約束(F/m)


8月28日。8月も残りわずかとなったが、秋の気配はまだみえず暑い日が続いている。外での子供たちの遊ぶ声は格段に少なくなり、ほとんどの子供が家にこもり、たまった夏休みの宿題をヒーヒー言いながらやっている。夏休み終盤によくある光景である。しかし、良男はそんなまわりのあわただしさに流されることのない夏休みの日々を送っていた。
その日の夜、良男は自分の部屋である準備を始めていた。大きなバッグの中に
水着、パジャマ、洗面用具、替えの下着等を詰め込む作業を黙々と行っていた。


話は7月末にさかのぼる・・・・。
夏休みに入って数日たったある日、良男は百合の家に来て、いつものようにリビングで談笑していた。その中で良男は、夏休みに何をしたいか、どこに行きたいか等、これから約1ヶ月ある夏休みでの自分の願望を百合に対し、うれしそうに話し、百合もまた笑顔で聞いていた。そんな会話の中で、
「あのね。良男くん。」
「何?」
「おばさんね、良男くんの夏休み中、あまり良男くんと遊べないかもしれないの。」
「えー!どうしてー?」
「おばさんの働いてる会社ね、急にパートさんが何人か辞めちゃって人手が足りないの。だから普段お休みの日でも何日か出てお仕事しなくちゃいけなくなったのよ。」
「ふーん、大変だね。じゃあ、百合おばさんはお休みほとんどないの?」
「そうなの。お盆が明けるころまでは1週間に1日あるかないかかなあ。でもその休みも家事とかやらなきゃいけないし・・・。」
「・・・・」
そんな百合の話を聞き、がっかりしたように良男はうつむく。
「あ、でもね。お盆明けに新しいパートさんが何人か入るから、8月の終わりくらいから私も1週間程度夏休みがとれるから・・・。」
「え、ホントに?」
今度は急に明るくなり顔をあげ椅子から立ち上がる良男。
「でもね、そうなると良男くんがどうかなって・・・。その時期は子供たちみんな夏休みの宿題に追われて遊びどころじゃないと思うの。良男くんも去年大変だったんでしょ?」
「え?あ・・・うーん・・・。」
良男は言葉を詰まらせた。それもそのはず、良男は2年生での去年の夏休みに
遊び過ぎてしまい、最後の1週間になって良男のおじいちゃんとおばあちゃんを巻込み、夏休みの宿題に四苦八苦したためである。
「・・・・」
「・・・・」
二人しばらく考え込む。良男は立ったまま黙り込み、百合はほおづえをついている。そして先に百合の方から話しかける。
「じゃあ、こうしない?良男くん。」
「え?何を?」
「あのね、簡単に言うと・・・。良男くん、がんばってね!」
「???」
突然の百合の応援に訳が分からない良男。
「要するに、夏休みの宿題を・・・私の夏休みの前に終わらせればいいのよ。
そうすれば一緒に遊べるじゃない。ねっ。」
「あ!・・・うん。でも・・・。」
ようやく理解した良男であるが、去年のこともありあまり強気になれない。
「良男くんならできるわよ。おばさん信じてるから・・・そうだ!きちんと宿題を終わらすことができたら良男くんの行きたい所どこでも連れてってあげるし、好きなものも買ってあげる!どう?やる気になったでしょ?」
「ホント?」
「おばさんは嘘つかないわよ。まぁ・・・お金がかかり過ぎそうなものは遠慮してもらうかもしれないけど・・・できる限りのことはするわ。」
「うん、わかった。僕、頑張って宿題を終わらせるよ!」
「フフフ。じゃあ、良男くん。約束よ!」
「うん。約束する!」
こうして、約束を交わした二人。その後、百合の8月29日から1週間の夏休みが
確定し、良男はそれまでに宿題を終わらせる事が使命となった。


そして8月28日の今日。良男は明日から百合の家に泊まるために荷物を
準備しているのである。そう、良男はあの約束から頑張りに頑張りぬいた。
友達からの遊びの誘いも極力断り、外出したのは買い物、お墓参り、そして、
宿題の自由研究のために友達と近くの山へ行って昆虫採集をしたぐらいであった。さらに、百合にも会うくらいであれば1、2回は会えることができたのだが、百合の夏休みが始まってから一緒に遊びたいという思いがあり、あの約束から約1ヶ月間会っていない。こうして良男は、無理はしないものの毎日コツコツと宿題を進めていった。
その結果、漢字の書き取り、読書感想文、国算理社共通問題集、自由研究、工作、絵画の宿題をなんと8月20日、つまり夏休みを10日以上を残して全て終わらせた。そして、毎日書く絵日記も忘れずに書き続けた。
良男はその近況を電話で百合に伝えると、百合はすごく喜んだ。それにより、8月29〜31日の3日間つまり2泊3日の百合の家でのお泊りが決まった。その日程には、プール、遊園地、レストランといった良男が希望する外出場所が盛り込まれている。ちなみに、百合の残りの夏休みについては実家へ帰り、お墓参り等をするらしい。
良男のおじいちゃんとおばあちゃんもこの良男の頑張りに驚きをかくすことができなかった。良男から訳を聞くと、二人は百合にすごく感謝し、電話でお礼を言った。当然、お泊まりも許された。
そんなこともあり、明日からの3日間が楽しみで仕方がない良男であった。
お泊りの準備も終わり、さあ寝ようかと思ったが、良男はふと思った。
(家に帰ってくるのは31日なんだし、今のうちに学校の準備をしておこうかな・・・・)
良男はこれまでにやった宿題を机の上にまとめた。そして、工作、絵画、自由研究は手さげ袋に入れ、残りはランドセルに入れることにした。ランドセルをあけるとそこには1冊のノート以外何も入っていなかった。宿題をするための参考として、教科書とノート類はほとんど夏休み中に使用したからである。
(これは・・・・連絡帳)
良男のクラスでは、学校から帰る前に先生からの連絡事項を各自連絡帳に書くことになっているため、一人一冊の連絡帳を持っていた。
良男は「3年3組森田良男」と書いてある連絡帳を取り出した。すると、その連絡帳に何枚かの紙がはさまっていることに気付く。
(何だこれ?)
おもむろにその紙を取り出して開いてみると、題目に「算数 計算プリント」と書かれており、計算問題が一面にずらりと並んでいる。そして同様の紙が5枚重なっていた。
「あれ?これって・・・・うわぁー!!!」
急に大声で叫ぶ良男。
「あああ・・・・。」
良男は思い出した。夏休み前の最後の登校日に担任から「算数の時間に渡すの忘れたから」と言われ渡された追加の宿題。
計算問題がびっしり書かれているプリント5枚。無くさないよう、忘れないよう、連絡帳にプリントをはさんでおいたことも・・・。
(どうしよう・・・どうしよう・・・)
良男はプリントを握りしめ、頭を抱えながら部屋内をぐるぐる回りだし、ついには自分の布団の中に頭からもぐり込んだ。
(こんなこと・・・百合おばさんに知られたら・・・)
良男は何度も何度も自問自答を繰り返した。しかし、無情にも、そんな良男に睡魔が襲いこみ、そのまま眠ってしまうのだった。
結局、なんにもできないまま29日の朝を迎え、何も知らず笑顔で見送るおじいちゃんとおばあちゃんを背にした良男の足取りは重かった。半袖・半ズボンの格好で、大きなバッグを力なく引きずりながら下を向き、目がうつろな
まま昨日同様「なんで・・・どうして・・・」と自問自答を繰り返しながら、百合の家へと向かっていくのだった。
午前11時。百合の家に着き、早速玄関で百合が笑顔で出迎えた。
長い黒髪を後ろで束ね、白いTシャツに紺色のショートパンツ。夏も終わりに近いのにも係わらず、いかにも夏という姿であった。
「良男くん、いらっしゃい。久しぶりね。」
「・・・うん。」
「ん?あんまり日に焼けてないみたいね。それだけ家で一生懸命宿題してたのかな?」
「・・・うん。」
「だけど、今日から3日間は良男くんが頑張った分、おばさんとパーッと遊んでいっぱい楽しみましょ。ね?」
「・・・うん。」
良男の元気のない生返事。さすがに百合もその異変に気付く。
「どうしたの、良男くん?何か元気ないわね?」
「え?あ・・・うん・・・。」
「風邪でもひいたの?」
心配そうにたずねる百合に良男はブンブンと首を横に振る。
「そう・・・。じゃあ、どうしたのかな?」
「・・・・」
今度は下を向き黙り込んでしまった良男に対し、百合はさらに優しい言葉をかける。
「良男くん。何か困ったことがあったら何でもおばさんに言ってね。この前も言ったでしょ。できる限りのことをしてあげるってね。」
「・・・・」
良男は急に肩を震えだし、おもむろに玄関にサンダルを脱ぎ捨て、百合の腰に飛びついた。
「うわーん!百合おばさーん!僕・・・僕・・・。」
そう言いながら、良男は大声で泣き出した。
「良男くん・・・。」
百合は突然の良男の行動に驚きを隠せなかったが、やがて良男の背中をぽんぽんとあやしてあげた。
「・・・うっ・・・うっ・・・ひっく・・・。」
良男が落ち着いてきて泣き止んできたのを確認し、百合は良男の顔をじっと見ながら笑顔でこう言った。
「良男くん。何があったのか、おうちの中で聞かせてね。いい?」
「・・・うん。」
良男はうなずくと、百合と手をつなぎながら家の中へ入っていった。


「そう・・・それは困ったわね・・・。」
良男は百合に全て話した。宿題は本当に毎日頑張ってやったこと。だけど昨日になって連絡帳にはさんであった宿題の計算プリントを見つけ、その存在をすっかり忘れていたこと。さらに、その宿題は5枚もあって、普通に考えて
2〜3日はかかること。そして、このことについて百合の家にくるまでずっと悩んでいたこと・・・・を。
「うん・・・だから、僕、どうしたらいいかわからなくて・・・。」
良男はリビングで椅子に座りながら小声で話す。百合もその隣の椅子に座り、良男の話を聞く。
「うーん。これは相当問題数が多いわねぇ・・・。」
百合は良男から渡されたプリントをさっと目を通してこう言った。
「・・・・」
良男はじっと黙って百合の話を聞く。
「でも、何とかしなければいけないわよね・・・。うーん。」
百合はプリントを眺めながらほおづえをつき、じっと考えこむ。
「・・・・」
「・・・・」
しばらくたって、百合はある決断を下した。
「よし!じゃあ、良男くん。腹をくくりましょう!」
「え?何?腹をくくるって・・・百合おばさん、お腹切っちゃうの?」
「そうじゃないの。覚悟を決めて、もうひと踏ん張りしようってこと!」
「え・・・?じゃあ、もしかして・・・。」
「そう。今日中にこの宿題を終らせるのよ!」
「えー!」
百合からの提案に対し、「無理だよ」という思いを込めた叫びをあげる良男。
「良男くんならできるわよ。良男くん頭いいし。わかる問題からやっていって、最後にわからない問題をやっていくの。私もそのときはもちろん手伝うわ。」
「・・・全部は手伝ってくれないの?」
「さすがにそれはダメよ。良男くんのためにならないし。」
厳しい言葉を投げる百合。これも良男を思ってのことである。
「・・・僕に・・・できるかな?」
「大丈夫よ。あれだけ頑張ってきたんだから。もし今日中に終れば明日、明後日は予定通りプールも遊園地も行けるんだから。」
「・・・うん、わかった。頑張るよ。絶対今日中に終らせるからね。」
「よろしい!そうと決まれば、お昼食べたら始めましょう。勉強以外のサポートはまかせてね。」
「うん!」
こうして、良男は百合の後押しを受け、宿題に取り組むこととなった。
昼食後、早速良男はリビングのテーブルに向かい、宿題を始めた。
良男は順調に問題を解いていき、時折首を傾げる問題については、百合のアドバイス通りにスパッと飛ばして回転を早めるようにした。
その間百合は、食事、おやつ休憩、空調等の管理。そして宿題が終った後のお風呂、寝床の準備を進めていた。

午後8時。良男は宿題の8割(プリント4枚分)を終らせた。良男本人も驚くペースであり、夏休みに勉強した成果が出たと思われる。そして、そこでちょうどまだ乾ききっていない長髪をなびかせ、ピンクのパジャマを着た風呂あがりの百合がやってきた。
「あら?もうほとんどできてるじゃない!良男くん、もうひと息よ。ここからは私も手伝うからね。」
そう言うと、百合は良男の隣に座り、二人で最後の追い込みをかけた。そして、ついに・・・
「あー。やっと終わったぁ。」
良男は力ない声を発しながら、椅子の上でへたりこんだ。
「やったわね。良男くん。」
隣に座っていた百合も喜び、良男の頭をなでた。時計は午後9時を指していた。
「だいぶ時間も遅くなったわね。良男くん。勉強道具を片付けたら、お風呂に入りなさい。それから、今日着た服は洗濯カゴにいれといてね。あとでお洗濯してあげるから。」
「うん。わかった。」
そう言って良男はバスルームの方へ走っていった。
「さてと、これから少し台所を片付けておこうかな。」
そして百合の方は、もう一仕事するため、パジャマの上から黄色のエプロンを着けると、足早に台所へ向かった。


「あー、さっぱりした。」
良男はそういいながら青色で白の水玉模様のパジャマを着ると、すぐに2階にある百合の寝室に向かった。
寝室のドアをあけると、そこにはベット、洋服タンス、それにアンティーク調のドレッサーが置かれ、床には薄紫色のカーペットが敷いてあり、良男の寝床もその上に準備されている。
すでに百合は寝室にいて、ドレッサーの椅子に座り、鏡に向かいながら櫛で髪を整えていた。そして、外し忘れたのか百合はまだ黄色のエプロンをしたままである。
「あっ、良男くん。湯加減はどうだった?」
「うん。すごくいいお湯だった。」
良男は風呂上りで少し火照った顔に笑みを浮かべながらそう答えた。
そんな良男をみて、百合もつられて笑みをこぼす。すると、百合はふと気づいた。
「良男くん。髪、まだ濡れているわね。」
「あれ?さっき、拭いたんだけど・・・。」
「だめよ。よく拭かないと風邪ひくわよ。こっちへいらっしゃい。ドライヤーで乾かしてあげる。」
そう言って良男を手招きで呼ぶと、良男は百合の側に向かった。
百合は椅子に座っている自分の横に良男を立たせてドライヤーで丁寧に髪を乾かしてあげながら話をはじめた。
「しっかし、今日は本当に大変だったね。」
「うん・・・。」
「おばさん、びっくりしたわ。良男くんが急に泣き出すから・・・何事かと思って。」
「・・・・」
良男は恥ずかしそうに黙って下を向いた。
「ウフフ。でも、あんなことがあれば誰でもパニックになるわね。いきなり思いがけないもの(宿題)が出てきちゃったからね。」
「うん・・・とてもびっくりした。」
「でも、良男くんが今日いっぱい頑張ったおかげで宿題全部終わったことだし・・・これで明日から思いっきり遊べるわよ。楽しみね。」
「うん!」
元気よく返事をする良男。しかし、喜びもつかの間、まもなく良男は究極の選択を迫られることとなる。
「はい。これでよし。」
百合は良男の髪を乾かし終わると、ドライヤーをドレッサーの棚の上に置いた。
「ありがとう。百合おばさん。」
そう言って、百合の側を離れようとすると、百合はなぜか右手で良男の左手を掴んで止めた。
「あれ?どうしたの、百合おばさん?」
不思議そうにたずねる良男。しかし、百合の顔からはなぜか笑顔がすっかり消えていた。
「良男くん・・・これで、良男くんにとってめでたしめでたしかもしれない・・・でもね・・・。」
そう言いながら、百合はおもむろに良男の左手を引き、自分の膝の上に良男をうつ伏せにした。
「わっ!」
良男は突然の事に驚き、百合の膝の上で両手、両足をバタバタさせた。しかし、それを百合は左手で良男の背中を押さえつけ戒める。
(え、まさか・・・)
良男は先月に初めてこの体勢にされたことがある。あのときの記憶が良男の頭をよぎる。
そして、百合は続けて話す。
「私、思ったの。仮に良男くんが頑張って宿題を終わらせたとしても・・・夏休み中にきちんと確認していればこんなことにはならなかったかなって。つまり、元は良男くんのうっかりミスで起こったことでしょ。もし、気づかないまま学校が始まってたら、もっと大変になったんじゃないかなってね。だからね、良男くんがもっとしっかりするように・・・お仕置きとしてお尻ペンペンが必要かなと思うの。」
「えー!!」
百合の言葉を聞き、良男は不満そうに叫ぶ。確かに百合の言う事は正しい。しかし、わざと計算プリントの存在に気づかなかったわけではない。さらに他の宿題はきちんとやっているし、第一、問題となった計算プリントも今日終わらす事ができた。それなのに・・・という思いが良男にあった。
そして、百合もまたそのことは肝に銘じている。よって、それを加味した上で百合は良男にある提案をする。
「ただし・・・私が良男くんをお仕置きすべきかどうかは・・・良男くん自身が決めて。」
「!?」
思いがけない言葉に驚いて声が出ない良男。
「私は、良男くんにもっとしっかりしてもらいたいからお仕置きが必要かなと思う。だけど、良男くんは、夏休み中ずっと宿題を頑張ってやってきたし、
そんな頑張りを見せた子には今回はお仕置きは必要ないかもしれない。私が少し厳しいのかもしれない。だから・・・良男くんに決めてほしいの。」
百合は良男の背中を抑えていた手の力を抜く。お仕置きが嫌なら膝から下りなさいという意思表示である。
「え?あ・・・僕、どうすれば?」
「ウフフフ。慌てないで、良男くんがじっくり考えて決めればいいのよ。あ、もしお仕置きすることになってもならなくても、約束どおり、明日から良男くんといっぱい遊んであげるから心配しないでね。」
満面の笑みで話す百合。良男は百合の顔をしばらく見上げていた。そして百合の膝の上にうつぶせになったまま、改めてどうすべきか考えることにした。
良男はしばらくの間、頭を悩ませた。すると・・・
(うん。やっぱりお仕置きは嫌だ。だって、あんなにいっぱい頑張ったのになぜって思うし・・・確かにプリントについてはうっかり忘れちゃってたけど・・・今日いっぱい頑張って終わらせたんだし。ちゃんと反省してるもん。
それに、この前初めてお尻ペンペンされたときは痛くてしばらく歩けなかった・・・お尻が痛いままでプールや遊園地に行きたくないし・・・。)
自問自答した結果そう決めると、良男は蛇が這うように動く感じで百合の膝からスルリと下りようとした。もちろん百合もそれをとがめはしない。
しかし、百合の膝から完全に下りる寸前に、良男の脳裏に百合のある言葉が鮮明に思い出された。
(・・・約束よ!)
そう、百合と良男はある約束を交わしていた。
(そうだった・・・。僕、百合おばさんと約束してたんだよな・・・。)
良男はあの7月末をふり返る。百合おばさんがお仕事が忙しくて一緒に遊べないと聞いてがっかりした良男に対し、良男を元気づけようとして交わした約束。良男も百合の気持ちに頑張って応えようとした。そして、一度は約束を守れたと確信した。
(約束を守れたと思って百合おばさんに電話したときもすごく喜んでくれた。でも・・・結局・・・)
急に動きが止まった良男を不思議そうに見ている百合。
(うん・・・)
何かを決めたのか良男は動き出した。しかし、今度は良男は百合の膝から下りずにあと戻りして再び百合の膝の上にうつぶせになった。
「え・・・?」
百合は、思わぬ良男の行動に驚いた。さらに、良男は自らパジャマのズボンを両手でつかみ、パンツと共に膝上までずり下げる。すると、風呂あがりでほんのりと温かいむき卵のような小さなお尻が顔を出した。
「!」
百合は、さらに驚いた。一度はお仕置きを嫌がってたのに、どうして・・・と。
そんな疑問を抱いた百合に対し、良男は口を開く。
「あのね、僕、最初はお仕置きは絶対嫌だったんだ・・・だってプリント忘れなんかちょっとしたミスだし、お仕置きされるほどでもないかなって・・・。」
「・・・・」
小声で話す良男の言葉を百合は黙って聞いている。
「でもね・・・。僕、夏休みに入ってすぐ百合おばさんと約束したよね。「百合おばさんの夏休みの前に宿題を終わらせて、一緒に遊ぼう」って・・・。 だけど、それまでに宿題・・・終わらなかった。つまり、僕、百合おばさんとの約束を破ったんだ・・・。」
「・・・・」
「だから、百合おばさん、ううん、百合ママとの約束を破った悪い子は・・・お仕置きが必要だって思ったんだ。」
良男はそう言い終わると、両手の拳をぐっと握りしめ、お尻を出したまま百合の膝の上でじっとしている。
百合はそんな良男の気持ちと行動に対して、動揺を隠せなかった。
(あぁ、本当は良男くんをお仕置きする気は全くなかったんだけどなぁ。ほんのちょっとしたミスも時にはしちゃダメってことをわかってもらうつもりで、ああ言って困らせちゃおうって意地悪しただけなのに・・・。良男くんも、この程度の理由だったら、絶対にお仕置きを受けないと確信してたんだけど・・・予想外だわ。)
百合はしばらく考え込んでいる。そのため、良男は百合の動向が気になり、横目で百合をチラチラ見ている。
(でも、私との約束をあんなに大事に思ってくれてたなんて、すごく嬉しいな。良男くんって本当にいい子だなぁ・・・。こんないい子にはお仕置きなんかしたくないんだけど・・・・・・もう、後には引けないわね。)
しばしの沈黙。そして・・・・
グイッ
百合は自分の左手と膝を使い、良男のお尻が膝の上にくるように良男の体をがっちりと固定した。良男はこれから来るであろう衝撃に供え、身を縮めている。そして、そんな良男の姿を確認すると、百合は右手を振り上げた。
「ママとのお約束を破るなんて・・・。ママはそんな子に育てた覚えはありません!こんな悪い子には、これからたっぷりとお尻ペンペンします。覚悟なさい!!」


バシーン!
「ひいいーっ!」
お尻を叩く最初の音と悲鳴が寝室に大きく響き渡った。
ビシッ!バシン!バシッ!ベチン!ベシッ!
「・・・痛いっ、・・・痛いよっ、・・・ひええ!」
そんな良男の悲鳴にかまうことなく、お尻を叩き続ける百合。
良男をお仕置きするのは2回目であり、最初にお仕置きしたときは勢いにまかせてお尻を叩いていた百合。しかし、今回は左右のお尻のふくらみを交互に叩き、お尻の具合を確認しながら、冷静になってお仕置きをしている。
バシン!ビシッ!バチーン!バシーン!
「・・・うっ、・・・いっ、・・・ひぎーっ!」
だが、叩く強さは相変わらず強烈であり、良男は久しぶりのお仕置きを必死になって耐える。良男は目に涙を浮かべ、お尻はもう赤く染まっている。お仕置きはなおも続く。
バシン!ビシッ!ベチン!バチン!ベチーン!
「・・・ひいぃ、・・・痛いよう、・・・許してーっ!」
良男は耐え切れなくなり、許しを請いながら右手で自分の尻をかばおうとした。しかし、百合は左手でその良男の手首を掴み、良男の背中と共にしっかりと押さえつける。良男は右手の自由を失い、さらに身動きがとれなくなった。
「こら!素直にお仕置きを受けなさい!さもないと、数を増やすわよ!!」
容赦のない百合の叱責に対し、良男は恐怖に震えていた。
いつまでお仕置きが続くのだろう、いったい何回叩くのだろう・・・という先の見えない恐怖に。
ビシッ!バシッ!バシッ!バチッ!バチーン!
ベシッ!バチン!ビチン!ビチッ!バシーン!
百合は黙々と力強い平手打ちでお尻を叩き続け、良男のお尻はみるみるうちに真っ赤に腫れ上がっている。
「・・・ごめんなさい。・・・ママ・・・ごめんなさい。」
ほんのかすかな声で良男は百合に再度許しを求めた。まだまだ許してくれないと思いながらも、声を振り絞った。
そして、その声が聞こえたのか少しの間だけ百合の手が止まる。だが、それもつかの間、再び百合の手は振り上げられる。
バッシーン!バッチーン!バッチーン!バチィーン!バシィーン!
百合の強烈な連打が良男のお尻に炸裂する。
「うううあーーんっ!」
良男はついに泣き出した。しかし、前回は良男が大声で泣いても百合はお仕置きをやめなかった。
当然、良男はそれを覚えており、更なる恐怖に怯えている。
ところが、30回ほど叩いたところで百合は急に手を止め、今度は真っ赤に腫れ上がった良男の尻を撫で始めた。
「え?」と心の中で思う良男。そして、
「はい。これでお仕置きはおしまい。今度からはきちんとママとのお約束を守ろうね。」
百合は優しい声で良男に言う。良男は、百合の方を見ながらキョトンとした顔をしている。
「夏休み中、良男は勉強をすごく頑張ったからね。今回はこれで許してあげる。」
さらに百合は言い加えた。
「ふーーっ・・・。」
良男は恐怖から解放された安堵からか深い息を吐き、そのまま、百合の膝の上でぐったりした。
「フフフフ。」
百合は笑いながら、良男のお尻を撫で続ける。しばらくして、
「さっ、良男くん。これからお尻を冷やしてあげる。できるだけ具合を良くして明日に備えないとね。それにもう遅いから、すぐ寝ること。お尻は痛いだろうから体を横にしてなるべくお尻が物に当たらないようにしなさいね。」
「うん!」
百合は良男を膝から下ろし、濡れタオルを取りに寝室を出た。そして、良男は待っている間、ドレッサーの鏡に自分のお尻を映した。
「うわぁー。真っ赤っ赤だ・・・。」
良男はそうつぶやきながら、照れ笑いを浮かべていた。
この後、良男は百合に濡れタオルでお尻を冷やしてもらうと、すぐに布団に入り横になった。
百合は、その良男の姿を確認すると、自分のベッドへと向かった。


ガタッ
かすかな物音に百合は目が覚めた。時間は午後11時30分。床についてから2時間近くたっただろうか。
「何の音かしら・・・。」
百合は寝室の小さい明かりをつける。すると、なんと隣の布団で寝ているはずの良男の姿がなかった。
「あれ?良男くん、どこいったのかな?トイレかな?」
百合は寝室を出て、まわりを見回す。しかし、廊下もトイレも電気がついてなく、人気が感じられない。
「一体、どうしたのかしら?」
今度は、階段を下りて一階に行こうとしたそのとき、
ガタッ
再び物音が一階の方から聞こえた。
「良男くんかしら。」
百合は、階段を下りると一階のリビングに明かりがついているのに気付いた。そして、足音を立てずにリビングの入り口にいき、そーっと覗いてみた。すると、椅子に座り、テーブルに向かって何かをしている良男の後ろ姿が目に入った。百合は良男に気付かれないようそーっと忍び足で良男の真後ろについた。
「何してるの?」
「うわぁ!」
突然の声に驚きの声を上げる良男。
「そんなに驚くことないじゃない。」
「・・・え、だって、全然わからなかったんだもん。あーびっくりした。」
「ところで・・・こんな夜中に何をしてかのかなー。ま・さ・か、実はまだ宿題が残っていたというわけじゃないでしょうね?」
百合は笑みを浮かべてはいるが、少し怒り口調で良男に問いかける。
「ち、ちがうよ。ちがうっていうか・・・これは絵日記だから・・・。」
「絵日記?あー、確かにそれはまとめて書けないもんね。」
百合は納得すると、後ろから良男の絵日記を覗き込んだ。
「わぁー。うまく書けてるじゃない。」
「うん。ちょうど今、今日の分が終わったとこなんだ。」
「ちょっと読ませてもらってもいい?」
「うん。いいよ。」
百合は良男から絵日記を受け取り読み始めた。
(8月29日はれ、今日は百合おばさんの家で宿題をやりました。問題が多くて大変だったけどわからない問題は百合おばさんに教えてもらいました。そして、宿題が全部終わったので、明日から百合おばさんといっぱい遊ぶことができるからとても楽しみです。)
そして、文章の上には、椅子に座りテーブルに向かって宿題をしている良男の絵とその状況を見守っている百合の絵が描かれていた。
百合は嬉しそうにその絵を眺めている。
「どう?百合おばさん。」
「うん。よくできてるけど・・・どうせなら、もう一つ書き加えたら?」
「もう一つって?」
「ウフフ。お尻ペンペンされたこと。」
「百合おばさんの意地悪!!」
良男は顔が赤くなり、頬を膨らませる。
「んもう。冗談よ。そんなに怒らないで。」
「ふーんだ。」
良男はすねてそっぽを向こうとした。そして、その瞬間・・・
「いてててて!」
急に動いたため、不意にお尻に体重が掛かり、痛がる良男。
「もう。椅子に座るときは何かやわらかい物を敷かなきゃダメよ。」
「あいたたた・・・。」
良男は立ち上がり、痛そうにお尻をさする。
「しょうがないわね。じゃあ、今度はお薬塗ってあげるから、
ちょっと待っててね。」
そう言うと、百合は薬を取りにリビングから出ていった。


時計はまもなく午前0時を指そうとしていた。
家の中で唯一明かりのついているリビングには、椅子に座っている百合と、
百合の膝の上で再びお尻が丸出しとなった良男の姿があった。
お仕置きから2時間以上経過し、良男のお尻は心なしか赤みが薄くはなってきたが、まだまだ当然の如く真っ赤に腫れている。
百合はそのお尻に少しずつ丁寧に薬を塗ると、良男は気持ちよさそうに顔をほころばす。
その間、しばらく二人は話をしていた。
「良男くん。これでもう何も心配することはなくなったから、明日は思い切り遊びましょうね。」
「うん。」
「そのためにも、このお尻をできるだけ治しとかないとね。」
「うん。」
「あ。でも、プールに行ったらついでにお尻が冷やせるからちょうどいいかもね。」
「え?あ・・・うん。」
良男は恥ずかしそうにうなずく。
百合はそんな良男をみてプッと吹き出す。
すると、今度は良男の方から話しかけてきた。
「ねえ、百合おばさん。」
「何?」
「もしものことだけど、もしもね、僕が計算プリントのことをずっと黙っていたら、百合おばさんはどうしたかなって。」
良男は興味半分でおそるおそる百合にたずねる。そんな良男の姿を見て、笑みを浮かべてこう言った。
「それはもう、おばさんにばれた時点でお尻百叩きね。隠し事をしたり、嘘をつく子は絶対に許さないんだから。」
「・・・・!」
「あともちろん遊びもダメ。宿題が終わるまでおばさんの家で勉強漬けよ。少しでも怠けたらお仕置きってね。」
「・・・・!!」
「でも、良男くんはそんなことしなかったもんね。おばさんの家にきてすぐ正直に話したからね。ところで、なんでそんなこと聞くの?」
「べ、別に・・・。ちょっと聞きたかっただけ。」
そう言ってスパッとこの話を終わらせる良男。わずかながら体が震えている。
(百合おばさんには隠し事や嘘をついたりするのは絶対しない方がいいな。)
そう心に誓う良男であった。
「さてと、もう薬は十分に塗ったから、あとは薬がよくしみこむように、しばらくお尻を撫でるからね。」
百合はゆっくりと優しく、良男のお尻を撫で始めた。
良男はさらに気持ちがよくなり、目を閉じた。
(さっきまでの百合おばさんの膝の上は恐怖のお仕置き台だったのに・・・今はあったかくて、やわらかくて、いいにおい・・・。ずっとこのままでいられたらいいのに。)
こう思いながら・・・。
午前0時。日付もかわって8月30日。
百合はまだ良男のお尻を撫で続けていた。すると、
「ZZZ・・・」
良男は百合の膝の上でうつぶせのままスヤスヤと眠っていた。それに気付いた百合は、
「もう、良男くんたら・・・。」
百合は膝の上から良男を抱き上げ、椅子から立ち上がった。
「お尻は・・・出したままの方がいいわね。」
そして、赤ん坊を抱くような感じで良男をだっこした。
「フフフ。寝顔、可愛い。」
良男の寝顔をまじまじと見て微笑む百合。それから、百合は寝室に向かってゆっくりと歩き出した。
その間、だっこしている良男を見ながら、百合はこうつぶやいた。
「良男くん・・・本当はね、今回は良男くんに・・・お尻ペンペンしたくなかったんだよ。でも、良男くんがいい子だから・・・いい子すぎるから・・・お尻ペンペンしたんだからね。良男くんが可愛いから・・・お尻ペンペンしたんだからね。だから・・・ママを嫌いにならないでね。ママは良男のこと、大好きだからね・・・。」
良男は笑みを浮かべながら、ぐっすりと眠った。


そして良男は、残りの2日間、百合と一緒に思い切り遊びに遊んで夏休みを満喫し、良男にとって忘れることができない思い出となった3日間であった。