新任女教師A ぎょう虫検査(F/m)


1月下旬の早朝、堅剛は悩んでいた。
「うーん・・・。」
ベッドの上にあぐらをかき、その目は自分の手に持っているある物をみつめていた。
[ぎょう虫検査キット]
いわゆるぎょう虫の卵の有無を検査するためにお尻の穴に貼り付ける検査用セロファンである。
「くそう、なんで毎年こんな検査があるんだよ!しかもこんな寒い時期に・・・うちの学校はちょっとおかしいんじゃないか?」
堅剛は一人でブツブツと独り言を言い始めた。
「大体、5年生にもなってまだこんなことさせるのがおかしいんだよな。なんでこんなことで毎回母ちゃんにケツの穴をみせなきゃならねえんだ!それにこのセロファンもくすぐったいったらありゃしねえし。」
堅剛の小学校で毎年定期的に行われるぎょう虫検査。3年生までは素直に母親に手伝ってもらっていた堅剛であったが、昨年は羞恥心が芽生えてきたこともあって自力で行ったのだが、上手くいかずセロファンをぐちゃぐちゃにしてしまい母親にかなり怒られたことは記憶に新しい。そんなこともあり、堅剛は母親に手伝ってもらいたくない、かと言って一人でやってまた失敗したらまた怒られて今度はお小言だけじゃすまないという推測が頭の中を駆け巡り、なかなか結論を出せずにいた。すると、
ニャーン
飼い猫の「スパ」(オス)が堅剛の部屋の中に入ってきて、堅剛はピーンときた。
「そうだ!ケツの穴だったら人も猫も同じだよな。」
そう言って、堅剛は側に寄って来た猫を抱き上げ、あぐらをかいている足の上に乗せた。
「へへへ、動くなよ。」
堅剛は猫のお尻の位置を確認すると、セロファンを素早く取り出してそーっと猫のお尻に貼り付ける。
ニャニャン?
猫は一瞬ビクッとしたものの、大して動く事はなく大人しくしていた。普通、猫はデリケートなものであるが、飼い主に似て鈍感なのか?
「よしよし。あ、これってたしか2回やるんだっけな。よーし、もう一回だからいい子にしてろよ。」
そして、再びセロファンを貼り付ける。これもまた、何事もなく作業はすんなりと終わった。
「よっしゃ!これでOK、へへへへ。」
堅剛は一人でガッツポーズをし、猫はスタスタと退散する。しかし、このあまりにも浅はか過ぎる行為が後に大騒動に発展することを堅剛はまだ知る由もなかった。



それから一週間後、小学校のお昼休み。
堅剛は友達と体育館でボール遊びをしている。おそらく次の時間が体育なのか、白い半袖に短パンの体操着姿で寒さに負けず元気に走り回っていた。
ピンポンパンポーン
ここで、校内放送が流れてきた。
「連絡します。5年2組三島堅剛くん、至急保健室に来てください。繰り返します・・・。」
「あれ?堅剛くん呼ばれてるよ、保健室だってさ。」
友達の一人がその放送を聞き、堅剛に話しかけると、
「へ?俺?保健室って何のこっちゃ?」
全く呼ばれている理由に検討がつかないまま、堅剛は小走りで保健室へと向かっていった。
コンコン
「失礼しまーす。」
ガラガラガラ
堅剛は普通にノックをして保健室のドアを開けると開口一番、
「堅剛!!」
「うわっ!」
自分の名前を大声で呼ばれ、思わずしりもちをつく堅剛。なにやら聞き覚えのある声のようだ。
「か、か、母ちゃん!何で学校にいるんだよ?」
「母ちゃんじゃないでしょ!あんた、今度は一体何やらかしたんだい!!」
「はぁ?」
そこには堅剛の母親、保健の先生そして担任の真田千代美の姿があった。
先日行われたぎょう虫検査の結果が学校に伝えられ、その中で陽性陰性うんぬんではなく普通では考えられない検査結果が出た児童が1名いるとの事であった。
「雑菌が多く検出されたらしいの。それも普通人間じゃなくて動物に潜んでいるはずの雑菌がね。三島くん、何か心当たりない?」
「堅剛!母ちゃんに黙って一人でコソコソやってたみたいだけど、ちゃんとまじめにやったんでしょうね?」
「どうなの?堅剛くん。」
三人に問い詰められ、堅剛はもはや素直に答えるしかなかった。
「あ、あのさ・・・へへへ。」
事実を全て話し、堅剛は母親と保健の先生にこってりとしぼられた。床に正座をさせられて説教され、堅剛はただただうなだれて聞くだけであり、そんな堅剛の姿を千代美は少し離れた位置で頬に手を当てて眺めながらフーッとひとつため息をつくのだった。
その後、5時間目6時間目と堅剛は保健の先生監視のもとで保健室内で正座をさせられていた。母親はすでに帰宅し、千代美は教室で授業を行っている。
「ひいぃ、保健のおばちゃん。いつまでやらせるんだよぉ。」
「静かになさい。きちんと反省するまでは許しちゃダメってお母さんに言われてるんだからね。」
「あ、足が痛てぇー。もう限界だよぉ・・・。」
そんなこんなで放課後となり、それぞれのクラブ活動が終わりに近づいた頃、保健室に電話がきたところでようやく堅剛は許してもらった。どうやら電話の主は千代美であり、保健の先生から足をマッサージしてもらってから、音楽室へ来るようにとの指示を受けた。ちなみに堅剛の所属するクラブは音楽部であり、そこの顧問は千代美である。そして数分後、
「三島くん、もうこんな事はしちゃダメだからね。」
「わかってるよ、保健のおばちゃん。マッサージありがとな。じゃ。」
「こら、いきなり走らない。まだ足元がガタガタしてるんだから転んじゃうわよ。」
保健の先生の言葉を背に受けながら、堅剛はその場からすぐに走り去っていった。



ギィー
堅剛は音楽室のドアを開ける。すると、教壇のところで千代美は椅子に腰掛けていた。肩のあたりまで伸びている黒髪、ブラウン系のジャケットにパープル系チェックのロングスカートを身に纏っている若い女性。堅剛の姿に気付き、にっこりと笑っている。
どうやら他の音楽部員は全員帰宅したようだ。
「待ってたわよ、堅剛くん。今日は大変だったわね。」
「大変だったじゃねえよ!災難だぜ、ほんとに。」
「でも、悪気は無かったとはいえ悪いのは堅剛くんよ。素直にお母さんに手伝ってもらっていたらこんな事にはならなかったんだから。」
「そりゃそうだけど・・・やっぱ、親でも人にケツの穴見られるのはちょっとなぁ。先生だって俺の気持ち少しはわかるだろ?」
「気持ちはわかるわ。だけど堅剛くんはまだ子供なんだから、少しは我慢しないとね。その我慢ができなかったせいでこれからもっと恥ずかしい目にあうんだから。」
「うるせえな、俺はもう子供じゃない・・・っていうか、もっと恥ずかしい目ってどういうことだよ。」
「それは、こういうことよ。」
千代美は胸ポケットからそっと何かを取り出した。
「あー!!もしかして・・・。」
「そう、これは再検査用のぎょう虫検査キットよ。これを使ってこれから先生が堅剛くんのぎょう虫検査のお手伝いをしてあげる。堅剛くんのお母さんに頼まれたわ。私じゃまた嫌がるだろうから代わりに千代美先生にお願いしたいって。」
「いーっ!!」
「私も最初は驚いちゃった。でも、堅剛くんのためだと思って即承諾したわ。」
「な、な、な・・・。」
「本当は朝にやらなきゃいけないんだけど、堅剛くんのお母さんから固いこと言わないのって言われちゃった。だからこれからやるわね。」
「そ、そういう問題じゃねえだろ!」
「あら、嫌なの?それならお母さんにやってもらう?どっちにしろお母さんか私、どちらかしか堅剛くんは選べないんだから。」
「・・・・。」
「さあ、どっちがいい?」
千代美は満面の笑みを浮かべながら堅剛に問いかける。その千代美の表情を見て堅剛は恥ずかしそうに、
「・・・先生がいい。」
小声でそう言うと、
「はい、素直でよろしい。じゃあ、早速こっちに来てその短パンと下着を脱いで先生の膝の上にうつぶせになりなさい。」
「へ?」
「床の上によつんばになってもらう方法もあるけど、普段慣れている体勢の方がいいでしょう?」
「で、でもよぉ・・・。」
「さっさと来る!嫌ならお母さんに・・・。」
「わ、わかったよ。でも、もし人が来たら嫌だからドアの鍵はかけるからな。」
堅剛は音楽室のドアに鍵を掛けおそるおそる椅子に座っている千代美に近づいてその左横に立った。それから、自分で豪快に白い短パンとブリーフを膝のあたりまで脱ぎ、そのまま千代美の膝の上にうつぶせに体を預ける。頭は右側、お尻は左側となり、堅剛の足は床から離れて完全に千代美の膝の上に体を乗せる体勢となる。
「よしよし、いい子いい子。それじゃ、準備するから少し待っててね。先生の両手はしばらく塞がっちゃうから膝から落ちないようにね。」
「・・・・。」
千代美の言葉に堅剛は返事をしない。しかし、それに構わず千代美は検査用セロファンを多少もたつきながらも準備をしている。
ちなみに、このように堅剛が千代美の膝の上で自分のお尻をさらけ出すのは今回が初めてではない。堅剛の母親承認で昨年9月より堅剛が悪さする度に千代美はこの体勢で堅剛に「お尻ペンペン」のお仕置きをしているのだ。堅剛はぎょう虫検査だけでなくそのことも頭によぎっていたため、何もしゃべれなかったのかもしれない。
「それじゃあ、貼るわね。少し冷たくてくすぐったいかもしれないけど我慢するのよ。」
そう言うと千代美は右手で堅剛の背中を押さえ、自分の左膝を上にあげる。すると、その上に乗っていた堅剛のお尻も上に持ち上がる体勢となってよりお尻の穴が見やすくなる。そして、千代美は位置を確認するとそのまま左手に持ったセロファンをそっと堅剛のお尻に押し付けるように貼り付けた。
「うひぃー!」
堅剛はくすぐったさで思わず声を出してしまったその瞬間、千代美は堅剛のお尻から手を離し、
「はいおしまい。」
そう優しく言うと、
「ふう、もう散々だぜ。」
「何偉そうに言ってるの。人に手伝ってもらえばこんなに簡単にできるのに・・・変な意地を張るから面倒なことになったんでしょ。」
千代美は呆れたようにこう言い放つとそのセロファンを含めた検査用キットを再び胸ポケットにしまいこむ。
「さてと、これでやっと家に帰れるなっと・・・。」
堅剛はやれやれとした顔をして千代美の膝からおりようとする。しかし、千代美はまだしっかりと堅剛の体を押さえつけていた。
「何だよ先生。もう終わっただろ?さっさとおろしてくれよ。」
堅剛は「あれ?」と思い、千代美の顔を見上げながらそう言うと、
「・・・堅剛くん。」
「え?」
「実はね、もう一つ堅剛くんのお母さんに頼まれている事があるの。まあ、予想できるとは思うけど・・・。」
「頼まれてる事って・・・え!ま、まさか・・・。」
「そうよ。今回の件について先生の方からも厳しくお仕置きしてくれってね。」
「そ、そりゃねえよ!さっきあんだけ長い時間母ちゃんに説教されて、おまけに保健室でずっと正座までさせられてたんだぜ!」
「ええ。それはわかってるし、堅剛くんも大分反省してると思うわ・・・でもね、先生も堅剛くんの担任としてきちんとけじめをつけたいと思うの。あくまで頼まれたからじゃない、先生の意思で堅剛くんをお仕置きすることでね。」
「・・・・。」
堅剛はここで無言になる。こうなってはもう逃げられないことを悟り、もはや反論をする気はなくなっていた。そんな堅剛の様子に千代美は思わず含み笑いをしてしまうが、すぐにキリッと気持ちを入替える。
「では、これから堅剛くんのお尻を100回叩きます。3ケタ叩くのは初めてだけど、これだけまわりの人に迷惑や心配をかけたんだから素直にお仕置きを受けるのよ。それから、今回はより反省を促すために叩かれたらきちんと数を数えること。」
「か、か、かずぅー!」
「うん。ちゃんと言わなければ言えるまで何度もその回数のままで叩き続けるからね。じゃ、そろそろいくわよ。」
そう言って千代美はスッとゆっくり左手を高く振り上げた。
「あ、あ、ちょっと待って・・・。」
堅剛はいつもとは明らかに違う雰囲気の中、慌てて千代美を止めようとするが・・・時すでに遅し。
バシーン!
「いちー!」
強烈な一撃が堅剛のお尻に炸裂し、乾いた大きな音が室内に響き渡る。堅剛はたまらず声をあげ、偶然なのか意図的なのか「痛い」の声が「いちー」と数字ように聞きとれる。
バチン!
「・・・ぐっ!」
数秒間隔を空けて2回目の打撃。歯をくいしばって耐える堅剛。
「こら、数を数えなさいっていったでしょ!やり直し!」
ビシッ!
「・・・つぅ!・・・に。」
「声が小さい!」
バチーン!
「・・・ううっ!・・・に!」
バシン!
「・・・さーん!」
ビシン!
「・・・よ、よーん!」
ベチッ!
「・・・ご、ご、ごー!」
力強い千代美のお尻ペンペンのお仕置き。これまで何回か経験しているものの、1回1回ゆっくりと時間を掛けて叩き、数を数えさせられ、きちんと数えられなければやり直し、さらには回数も100回いややり直しを含めればそれ以上になってしまう。これまでで一番厳しいと言っていいだろう。そして、恐らく堅剛の母親でさえこれほどのお仕置きは与えた事がないのではないか。
まだまだ序盤、これからさらに長いお尻ペンペンのお仕置きは続く。



バシッ!
「・・・よん!・・・よんじゅう・・ご。」
バチン!
「・・・よん!・・・よんじゅう・・ろく。」
バチーン!
「・・・ぎいっ!」
「ほら、数を忘れてる!もう一回。」
バチーン!
「・・・よんじゅ!・・・よんじゅなな!」
ビシッ!
「・・・よん!・・・よんじゅう・・はち。」
ベシン!
「・・・よん!・・・よんじゅう・・くっ。」
叩く音からでわかる激しいお仕置き。これまでだったらこのあたりで終わるのであるが、今回はあと倍以上残っている。あの我慢強い堅剛もすでに目に涙をためた状態であるが、まだ泣き叫ぶまでには至っていない。しかし、その表情から判断してそうなってしまうのはもはや時間の問題であった。



バチン!
「・・・ひっ!・・・ろくじゅう・・よん。」
ビシッ!
「・・・びぃっ!・・・ろくじゅう・・ご。」
バチーン!
「・・・ひいいっ!」
「やり直し!」
バシーン!
「・・・う、う、うわぁぁぁーん!!」
お仕置きの終盤、ここでついに堅剛は大声で泣き出した。全く衰えることのない千代美の平手打ちの威力、的確に堅剛のお尻を右の山、左の山そして真ん中と順番に打ち据え、白いところがほとんどわからないほどお尻は真っ赤に染めあげられている。
「こら!泣くのは数を数えてからにしなさい!」
バッシーン!
「・・・びえぇぇぇーん!!」
バッチーン!
「・・・びえぇぇぇーん!!」
バシィーン!
「・・・びえぇぇぇーん!!」
ここで千代美は、これまでとは裏腹に数を数える間を与えない連打を堅剛のお尻に浴びせる。当然、堅剛は泣き叫び、ただただ千代美の膝の上で足をバタバタさせてもがく無駄な抵抗しかできなかった。そして、そんな堅剛の様子を見ながら千代美は一旦叩く手を止め、真面目な表情で話し始める。
「いい?堅剛くん、よく聞きなさい!先生はあなたが憎くてお仕置きしてるんじゃないの!あなたが可愛いからお仕置きするのよ!大好きだからお仕置きするのよ!もちろん他の子供たちも可愛いけど、あなたは先生に希望を与えてくれた子だから・・・こんな新米で頼りないダメな先生にね。」
「・・・ぐすん、・・・ぐすん。・・・ひっく。」
千代美の話を聞きながら、堅剛はなんとか泣き止もうとしている。
「だから、今日は先生ね、本当に心配したのよ。堅剛くんが悪いバイキンのせいで重い病気にかかっちゃったらどうしようって・・・結局、ただの悪ふざけだってわかって先生、すごくホッとした気分になったわ。」
「・・・・。」
「さぁ、そろそろ続きを始めましょ。堅剛くん、もし先生の気持ちがわかってくれたのなら、もうやり直しはさせないでしっかりと数を数えてね。正直、これ以上決めた数より堅剛くんのお尻を叩きたくないから・・・。」
「・・・うん。」
千代美の思いが堅剛に通じたのか、堅剛はコクリと大きくうなずく。
「それじゃ、いくね。次は66回目よ。」
堅剛がうなずくのを確認して、千代美は再び左手を高く振り上げる。そしてその掌もまた、堅剛のお尻ほどではないが遠くから見てもわかるくらい赤く染まっていた。おそらく相当痛いと見られるが、あと35回。千代美は真摯な態度でお仕置きを再開する。



バシィーン!
「・・・きゅ!きゅうじゅうろーく!」
バチィーン!
「・・・きゅ!きゅうじゅうなーな!」
バッシィーン!
「・・・きゅ!きゅうじゅうはーち!」
バッチィーン!
「・・・きゅ!きゅうじゅうきゅー!」
最後まで情け容赦ないお仕置きに堅剛は大泣きしながらも、泣き声の代わりにしっかりと数を数えていた。あの66回目からは一度もやり直しはない。とはいえ、それまでのツケが大きく堅剛がこれから最後の「100」の数字を数えるまで実質、堅剛のお尻は少なくみても120回を超える千代美の平手打ちを受けていた。そしてついに・・・
バッッシィィーン!!
「・・・ひっ!ひゃ、ひゃ、ひゃ、ひゃくぅ!!うわぁぁぁぁーん!!!」
しっかりと最後の数字を数えると、堅剛は今日一番の大声で泣き叫んだ。すると千代美は目元を潤ませ、無言で堅剛を膝の上から抱き上げ、ギュッと胸に抱きしめた。ただただ泣いている堅剛の無残に真っ赤に腫れあがったお尻をこれまた真っ赤になった手で優しく優しく撫でながらずっとずっと抱きしめていた。



それから、日もすっかり暮れて夜になり、外は当然真っ暗になっていた。
すると、街灯が並ぶ通学路を歩いている人が一人、正確には二人の姿があった。大人の女性が子供をおんぶして歩いている、すなわち千代美と堅剛である。
「先生、やっぱおろしてくれよぉ。恥ずかしいぜ。」
「何言ってるの?お尻が痛くて一人でまともに歩けないくせに。大丈夫、この時間はもう人通り少ないから。」
「でもよぉ・・・。」
「文句言わないの・・・よいしょ!」
ここで千代美は体勢を整えるため、おんぶしている堅剛の体を揺する。
「痛ってぇー!わ、わかったよ、だからあんまり動かさないでくれよ。」
「フフフフ。」
思わず笑ってしまう千代美。そして、そんな和やか?な雰囲気の中、千代美の口から堅剛の思いもよらない言葉が飛び出す。
「さてと、今日は先生のアパートに泊まるんだからいい子にしててね。あまり騒ぐとお隣さんのご迷惑になるから。」
「ああ、わかってる・・・って、先生、今なんて言った?」
「え?先生のアパートに泊まるんだからいい子にしててねって言ったんだけど、それが何?」
「な、な、何だってーっ!!!」
堅剛は驚いて、まさにあいた口が塞がらない状態であった。
「大丈夫よ。パジャマは少し大きいけど先生のがあるし、今日着ている服は明日の朝までに洗っておくからね。」
「そうじゃねえよ!俺はてっきり晩飯を食わしてくれるっていうから・・・。」
「あ、それにもちろんお母さんにも許可を頂いているから遠慮しないでいいのよ。」
「・・・話聞いてねえし。」
「それにね、まだ最後に果たさなければならない責任が私にはあるの。」
「責任?」
「堅剛くんも自分でやったからわかるでしょ?ぎょう虫検査は2回しなければいけないって事。」
「・・・あ!」
「ね、納得した?だから、明日の朝、また手伝ってあげる。もちろん今日と同じように先生の膝の上でお尻を出してね。」
「い、いいよもう!今度は一人でやれる・・・。」
「ダメよ!まだそんなことを言う気なの?もし素直に従わないのなら、アパートに着いたらもう一度お仕置きよ!お隣さんから苦情がきても無視して朝までたっぷりお尻ペンペンしてやるんだから。」
「・・・・!!!」
「先生は本気よ。さ、どうするの?」
堅剛には千代美の表情が見えないが想像はできる。声はまだ優しく聞こえるが、目は間違いなく笑っていない、真剣であると。
「お、お願いします。」
心なしか手を少し震わせながら、めったにしゃべらない敬語で堅剛はお願いする。
「はーい。よく言えましたー、堅剛くん。」
今度も表情は見えないが、おどけた口調に変化したことで堅剛には再び想像できる。千代美のとびきりの笑顔が。
「よーし、それじゃあ早く帰ろうか。明日も早いしね。」
「・・・あ、ああ。」
「あと、ご飯食べたら一緒にお風呂入ろうね。」
「い、い、いーーーっ!!ちょ、ちょっと待てー、それはさすがに・・・。」
「ダーッシュ!!」
堅剛が話している途中で、千代美はいきなり走り出す。
「話を聞けぇー!ていうか、ケツがいてぇー!!揺らすなーー!!!」
こうして街灯に照らされてできた二つの人影が、にぎやかな子供の声を発しながら、あっという間に消えていくのだった。



そしてそれから数日後、堅剛の再検査結果が検査機関から学校へと伝えられた。異常なし(陰性)である・・・と。