継母(ままはは)との絆B(夏風邪)


「37度・・・6分ね。」
本格的な夏を迎え、すがすがしい朝日が昇るある日の朝、セレンは大吾の顔色がいつもと違うことを察し、大吾に体温を測らせてその体温計をまじまじと見つめていた。
「だ、大丈夫だよ、ママ。ほら、これだけ動けるし・・・。」
大吾はその場で体操し、体を動かしてみる。
「ダメよ!少しフラフラしてるじゃない・・・今日の学校はお休みです!」
「えー!」
「えー、じゃないの。無理してさらに悪くしたらどうするの?」
「・・・・。」
「今日はプール授業で行きたい気持ちはわかるけど、それこそそんな状態で水の中に入ったら・・・ね。我慢しなさい。」
「・・・うん。」
「じゃあ、これから学校に連絡するからね。」
そう言ってセレンは電話をするため、早足にリビングから出ていった。
(うー。プール・・・楽しみにしてたのにぃ)
大吾はため息をつきながら椅子に座り、用意してあった朝食をぼそぼそと食べ始めた。その様子から相当落ち込んでいるのが見受けられる。
しばらくしてセレンが戻ってきて、
「学校にはとりあえず1日休むって言っておいたから、ごはんを食べたら部屋でゆっくり寝ていなさい。」
「・・・うん。」
セレンの言葉に大吾は元気なくうなずいた。



(暇だなぁ・・・)
しばらくして、大吾はセレンの言うとおりに自分の部屋のベッドに横になる。しかし、十分に睡眠をとっていた大吾は眠ることができずただ右に左にと小刻みに寝返りをうって気を紛らわしていた。
ガチャ
するとそこにセレンが部屋のドアを開けて入ってきた。
「はい、かぜ薬。とりあえずこれを飲みなさい。その様子だと病院にはいかなくてもいいみたいだしね。」
「・・・うん。」
セレンは薬とコップの水を起き上がってきた大吾に差し出すと、大吾の勉強机の横にある椅子に腰掛ける。そして大吾は、すぐさま受取った薬を一気に飲み込む。
「ママ、これから色々用事をすませなきゃいけないから側にいられないけど、もし具合が悪くなったり何かあるときはすぐに呼んでね。」
「うん。」
「あ、そうそう。お昼は簡単なもので済まそうと思うけど、午後から買い物に行ってくるから食べたいものがあったら遠慮なく言うのよ。ママ、何でも作ってあげるから。」
「え、本当に?」
「もちろんよ。だって早く大吾には元気になってほしいもの。だから、今日はおうちでいい子でいるのよ。」
「うん!」
ようやく大吾の顔に笑みが戻ってきた。その大吾の表情を見てセレンもまた笑みを浮かべると椅子から立ち上がり、
「じゃ、後でね。」
そう一言いって、大吾からコップを受取ると大吾の部屋を後にした。
(うーん。何を食べようかなぁ・・・)
今日の楽しみができた大吾は再びベッドに横になり、顔をにやつかせながらお昼までずっとこんなことを考えているのであった。



「それじゃ、行ってくるわね。1時間ぐらいで帰るから、それまでお留守番お願いね。」
昼食後しばらくたってからセレンは、こう大吾に伝えてから買い物へと出掛けていった。そして、大吾は午前中同様、ベッドの上にいた。一応、目はつむっているが眠っているわけではない。薬が効いてきたのか体の調子は大分よくなってきている。
(ああ、今ごろ学校は5時間目か・・・みんなプールに入ってるんだろうなぁ)
再び学校のことを思い出し、大吾はまたブルーな気分になってしまう。
(ふぅ。このまま寝ててもつまらないなぁ・・・あ、そうだ、漫画でも読もうかな。TVゲームならともかく漫画を読むくらいならママも怒らないと思うし・・・)
気分を少しでも紛らわすため、大吾は起き上がり漫画本を取りに本棚の前へと向かう。すると、
「あーーーー!!」
大吾は何を思ったのか、いきなり大声で叫び出す。
「そうだ!今日だっけ、ドラゴンピースの発売日。」
[ドラゴンピース]・・・大人子供関係なく大人気であり、アニメ、映画化にもなっている漫画のことである。一時期社会現象を巻き起こしたこともあり、
当然、大吾の通う小学校でも流行している。ちなみにこの漫画の単行本はこれまで第14巻まで発売しており、ファンの一人である大吾は当然のごとく全巻
揃えている。そして今日、その本の最新刊である第15巻の発売日であった。
さらに大吾には一つのこだわりがある。それはすなわち「発売日に買う」ことである。学校での話題に遅れないためもあるのだろうが、大吾は2年前にこの漫画が単行本化されてからずっと、このこだわりを守りつづけている。だが、
大吾にとって今回の状況はかなり厳しいものであった。普通であれば、放課後に本屋へ行くことができるのだが、今日は学校を休んでいる。さらに、病院には行かないのでついでに本屋に寄って買うという行動もとれない。
(うーん。どうしよう・・・)
悩む大吾。その場で腕組みをしてじっと考える。
(携帯に電話してママに買ってもらおうか・・・でもなぁ、今日はこれ以上ママに迷惑掛けたくないし・・・)
セレンに頼む案も大吾の脳裏に浮かんだが、自分が風邪をひいて心配させてしまったこともあり、大吾の中でこの案は即却下された。そして、いきついた先は、
(うん、やっぱり自分で買いに行こっと!ママには内緒で。)
大吾はそう決断し、頭の中のコンピュータが綿密に作動し始める。
(ママが買い物に出て30分つまり帰ってくるのは早くてあと30分後、そして家から一番近くの本屋は歩いて往復30分・・・ギリギリかぁ。そうすると、交番近くのコンビ二・・・あそこなら往復15分かからない。でも、入荷数は本屋より少ないからもう売り切れてるかも・・・いや、でも今日はそこにいくしかない)
セレンが帰ってくる前にいかにして本を買ってこれるかを子供なりに必死で考えた末にようやく結論を出し、大吾は早速行動を開始する。
(よーし・・・)
大吾はパジャマから水色のトレパン、トレシャツに着替え、顔を隠すようにマスクをする。そしてお金の所持を確認してから玄関のドアをそっと開け、すぐさま鍵を掛けてあたりを見回しながら颯爽と走り出すのであった。



「はあ・・・はあ・・・。」
それから12分後、大吾は少し息を切らしながら、手にコンビニの袋を抱えて自分の家の前に戻ってきた。幸い目当ての本が見つかり、なおかつセレンにはもちろん知り合いにも遭遇する事がなかった。まさに大吾の計算通りである。
(ママ、まだ帰ってきてない・・・よね)
大吾はおそるおそるドアノブに手を掛ける。すると出た時と同じ鍵が掛かっている状態のままであった。セレンは自分が家にいて大吾が学校等で家にいないときは、大吾が帰ってくるまで玄関の鍵をかけないため、これにより、まだセレンが買い物から帰ってきていないと大吾は確信する。
ガチャ
大吾は鍵をあけ、ゆっくりとドアが開かれる。
「ふー、やれやれ・・・」
大吾は小声でこう言いながら、ホッとした表情をする。するとそのとき・・・
「お・か・え・り。」
「・・・・!!!」
大吾は驚きに驚いてその場に尻もちをつく。
「え!ママ・・・どうして?」
「ウフフフ・・・。」
そこには、大吾の計算ではまだ帰ってきていないはずのセレンが満面の笑顔をして玄関で仁王立ちしていた。白系のキャミソールにデニムのショートパンツ、それにピンクのエプロンを着けた格好をして。
大吾の頭はパニックになる。セレンの行きつけのスーパーから家まで徒歩で往復すると少なくとも40分はかかる。それに買い物の時間を入れると1時間前後となり、まさにセレンの予告した時間となる。しかし今回はセレンが買い物に出てから45分もたっていない。
「どうしたの、大吾?泡くったような顔して。」
「え、あ、その・・・。」
「ねえ、今大吾が思っていることを当ててみましょうか?どうしてママがこんなに早く買い物から帰ってきているんだ・・・でしょ。」
ギクッ
セレンの言葉に大吾はさらに動揺する。
「図星のようね・・・じゃあその答えは大吾のお部屋に行ってから教えてあげる。それに・・・」
「・・・それに?」
「ママも大吾がお留守番する約束を破った理由をじっくり聞きたいしね。」
ギクギクッ
セレンがにっこりしながら大吾を見てそう言うと、大吾の心臓がさらにドキドキし、額から汗が滲み出ている。大吾には見えている・・・セレンの笑顔の影に潜む阿修羅のような怒り顔がはっきりと・・・。
「さっ、行きましょう。」
セレンは尻もちをついている大吾の手をつかんでそっと起こす。そして、そのまま強い力で大吾を家の中へと引張っていくのであった。



「さっ、理由を言ってごらんなさい。なんでこんなことをしたの?まあ、事と次第によっては許してあげなくもないけどね。」
「・・・・。」
エアコンをつけてだんだんと涼しくなっていく大吾の部屋の中では、椅子に座るセレンとそのセレンの膝の上にうつ伏せにされ、トレパンとブリーフを膝のあたりに絡ませてお尻を丸出しにされている大吾の姿があった。ちなみに、セレンは自分がなぜ早く家に帰ってこられたのかを部屋に入った直後に大吾に教えている。買い物の帰りにたまたまお向かいの奥さんに会い、そのまま車で送ってもらったという至って単純なことであった。それを聞いて大吾はただぼう然とし、そんな大吾をすぐさまセレンはこの体勢にしてしまったのである。
セレンの尋問にしばらく黙っている大吾。まだ笑顔を見せているセレンであったが、少しずつこめかみに青筋が浮かんでくるのがはっきりとわかり、もう自分の感情が隠しきれなくなってきている。
(絶対何言っても許してもらえる状況じゃないじゃん!)
大吾は心の中でセレンにつっこむ。もうセレンの膝の上には自分のお尻がさらけ出されている。確かに誰がどう考えてもお仕置きを回避できるようには見えない。
「言いなさい、大吾!言わないとただじゃおかないわよ!」
(言ってもただじゃすまさないくせにー!)
大吾は再び心の中で叫ぶ。しかし、このまま黙っていても火に油を注ぎかねない事が十分予測されるので、大吾は覚悟を決めて正直に話すことにした。
「・・・ふうん。ほしい本を発売日にねぇ。」
大吾が全て話した後、セレンはポツリとこう言いながらため息まじりの息を吐く。
「でもそれだったら、何でママにその本を買ってきてって言わなかったの?」
おそらくしてくるだろうと予想できたセレンの質問に対し、大吾は、
「だって、ママにこれ以上迷惑掛けたくないし・・・。」
大吾は正直な思いをセレンに言う。すると、
「そっか・・・そういうことか。」
セレンは少し納得したような表情をし、大吾のお尻を撫ではじめた。大吾の心中に緊張の糸が走る。
「大吾は本当に優しい子。母親として誇りに思うわ。だけどね・・・。」
こうセレンは大吾に言うと、大吾のお尻を撫でていた手をピタリと止める。そして、
「何を考えてるの、この子は!」
「・・・・!」
突然セレンは大声をあげ、大吾は思わずビクッとする。セレンの顔が徐々に紅潮していく。
「熱を出して具合の悪い我が子からのお願いが何が迷惑なもんですか!子供が何でそんな遠慮なんかするの!」
「え・・・でも・・・。」
「でもじゃありません!そのためにコソコソとこんな事したりして!!」
「ひぃっ!ママ、ごめんなさいっ!!」
「ダメです!!!」
バチーン!
「びぃぃ!」
全く前兆も予告もなくセレンの平手打ちが大吾のお尻に炸裂する。
「どんな理由があれ、ママとの約束を破る子は絶対許しません!」
バチン!バチッ!バシン!バシン!バチン!
バシッ!バシッ!バチン!バチン!バシン!
バチン!バシッ!バチッ!バシン!バチン!
今度はしっかりと手を高く振り上げ、セレンはとびきり力をこめて大吾のお尻を叩く。
「うぎぃぃーっ!ごめんなさーい!ママ、痛いよぉ!!」
「まだまだです!ママにばれなきゃ何をしてもいいと思ってたんでしょ!」
ビシッ!バシッ!バシン!バチン!バシン!
バシン!バシィ!ビシッ!ビシッ!バシン!
バシッ!バチン!バシン!バシン!パチン!
大吾に対して一喝し、病人へのお仕置きとは思えないくらい厳しいお尻叩きを続けるセレン。長い金髪を振り乱し、精一杯の力でもって我が子をお仕置きしている。大吾のお尻はみるみる赤くなり、叩かれるたびにピクピクと動き、明らかに痛そうである。
「うわぁぁぁーん!ごめんなさーい!もう許してぇー!!」
「悪い子の声はママには聞こえません!」
バチン!バチン!バシッ!バシッ!バチーン!
バシッ!バシッ!ビシッ!ビシッ!バシーン!
いつものお仕置きと同じく、大吾は大声で泣き出してセレンに必死に許しを求める。しかし、今回の悪事は故意に大吾がしたことであるため、セレンはそう簡単には許してくれない。まだまだセレンのお尻を叩く手は止まりそうにない。
「悪い子!悪い子!」
バシーン!バシーン!バチーン!
「悪い子!!悪い子!!」
バシーン!バシーン!バチーン!
「ほんっとーうに悪い子!!!」
バシーン!バシーン!バチーン!
「びぇぇぇぇぇーん!うぇぇぇぇぇーん!」
セレンからのまさに地獄のお仕置きに大吾はただただ泣き続ける。
そして、50回ほど叩いたところでセレンはやっとお尻を叩く手を止め、大吾をそっと膝から下ろす。すると大吾は床にひざまずき、自分のお尻を手でさすりながら泣いている。いつもだったら膝からおろす前に、大吾の真っ赤に腫れ上がったお尻を時間を掛けて優しく撫でてやるのだが、今回は違う。セレンはお仕置き後も非情であった。
「大吾!」
ビクッ
セレンの怒声に大吾の泣き声がピタリと止まる。
「ママがいいと言うまでお尻を出したまま反省しなさい!」
「・・・・!」
今まで言われたことない命令に対して大吾は無言になり、体を硬直させる。そんな大吾の様子を見て、セレンは立ち上がり部屋のドアの方に向かって歩き出す。すると途中で床に置いてあるコンビ二袋すなわち今回のお仕置きの原因となった本の入っている袋を拾い上げ、
「こんなもの・・・ママが捨てちゃいますからね!」
「・・・え!そ、そんなぁ・・・。」
セレンの更なる非情の言葉に大吾は「それはないよ」という顔をしておそるおそる口を開く。すると、
「何?何か言いたい事でもあるの?あるんだったらもう一度ママのお膝の上で聞いてあげるけど。」
冷めた目をしてセレンは大吾にこう言い放つ。
「・・・・何でもない・・・です。」
結局、大吾はセレンの威圧に負けて反論はできなかった。
バターン
セレンは思いっきりドアを閉め、部屋を出ていった。ドアの閉める音の大きさからセレンの怒りがまだおさまっていないのがわかる。
「ぐすん、ぐすん。うぇぇぇーん。」
一人になり、大吾は再び泣き出した。床に倒れこみ、真っ赤なお尻を出したままで・・・。
風邪、そして体温以上の熱をもっていると思わせるほどの真っ赤なお尻とその痛み、さらにはいつもと明らかに異なるセレンの怖さにブルブルと体を震わせながら、ひたすら泣き続けた。



それから何時間が過ぎただろう。
大吾は泣きつかれたのかいつのまにか眠っていたようであり、ようやく目を覚ます。窓の外は暗く、月もぽっかりと浮かんでいる。
「う、うーん・・・。」
大吾はうつらうつらの状態で体を起こそうとすると、
ズキーン
「い、痛ーい!」
お尻に鋭い痛みが走る。当然さっきまでお仕置きされたお尻はまだ癒えているはずがない。
「いたたた・・・。」
大吾は自然と自分のお尻に手がいく。すると、
「あれ?」
大吾は自分のお尻の上に何か水気のある物体を確認する。
「これは・・・。」
それは、水で濡らされていたタオルであった。そして、さらには自分の頭の下には枕、体にはタオルケットがかけられている。また、お尻の痛みにより気付くのが遅かったが、自分の額の上にも同じような濡れタオルが置かれていた。
「・・・・ママ?」
誰のしたことかは一目瞭然である。大吾はその場にゆっくりと立ち上がり、辺りを見回した。
「あっ!」
大吾は机の上におにぎりと漬物、それに飲み物が入っている水筒を見つけた。そして椅子の上には厚めの柔らかいクッション。さらに・・・
「・・・・ドラゴンピース!」
先ほど大吾に対して、捨てると宣言した本がそれらと共に置かれていた。
「・・・・。」
しばらくじっとその本を両手に取って眺めていると、
ガチャ
部屋のドアの方から音がして大吾は思わず振り向いた。
パタパタパタ
スリッパの音がだんだんと小さくなっていく。どうやら部屋のドアの前まできて様子を見に来ていたらしい。
(・・・ごめんね、ママ。)
そして大吾は、食事をすませるとパジャマへと着替え直し、ベッドではなく再び床に寝転んだ。もうすでに温くなっているタオルを頭とお尻にのせて・・・。



「36度5分ね。」
次の日の朝、大吾は再び体温計で体温を測る。どうやら熱は下がったようであり、セレンもホッとした表情を浮かべる。
「これなら、今日は学校に行けるわね。ところで・・・何でお尻を出しているの?まだ痛いから?」
「へ?だって、ママがいいって言うまでお尻しまっちゃダメだって・・・。」
「そうだったかしら?はいはい、もういいからさっさと学校へ行く支度をしなさい。」
「・・・・うん。」
セレンの態度は昨日に続いて冷たい。大吾が元気になって喜んでいたのも束の間、いまだに不機嫌のままである。そして、大吾のお尻はまだ痛々しいほど赤いのにまったく心配する様子もない。
「・・・いってきます。」
大吾は、自分がまだセレンを怒らせていると感じ、元気なく学校へ向かった。
そして時間が過ぎ・・・放課後、
「・・・ただいま。」
大吾はどうやってセレンの機嫌を直そうか学校にいる間ずっと考えていた。しかしいい案が浮かばず、そのままとぼとぼと元気なく家に帰ってきた。すると、
「おかえりー!」
セレンは家の奥から急いでとんでくると、大吾を抱き上げてその頬に軽くキスをした。これは、普段だったら全く珍しくはないのだが、昨日から今日の朝のセレンの様子から考えると大吾にとっては思いもしないことであった。そこには涼しげな薄オレンジ色の半袖シャツに白のロングスカート、さらにはチェック柄のエプロンを着けたいつもの母親の姿があった。
「大吾、今日学校で具合悪くならなかった?ちゃんと勉強できた?」
「・・・うん、大丈夫。」
「そう?よかったー!」
そう言うと、セレンはさらに大吾を強く抱きしめる。大吾は少し苦しかったが、セレンの機嫌が直ったと思い自然に大吾の顔も笑顔になり、自分からもセレンに抱きついた。しかし・・・事態はさらに急展開をみせる。
「じゃ、早速ママの部屋にいこっか。」
「え?ママの部屋で何するの?」
「お仕置きよ。」
「・・・・!!」
あまりにもセレンがさらりとそんな事を言ったため、大吾は驚きのあまり声が出ない。そんな混乱している大吾を抱っこしたまま、セレンはスタスタと自分の部屋へと向かった。



バチン!バチィ!バシッ!バシン!バチーン!
「ひいぃ!ぎえぇーっ!ぴぴぃっー!」
「もう、勝手に家からいなくなって・・・ママ、もしかして誘拐されたんじゃないかと思って気が動転したんだから!」
ビシッ!バシッ!バシン!バシン!バシーン!
「うわぁーん!ごめんなさーい!」
「もう少し遅かったら、警察に電話してたのよ!」
バシン!バチン!ビシッ!ビシッ!バチーン!
「びえぇぇーん!もうしましぇーん!許してぇー!」
「もうしませんじゃありません!ママをこんなに心配させて・・・こんな悪い子にはまだまだお尻ペンペンが足りません!!」
昨日と同じ、違うといえばお仕置き執行部屋と二人の服装くらいだろうか。今度はセレンの部屋で厳しいお仕置きを受ける大吾。セレンの膝の上にまだ赤いお尻を再びさらけ出し、力強い平手打ちを何度も何度もお尻に浴びる。
ちなみにお仕置き前にセレン曰く、「昨日は悪い事をしたことに対してのお仕置き。そして今日はママを心配させたことに対してのお仕置き」との事であり、だからこそ、昨日のお仕置き後も大吾に対して表面的には冷たい態度を取っていたのである。まだお仕置きは終わりじゃないということを示すために。
バシーン!バチーン!バシーン!バチーン!バシィーン!
バチーン!バチーン!バシーン!バシーン!バチィーン!
「うわぁぁぁぁーん!!」
とても病み上がりの子供に与えているとは思えない激しいお尻叩き。大吾のお尻は昨日と比べさらに濃い赤へと染められていく。赤いTシャツを着てグレーのショートパンツを膝まで脱がされたその少年は、母親の膝の上でただただ泣くばかりであった。
「今度ママをこれ以上心配させるようなことしたら・・・ママ、泣いちゃうからね!」
バッチィーン!バッシイーン!バッチィーン!バッシイーン!ヴァッチィィーン!
最後にセレンは気合と心をこめて大吾のお尻を連打すると、大吾をそっと抱き上げ、自分の大きな胸に大吾の顔が埋まるようにして抱きしめる。
「大吾。これで本当にお仕置きはおしまいよ。すっごく痛かったけどよく頑張ったねー。よしよし、いい子いい子。」
「うえぇぇぇーん!ママー!ママー!」
大吾は叩かれてたとき以上に大きな声で泣き、涙がセレンの胸を覆うエプロンにどんどん染み込んでいく。
昨日50回、今日30回。2日に分けられて行われたお仕置き・・・回数は昨日、威力は今日といったところだろうか、セレンの気持ちが込められた「悪い子へのお尻ペンペン」がようやく終わったのであった。



そしてそれから約1時間の間、大吾はいつものお仕置き後と同じ、いやそれ以上にセレンから赤く腫れあがったお尻をケアされていた。お尻なでなで、お尻冷え冷え、そしてお薬塗り塗りと、セレンは丁寧に優しくそしてゆっくりと時間をかけて我が子のお尻を労わるのだった。
「あ、もうこんな時間。夕食の準備をしないといけないわ。大吾、もうお尻は大丈夫・・・かな?」
「うん、大丈夫・・・。パンツもなんとか履けるし・・・イチチ。」
「あまり無理しなくていいわよ。夕食ができたら呼びに来るから、それまでこの部屋で休んでいなさい。」
「はーい!」
大吾は元気よく返事をすると、セレンは部屋を出て台所へと向かった。
(ふぅ。ママの機嫌が直ってよかった・・・)
大吾は安堵の表情を浮かべながら、セレンのベッドでひと休みしようと思い歩き出す。すると、
「あれ?」
大吾は本棚にある白い紙袋に入ったままの本を目にする。ただ一冊だけ紙袋に入っているので明らかに目立っていた。
「何だろうこれ?」
大吾はその本を手に取る。すると、
「・・・!!」
紙袋を透かしてうっすらと文字が見えたそれは・・・「ドラゴンピースN」、まさに大吾が昨日買いに行ってお仕置きの原因となった本である。
「え?嘘・・・。」
大吾はいそいそと紙袋をあけた。間違いない、あの本である。
「おかしいなぁ。この本は僕の部屋にあるはずなのに、なんでママの部屋にもあるんだろう?」
大吾は首を傾げる。そんな中、今度はその紙袋に書いてある文字に目がいった。
[タツヤ書店]
その書店名を見つけ、大吾はハッとする。
「え!え!まさか!!」
大吾はお尻が痛いのを忘れ、セレンの部屋を飛び出した。ちなみにタツヤ書店はセレンの行きつけのスーパーの隣にある本屋である。それが意味することとは・・・。
「ママー!ママー!!」
大吾は大声でセレンを呼ぶと、セレンはひょっこりと廊下に現れた。
「どうしたの?そんなに慌てて。」
「ママー!!!」
大吾はセレンを見つけるやいなやおもむろにセレンに飛びついた。セレンはその大吾の行為に驚きながらも、大吾の体をしっかり受け止めてそのまま抱っこをする。
「何なのよ、もう。何かあったの?」
セレンは戸惑いながらも、にっこりしながら大吾に問い掛ける。
「・・・ごめんね。」
「え?」
「ママ、昨日は本当にごめんね。」
「んもう、何を改まってるの。大吾の気持ちはママわかっているから、もういいのよ。」
「・・・・。」
「それに、今は夕食の準備しているから、ね。お部屋でいい子に待ってて。」
「・・・・やだもん。」
「え?」
「だって僕、今日はママから離れたくないもん!」
「大吾・・・。」
大吾はさらに力一杯セレンに抱きついた。そんな状況に少し困惑するセレンだが、大吾に甘えられてまんざらでもない様子である。
「こら、わがまま言わないの。そんな子には、これからリビングでもう一度お尻ペンペンよ。」
セレンは大吾を戒めるためにこう言った。もちろんセレンは大吾をこれ以上お仕置きするつもりは全くない。しかし、
「・・・いいもん。」
「え!」
「僕、ママ大好きだから別にいいもん!」
ズキューン
大吾からの想定外の言葉に思わず胸をドキドキさせるセレン。
(可愛い・・・可愛すぎる、できることならこのままずっと抱きしめてあげたい・・・)
そんな思いが交錯する中、セレンは何とか平静を装い、
「しょうがないわねえ。じゃあ、あと10分間だけ抱っこしてあげる。そうじゃないとママも大吾もハラペコで倒れちゃうんだからね。ただし、夕食がすんだら好きなだけママに甘えていいからね。わかった?」
「うん!!」
「ウフフフフ。フンフンフ〜ン♪」
大吾の無邪気な笑顔に対し、セレンもまた笑みを浮かべ上機嫌で鼻歌を歌いながら二人仲良くリビングへと入っていった。



それからセレンの部屋にあったその本は、売られたり捨てられたりすることなく、母子の思い出の品として大切に保管されているそうである。