑いの絶えない大吾と弥生・・・その側でセレンもまた笑みを浮かべてその様子を見ているが、
(やっぱり・・・実の母親の方がいいわよね・・・)
こんなことを考え、思いっきりブルーになってしまうのであった。
「それにしても大吾は大きくなったわねぇ、今何センチなの?」
「うん。今、135cmくらい。でもクラスでは低いほうだけどね。」
「そっか。でもこれからもっとグングン伸びるわよー。あと30cm伸びればママに追いつくし、さらに10cm伸びればパパだって越えちゃうんだから。セレンさんには・・・まあ努力次第かな。」
そう言いながら笑顔でセレンの方を見る弥生。セレンも思わず笑みをこぼす。ちなみにセレンの身長は185cm前後である。
「僕、あと何年かしたらママより背が高くなるからね、絶対!」
「うんうん。その意気その意気。」
そう言いながら大吾の頭をなでる弥生。それに照れたような顔をする大吾。そんな話が続く中、いつの間にか取り残されてしまい、ただただ二人の話だけを聞くだけになってしまったセレン。心なしか寂しげな感じもうかがえる。
しかし、ここで大吾およびセレンにとって全く思いもかけないことが弥生の口から言い放たれることとなるのだった。
「さて、ここで楽しいおしゃべりは少しお休みにして・・・大吾!」
「・・・へ?」
「・・・・!」
弥生は急に態度をかえ、一変して厳しい表情になったのを見て驚く大吾そしてセレン。
「ママはいつも見ているのよ。確かに大吾はいい子でいる方が多いけど、たまにセレンさん・・・いや、セレンママを心配させたり、お約束を破って困らしたりしてるのをね。」
「・・・・。」
「・・・・。」
「まあ、セレンママもその時は大吾を叱って厳しくお仕置きしているし、大吾もきちんと反省しているけど・・・私にとっては実のところ満足してないの。大吾の産みの親としてはね。」
「・・・・。」
「・・・・。」
「だから・・・これから私が大吾にお仕置きをします!」
「・・・・!」
「・・・お母様。」
「今ここでたっぷりとお尻ペンペンして大吾にもう一度反省させること・・・つまりそれが実の母親としての責任を果せる唯一の手段だと思うから。」
「・・・・。」
「・・・・。」
「それに・・・もうすでに母親としてのバトンを渡しているセレンママへの大吾の教育を改めて引き継いでもらう意味も含めてね。」
「・・・お母様。」
「・・・・。」
「大吾・・・。あなたはとってもいい子だから、わかってくれるわよね?ママからのお仕置き・・・素直に受けられる?」
ここで大吾の母親は表情は厳しいままであるが、優しい言葉でもって大吾に問い掛ける。すると、
「・・・うん。」
大吾は覚悟を決めてコクリとうなずく。
「よし、いい子ね。さすが我が子。」
そう言いながら、弥生は横に座っていた大吾の手を引いて、そっと自分の膝の上にうつ伏せにさせる。頭は右側、お尻は左側となり、この体勢で弥生が大吾のお尻を叩けるのは当然、左手となる。
「・・・・。」
大吾はじっと黙っている間、弥生はすぐさまパジャマのズボンに手をかけると、一気に白ブリーフごと膝のあたりまでずり下ろす。そして、目の前には大吾が幼稚園児の頃に比べて大きくなったお尻が丸出しとなる。それを感慨深く見ながら、
「フフフ、お尻までこんなに大きくなって・・・。」
そう一言ポツリともらし、大吾のお尻を優しくなでると、しばらく昔を懐かしむようにそのお尻の柔らかさと温もりを掌に感じるのだった。そして、
「いいこと大吾!これからママは大吾のお尻を30回叩きます。しっかりと反省していい子になって、今後もセレンママの言うことをしっかり聞いて、ママをずっと安心させること!わかった?」
「・・・うん。」
弥生の叱責に対して大吾ははっきりと返事をすると、弥生はスッと左手を振り上げる。
「セレンさん・・・しっかりと見ていてくださいね。」
「・・・はい。」
そしてその様子を、少し間隔を空けて、セレンはベッドの縁に座って真剣にみつめている。
パシン!パシン!パチン!バチン!パシン!
「ひいぃ!ぎぇっ!うひぃーん!」
久方ぶりの弥生からのお仕置き・・・大吾は叩かれるたびに声をあげてお尻をくねらせる。一方、弥生の方もガッチリと押さえつけながら精一杯の力を込めて愛する我が子のお尻を叩いていく。幽霊とはいえやはり大人と小学生の子供、力の差は歴然としていた。
パチン!パチン!パシン!バシン!パチーン!
パシン!パシン!パチン!バチン!パシーン!
パチン!パシン!パチン!バシン!パチーン!
「びぇぇー!ママ、痛いよぅ!」
「何言ってるの!痛いからお仕置きなのよ。セレンママにも言われたことがあるでしょ?」
テンポよくリズミカルにお尻を叩き続ける弥生。この時点で大吾は涙目になり、大声をあげて必死でお仕置きに耐えている。ちなみに弥生の平手打ちの威力は一般女性並であり、セレンに比べると3〜4割程度割引される。しかし、当然ながら今年で10歳になる大吾にとって弥生からのお仕置きは十分脅威的なものであった。
パシーン!パシーン!パチーン!
「しっかり反省しなさい、大吾。」
パチーン!パチーン!パシーン!
「もし、懲りずに何か悪いことしてごらんなさい。そうしたら・・・」
パシーン!パチーン!パシーン!
「ママがすぐにとんできて、今日よりもっとたくさんお尻ペンペンするからね!」
お仕置きも終盤となり、弥生は叱責をはさみながらより厳しくお仕置きする。一方、大吾はその叱責が聞こえているかは不明であるが、ベッド上の毛布をがっちりと掴みながら歯をくいしばっている。そして、
パッチーン!
「ぎゃぴー!」
最後の一打がお尻に打ち込まれ、大吾はかん高い声をあげる。そして目には涙をいっぱい溜め、叩かれたお尻は真っ赤に染まっている。
「はい、これでママからのお仕置きはおしまいよ。」
そう優しい声で弥生が言うと、
「うわーん。ママ、ごめんなさーい!」
大吾はこう言いながらおもむろに弥生に抱きつくと、弥生はしっかりと大吾を自分の胸に受け止める。
「・・・・。」
しかし・・・お仕置きが終わってからも、なぜか弥生は依然として厳しい表情を崩さないでいた。そんな中、そのお仕置きを一部始終見ていたセレンがここでようやく口を開く。
「お母様・・・。」
そうおそるおそる大吾の母親に話しかけると、
「ありがとうございます、セレンさん。」
「えっ?」
「自己満足かもしれませんが、これでようやく母親としての責任が果せたと思います。」
「お母様・・・。」
「これで大吾もさらにいい子になって、安心してセレンさんに託すことができます。」
「・・・・。」
「セレンさんなら、私以上に立派な母親になれると信じています。どうかこれからも大吾をよろしくお願いします。」
「とんでもない・・・私なんかまだまだお母様の足元にも及びません。でも・・・」
「でも・・・?」
「いつか絶対にお母様の期待にこたえられる母親になってみせます。だから・・・これからも私たちを温かく見守って下さい。」
「セレンさん・・・。」
「それに、今のお仕置き・・・すごく参考になりました。これまでも大吾のことを思いながら厳しくお仕置きをしてきたつもりでしたが、まだまだ思いが足りないと自覚しました。これからはお母様のお仕置きする姿を胸に刻んで、よりお母様に近づけるよう努力していきたいと思います。」
セレンは目を輝かせながら母親としての決意を述べる。
「その言葉、嘘ではないですよね?」
「当然です!こんなときに嘘なんか言えるわけありません。」
「そうですか、では・・・早速ですがそれを証明して頂けますか?」
「証明?」
弥生に突然こんなことを言われ、動揺が隠せないセレン。すると、
「大吾。」
「・・・え?」
弥生は、胸に抱きしめられながらもうすでに泣き止んでいる大吾の名前を呼ぶと、大吾はキョトンとした顔をする。
「今度は・・・セレンママからお仕置きしてもらいなさい。」
「・・・・!!」
「・・・・!!」
思わぬ大吾の母親の言葉に仰天する大吾とセレン。しかし、大吾の母親はそれに構わず話を続ける。
「セレンさん・・・その決意を言葉だけでなく、私の目の前で示してほしいのです。」
「しかし、そのために大吾をこれからお仕置きするなんて・・・大吾のお尻はもう真っ赤なのに。」
「大丈夫。以前に大吾はセレンさんのお尻百叩きに耐え抜いたんですもの。心配ありません。」
「でも・・・。」
「セレンさんはさっき私のお仕置きする姿を胸に刻むと言ってくれた。それならば私もセレンさん・・・いやセレンママのお仕置きする姿を改めて胸に刻む必要があるのです。セレンさんを大吾の真の母親として認めるために・・・。」
「お母様・・・。」
すると、こんな会話が続く中で先ほどまで弥生に抱かれていた大吾が、弥生から離れてベッドの上をよつんばいの格好で歩きながらセレンの方へと向かう。
そして、膝のあたりで衣服が絡んで真っ赤なお尻を出した状態のまま、ベッドの縁に座っているセレンの膝の上に無言で自分からうつ伏せになった。
「大吾・・・!」
「・・・・。」
そんな大吾の行動に動揺を隠せないセレン。しかし、弥生はその行動を見て、大吾の思いを察知した。
「セレンさん。大吾もセレンさんを改めて自分のママと認めたいみたいですよ。」
「え!」
「大吾は本当にセレンママが大好きなのね。そうでなかったら、自分からお仕置きされようなんて絶対思わないからね。」
「・・・・。」
「さあ見せてください、あなたの決意を。あなたを心から慕う人たちのために・・・。」
「・・・わかりました。」
セレンは何かふっきれたような顔をしてそう言うと、自分の膝の上にうつ伏せになっている大吾の体を、自分が大吾のお尻を叩きやすくするため調整する。そして左手で大吾の背中をしっかりと押さえて身動きがとれないようにすると、右手を大吾のお尻の上にそっと置く。ついさっきまで叩かれていた真っ赤なお尻の熱がセレンの体中に伝わってくる。
フーーーーッ・・・
ここで、セレンは深呼吸を1回する。これまでで一番緊張して行なうお仕置きであろう、額から汗がにじみ出ている。そして、大吾もまた緊張して体を震わせていた。
「・・・・。」
「・・・・。」
一時の沈黙、そのかたわらで弥生が息を飲んで見守っている。すると、大吾のお尻からセレンの右手がはなれ、そのまま高々と振り上げられる。大吾は次にくる衝撃に備え、毛布をしっかりと両手で握りしめていた。そして・・・その手が振り下ろされ、お仕置きが始まるのだった。



あれから、さらに2時間が経過した。
大吾の部屋では、セレンの厳しいお仕置きを受けてつい先ほどまで大泣きしていた大吾が、ベッドの縁に座る弥生の膝の上にうつ伏せになっていた。そして、弥生はお仕置きが終わってからずっとずっと大吾のお尻を優しく丁寧になで続けている。一方、セレンはというと、弥生の右隣に座り、大吾の頭だけを自分の膝の上に置き、いわゆる膝枕をしてあげながら、大吾の頭をこちらもまた優しく丁寧になで続けている。つまり弥生とセレンの膝の上に大吾はうつ伏せになって寝そべっている格好となっている。そして大吾はというと、ほとんど寝てなかったことやセレンのお仕置きで散々泣き喚いて疲れたのか、まるで死んだかのようにぐっすりと眠っている。
バシーン、バチーンと部屋中にお尻を叩く音が休むことなく響くこと30回。それに加えて泣き叫ぶ大吾の声。さらに、最後まで言葉を発せず全力でお尻を叩き続けたセレンの沈黙・・・この3つの要素が混ざり合い、まさに全身全霊を込めたセレンから大吾へのお尻ペンペンのお仕置きであった。
また、弥生はそのあまりのお仕置きの凄まじさに瞬きをせずに、じっとセレンが大吾をお仕置きする姿を目に焼き付けていた。お仕置き自体はほんの数分で終わったが、大吾と弥生には数時間のように感じるくらいの迫力であった。
そしてその結果、大吾のお尻はというと・・・真っ赤を通りこして無残に赤黒く腫れ上がっていた。
しかし、そんな目にあいながらも、お仕置き後に大吾は、
「ママ・・・ごめんなさい・・・。」
セレンの膝の上で泣きながら搾り出すようにそう言うと、
その大吾の言葉を聞いたセレンは感極まり、目から大粒の涙をポロポロと流してしまうのであった。
その後、弥生の方から大吾のお尻のケアをすると名乗り出て、今の行動に至っており、セレンはそのサポートにまわっている。そして、眠っている大吾を除いた母親二人による会話が和やかムードの中で延々と続いていた。
「うーん、それにしてもさっきのセレンさんのお仕置きは凄かったなぁ。」
「そんな、お母様。私はただ、無我夢中で・・・。」
「いやほんと、あれなら誰だっていい子になると思いますよ。私だったら絶対お仕置きされたくないですもの。」
「・・・すいません。」
「謝る事はありませんよ。あれはセレンさんが大吾をとても大事に思っているからこそできることなのですから。」
「・・・はぁ。」
「いやはや、うちの旦那も内外問わずによくこんな素晴らしい女性を見つけたものです。元妻として誇りに思うくらい。」
「そんな・・・。」
「まあ、それが一番よくわかってるのは・・・この子だけどね。」
弥生はそう言うと、大吾の寝顔をまじまじと見つめる。
「ウフッ、可愛い寝顔。幼稚園児のときと少しも変わってないわ。」
「・・・本当に可愛いですよね。」
「こんな可愛い子をあれだけ厳しくお仕置きできるんだから・・・セレンさんはもう立派な母親ですね。」
「え、そんな・・・私なんかまだまだ・・・。」
「さっきも言いましたでしょ。それも含めてわかっているのは、大吾だってこと。大吾は最初からあなたを母親として慕っていますから、どうか自信を持ってください。」
「お母様・・・。」
「私にはもう時間がありません。そんな自信のない表情をされると帰るに帰れないです・・・。」
「・・・・。」
「大吾のこと・・・よろしくお願いします。」
そう言いながら弥生はふかぶかと頭を下げる。それを見たセレンはキリッとした表情になり、
「こちらこそよろしくお願いします。大吾のことは私に任せてください。」
こう断言してセレンもまたふかぶかと頭を下げた。
「ありがとうございます・・・あ、そろそろ時間が来たようですね。」
外はもう夜明けを迎えようとして、だんだんと明るくなってきていた。
「では、最後にもう一仕事・・・。」
弥生は大吾のお尻をなでる手を一旦止めると、その手から青白い光が放たれた。
「・・・・!!」
セレンは絶句してしばらくその様子を見ていると、
「はい、終わりました。」
そう言って弥生は大吾のお尻から自分の手をそっと離す。
「お母様・・・。今、何を・・・。」
「これで大吾が目が覚めた時、お尻の痛みだけはすっかりと消えているはずです。」
「えっ、本当ですか!」
「はい。でも、このお尻の赤みはそのままです。まあ、2〜3日で自然に元に戻るでしょうけど、若いですから。」
「へぇ・・・不思議なことができるんですね。」
「まあ、原理は秘密です。ていうか私自身もよくわかっていませんけど・・・フフフ。」
「ハ・・・ハハハ。」
セレンは弥生の摩訶不思議さに苦笑いをする。
「あれ、セレンさん。何か元気がなくなったように見えますが・・・。」
「い、いえ、そんなことないです。これで大吾は今日も元気に学校に行けるなって思ってただけですけど・・・。」
「ひょっとして、大吾がお尻が痛くて苦しむようだったら・・・学校を休ませて、ずっと側にいてあげようと思っていたとか?」
ギクッ
「そして、昼食と夕食は大吾の大好物ばかり並べて、甘い雰囲気の中で食べようとか?」
ギクギクッ
「さらに今日の夜は、一緒にお風呂に入った後、二人で仲良く寝ようとか?」
ギクギクギクッ
弥生の意地悪っぽい質問に明らかに動揺しているセレン。セレンは額からの汗を拭いながら、
「いやだお母様ったら・・・そんなこと私は別に思ってな・・・」
「私はこれまで何度も見ているのですよ。大吾へのお仕置きから、その後の手厚すぎるくらいのケアまでね。」
「・・・・。」
ここでセレンは恥ずかしそうに顔を赤らめて下を向いてしまう。
「まっ、セレンさんをからかうのはここまでにしましょう。それだけ大吾を愛してくれているんですからね。実の母親としては嬉しい限りです。ただ・・・」
「・・・ただ?」
「ほどほどにして下さいね。あれだけ見せつけられると・・・こっちが羨ましくなりますから。まあ、無理でしょうけど。」
「・・・どうもすいません。」
「いえいえ。あまりに仲が良すぎるんで少しいじめたくなっただけですから。」
「んもう、そういう意地悪な面は大吾そっくりです!」
「そうですか、フフフフフ。」
「アハハハハ。」
腹の底から大声で笑う二人。一方、大吾はそんな声を気にせず眠り続けている。
「それじゃ、私はこれで・・・。」
弥生は膝の上で眠っていた大吾をそっと抱き上げると、隣にいるセレンにあずけ、その場に立ち上がる。そして、セレンもまた大吾を胸に抱きながら立ち上がり、弥生の側に寄った。
「さようなら、セレンさん。機会があったら、また会いましょう。」
「はい、ありがとうございます。お母様!」
弥生はセレンに抱かれている大吾の頭をなでる。すると、だんだんと弥生の姿が薄くなっていく。そして最後に満面の笑顔を見せると、そのままスーッと大吾の部屋から消えていくのだった。辺りは急に閑散とした雰囲気に包まれ、セレンはスヤスヤと眠ってる大吾を抱っこしながら、その場にたたずんでいた。
(お母様・・・。私、頑張ります。)
再びそう決意しながら・・・。



ジリジリジリーン
「うわっ!」
チン・・・
そして朝になり、いつものように目覚ましが鳴って大吾はバッと飛び起きた。
「あれ、もう朝・・・あ、そうだ!ママはどこ?」
すると大吾は部屋中をキョロキョロし出す。しかし、当然ながらすでに弥生の姿はなかった。
「あれれ?僕、やっぱり夢でも見てたのかなぁ・・・いや、待てよ。」
大吾は何を思ったのか思いっきり自分のお尻を両手でガッチリと掴む。すると、
「痛く・・・ない。全然痛くない!変だなぁ、あれだけ叩かれたのに・・・。」
大吾はさらに訳がわからなくなり、その場でしばらく首をかしげる。
「うーん。本当に夢だったのかな?でも、夢にしてはリアルだよなぁ・・・ママにいっぱい甘えた後、今度は散々ママにお尻ペンペンのお仕置きをされたし、それからセレンママに・・・」
ここまで独り言を言いかけた時、大吾はハッとする。
「そうだった!」
そう叫ぶやいなや、部屋を飛び出して階段を駆け降りる。そして、急いでリビングへと向かった。
「あら?おはよう、大吾。今日は少し遅いのね。」
そこにはすでに朝食の支度をしていたセレンの姿があった。
「まあ、どうしたの?そんなに血相を変えて・・・何かあったの?」
セレンは少し驚いた顔で大吾にそう言うと、
「ねえ、ママ。来てたよね?」
「え?来てたって誰が?」
「僕の死んだママだよ。夜中に僕の部屋に来てたよね?それにママもその後部屋に入ってきて・・・。」
「もう、何言ってるの?落ち着きなさい。」
「え、でも、だって・・・。」
「来るわけがないでしょ。もう、まだ寝ぼけているの?」
「へ・・・そうなの?」
「そうよ。」
「・・・そっか、やっぱり夢だったのか・・・ふぅ。」
大吾はガクッと力が抜けたようになり、深いため息を漏らす。
そして、そんな大吾を見て、セレンは不敵な笑みを浮かべると、
「来たんじゃなくて・・・ここにいるんでしょ?」
「えっ!」
意味深なセレンの言葉に大吾は思わず驚きの声をあげる。
「・・・お母様は、いつでも私たちの側にいるわ。私たちを温かく見守るためにね。」
「え、あ、あ・・・。」
「今すぐ鏡で自分のお尻を見てきなさい。それが証拠よ。」
「え、あ、うん。」
ぎこちない返事をし、颯爽と風呂場に向かう大吾。そして、
「あーーーーっ!!」
鏡に映っている自分の赤黒く腫れ上がっているお尻を確認し、大吾はびっくりしてその場にへたりこむ。
「ね、そうだったでしょ?」
「・・・うん!やっぱり僕、ママにお仕置きされてたんだ。」
あとからついてきていたセレンの言葉に大吾は元気よく返事をする。
「ウフフ、お仕置きされたくせにそんな嬉しそうな顔して。」
「エへへへ。」
「でも、お母様は優しいわね。お尻の痛みだけは持って帰ってくれたんだからね。」
「へえ、だからお尻が痛くなかったんだ・・・何だか不思議な感じだね。」
「そうね・・・。」
セレンと大吾は、感慨深げにあの夜の出来事を振り返る。すると、
「いけない、もうこんな時間。学校に遅刻しちゃうから早く朝食食べなさい。そのあと、すぐにママがお尻にお薬塗ってあげるから。」
「えー、お薬はいいよ別に。全然痛くないし・・・早くしないと本当に遅刻しちゃうしぃ。」
「だめよ!それだったら朝食を食べずにお薬だけママに塗らせなさい!」
「そんなー。お腹すいてるし、いやだよぉ・・・。」
「ママの言うことを聞かないとお仕置きよ!」
「えーーっ!」
母子でこんなドタバタした会話が交わされた後、結局大吾は朝食後にお薬を(無理やりセレンの膝の上にうつ伏せにされながら)塗られ、身支度を整えてから玄関に向かう。
「じゃ、いってきます。ママ。」
大吾はこう言って、今や恒例となった「いってきますのチュー」を見送りにきたセレンの頬にすると、
「大吾。」
「何?」
「学校から帰ってきたら、お母様のお墓参りに行きましょう。」
「うん!わかった。」
大吾は、にっこりとしながら返事をして学校に向かって走っていくのであった。



外は快晴。梅雨の中休みとでもいったところだろうか、青空には小鳥が楽しそうに空を飛びまわっていた。