運動会(F/m)


「良男くん!良男くん、起きなさい!」
「・・・う、うーん。」
百合の呼びかけに、目を覚ます良男。
「・・・あれ?僕、何してたんだっけ・・・?」
百合が心配そうに見つめるなか、良男は今日のこれまでのことを思い出そうとした。


約6時間前の午前9時。
今日は町内運動会の日。
暦も11月を過ぎ、運動会をするには少し遅い感じがするが、昔からの流れのためか良男の町では、この時期に行うのが恒例となっていた。
良男はこの運動会をとても楽しみにしており、毎年、家族そろって参加している。ところが、今年は良男のおじいちゃんとおばあちゃんが急な用事で出られなくなったため、最初はがっかりしていた良男であったが、同じ町内の百合が良男の引率を引き受けることとなり、良男は大喜びであった。
「明日は良男くんの好きなものがいっぱい入ったお弁当を作って持っていくから楽しみにしててね。」
前日、百合はこんな約束をしたこともあり、良男はあまりに楽しみで仕方がなかったのか、その日の夜はほとんど眠れなかった。よって、朝には少し眠そうな顔をしたまま、白い半袖、半ズボンの体操着を着て、寒さに負けず小走りで会場へと向かった。会場は、本来ならば小学校のグランドを借りて行なう予定であったが、前日までの雨によりぬかるんでいたため、当日は晴れたものの、雨天時に使用予定であった町民体育館で行うこととなった。
一方、百合は良男の引率に加え、今回の運動会の役員をしており、主な役割として、会場準備・片付けに昼食用の豚汁調理係、おまけに体育館の施錠係と幅広いものであった。
運動会の形式は赤白対抗であり、良男は白組で偶然にも百合と同じ組となった。良男の参加種目は午前中は徒競走と玉入れ、午後は親子リレーである。
親子リレーとは、最初に子供が体育館を一周し、それを待っている親が子供をバトン替わりにおんぶをして、もう一周するというものである。今回は百合と共に参加することとなっており、良男は一番楽しみにしている種目であった。
いよいよ競技が始まった。良男は、最初に出場した玉入れは僅差で負けたものの、次の徒競走では、同じ3年生の友達らを振り切って見事1着となり、応援席にいる百合に対しガッツボーズを見せるなど、頑張っていた。
百合は、頭には白の鉢巻をして小豆色のジャージを着ており、はたからみると何かのスポーツ選手に見えるほどであった。
そして、百合は良男の競技を見終わるとすぐに昼食の豚汁の支度に取り掛かるべく、持参した緑色のエプロンを身につけながら、調理場へと向かった。
昼食の時間となり、百合と良男は応援席で仲良くお弁当と豚汁を食べていた。
「良男くん。あとは親子リレーだけだけど、一緒に頑張りましょうね。」
「うん!」
「フフフフ。」
良男は元気よく、にっこりとして返事をすると、その顔につられ百合も思わず笑い出す。そして、午後の競技が開始すると百合は席を立ち、調理場の後片付けへと向かった。
(親子リレーまであと一時間以上あるから、今のうちにトイレに行こうっと)
一方、良男はトイレへと向かった。すると、良男はトイレに入ると突然、激しい睡魔に襲われる。
(ふわぁぁ・・・なんだか眠たくなってきたなぁ・・・)
それもそのはず、良男は前日からほとんど眠っておらず、それに加えおなかいっぱいの状態となれば、眠くなるのも当然であった。
(少し・・・眠りたいな・・・)
こんなふうに良男は思いながらトイレを出ようとすると、良男の目にある場所が飛び込んできた。
[清掃用具室]
良男にはまだ読めない漢字が多々あるが、掃除道具が入っている場所ということは学校で知っていた。良男はおもむろにドアを開けると、すぐに清掃道具を奥に押し込めるとそこにスペースを作りだした。良男はからだが小さいため、座るには十分な広さであった。
さらに、良男はドアを閉め、壁を背もたれにして座りこむと、ついにはスヤスヤと眠りだした。
その頃、百合は調理場の片付けを終えるとすぐに体育館の方に向かう。親子リレー開始1時間前であった。そして、応援席に行った百合であったが、そこには良男の姿はなかった。
(あれ?トイレかしら?)
百合はしばらく待っていたが、良男は一向に戻ってこない。すると百合はトイレの方に向かい、男子トイレに素早く入ってあたりを見回した。すると小はもちろん大の方にも良男の姿は見当たらなかった。百合はそれを確認するとすぐに男子トイレを出る。大の隣にある清掃用具室は見ないままで・・・。
(いったい、どこにいったのかしら・・・?)
その後、女子トイレも確認したがもちろん良男はいなかった。刻々と時間が迫る中、百合は体育館内とその周辺をひたすら探すが、全くみつからず百合の顔に焦りの色が濃くなってきた。念のため、良男の家に電話をしてみたが、当然誰も出ない・・・。そして、リレー開始5分前、百合は参加をあきらめ、係の人に不参加を伝えると、百合はできるだけ大ごとにはしたくないという思いから、良男を知ってる子供達を集めて一緒に探してもらう事とした。しかし、子供の半分以上は親子リレー参加のため、少数精鋭での捜索となった。
すると、それから約10分後に子供の一人が「見つけた」と百合に伝えると、百合はその子にその場所に案内される。すると、そこは一番最初に探しに来た男子トイレであった。
「え?」
百合は、不思議に思いながらその子供に清掃用具室の前に案内され、ドアが開かれた。すると、そこには座り込んで眠っている良男の姿があった。百合はあぜんとした。
「もう、何でこんな所にいるのよー!?」
百合はそう叫ぶと、良男のそばにしゃがみこみ、声をかけた・・・。


そして今、百合の声で目が覚めて、良男はだんだんとこれまでの事を思い出していく。そして・・・
「わー!親子リレーは?」
良男は完全に目が覚め、ようやく自分の今の立場に気がついた。
「残念だけど・・・もう終わるころじゃないかな。」
「えー、そんなぁ・・・。」
良男はがっかりして、下を向く。
「ところで・・・どうしてこんなとこで眠っていたの?」
百合の当然の疑問に対し、良男は恥ずかしそうに答える。それを聞き百合は、
「そう。わくわくして眠れないことは誰でもあることだからねぇ。でも、良男くんがいなくなって・・・おばさん、本当に心配したんだからね。」
「・・・ごめんなさい。」
百合に対し、良男は素直に謝った。
「よし。じゃあ、今度は一緒に探してくれた子供たちにお礼を言いに行きましょう。良男くん、おいで。」
「うん。」
良男は立ち上がり、百合と一緒にトイレから出て行った。
そして、子供たちにお礼を言い終わる頃には、全種目が終了し、時間は午後3時を過ぎていた。勝負の結果は、赤組の勝利となり、百合と良男の白組は惜しくも負けてしまった。しかし、そんな結果とは関係なく人々には笑顔が見られ、みな楽しんだかのようであった。
一方、会場では後片付けが始まり、数人の大人と子供が作業を行っていた。そして、百合と良男もその中で一緒になって後片付けをした。やがて、作業に目処がついたところで、体育館の施錠係である百合からの指示により、作業をしてくれた人たちを解散させることにした。
「それじゃ、後は私が確認しますので。」
「わかりました。じゃあ、後はお願いします。」
「お疲れ様でした。」
百合はペコリと町内の人たちに頭を下げる。
「良男くん、バイバイ。また学校でね。」
「うん。みんな、バイバーイ。」
そして、子供たちも家へと帰っていった。
その後、二人は体育館内に人が残っていないかを確認し、窓や扉等の鍵をかける作業をした。一通り作業が終わり、後は数個の折りたたみ椅子を体育館内の倉庫に片付けるのみとなった。そして、最後の1つの椅子を百合が運び、その百合に良男はついていく。
すると、体育館の真ん中あたりで百合はふと足を止め、その運んでいた椅子をなぜかその場に設置し、そこに座る。良男はその行動を不思議そうに見ながら、百合の側へ近づいた。百合は少し引きつった顔をしており、それに一瞬良男は後ずさりをしてしまう。やがて、百合はそんな良男をじっと見ながらゆっくりと話し始めた。
「・・・良男。」
「え?」
「ママ・・・とても心配したのよ。急にいなくなっちゃうんだから・・・。」
「・・・・。」
先ほどの良男の行動に対し、再び叱責する百合。ずでに百合は「おばさん」から「ママ」になっており、良男は黙って百合の言葉を聞いている。
「すっごく探したんだから。もし、良男に何かあったらと思って・・・。」
「・・・・。」
下を向き無言の良男。すると、
「もう!こんなにママを心配させて・・・この子は!」
百合は急に語気を荒げると、おもむろに側にいた良男を持ち上げて自分の膝の上にうつ伏せにした。良男のからだは百合の膝の上で跳ね、かぶっていた赤白帽が落ちそうなくらい大きく揺れた。
百合はその良男の背中を左手で押さえつけると、すぐに良男の半ズボンとパンツを膝まで引きおろす。むき出しのお尻に冷たい風が当たり、良男はヒヤッと一瞬身を縮める。すると、その瞬間・・・
ピシャーン!
「・・・いっ!」
ピシャン!ピシャン!ピシャン!ピシャン!
間髪いれず、百合の平手打ちが良男のお尻に炸裂する。
誰もいない広い体育館の真ん中で、良男は椅子に座った百合の膝の上でお尻を叩かれている。こんな初めての展開に戸惑う間もなく、百合の右手が良男のお尻めがけて振り下ろされる。
ピシャン!ピシャン!ピシャン!ピシャン!ピシャン!
「・・・ひいっ!痛い、痛ーい!」
早いテンポでお尻を叩く百合。家でのお仕置きと違い、叩く音と良男の叫び声がエコーとして大きく響き渡り、いつもと変わった空間を作り出している。
ビシッ!バシッ!バシン!バチン!ビシィ!
だんだんと百合の叩く力が強くなり、それにつれて良男のお尻が赤く染まっていく。
「ひいぃー!痛いよー!」
「だめ!まだまだ許しません!」
必死で謝る良男の言葉に全く耳を貸さず、百合はお仕置きを続けた。
バシン!バシッ!ビシン!バチン!ビシーン!
ビシッ!ビシッ!バシッ!バチィ!バシーン!
「・・・うえぇーん!」
良男はついに泣き出し、その泣き声が大きく体育館中に響く。激しい痛みに
足をバタバタし、お尻をくねらせる。そんな良男に対して百合は、
「コラ、なに暴れているの!全く、こんなにママを困らせて・・・本当に悪い子なんだから!」
ベシン!バチッ!ビシッ!ベチン!バチーン!
「びぇえーん!ママ、許してぇー!」
百合の厳しい叱責からさらに強烈な連打により、良男は声をふり絞り、さらに許しを求めた。すると、百合はふと叩く手を止めると良男にこう言った。
「良男。今、あなたのお尻は痛いでしょうけど・・・あなたを探してる間、ママは心配で心配で・・・それ以上に胸が痛かったんだから。だから、ママのこの気持ちを良男がわかってくれるまで、お尻ペンペンします。いいわね?」
百合の言葉に目に涙を浮かべながら良男はじっと聞いている。そんな良男を見ながら、百合は再び右手を振り上げた。
バシーン!バシーン!ビチーン!バチーン!ベシーン!
「ううっ!ぴぎぃーっ!」
ベシーン!バチィーン!ビシン!ベチーン!バチーン!
「ひいぃー!ママ、もうしませーん!」
バチーン!バチッ!ビシッ!ベチーン!バッシーン!
「びえぇん!ママ、もう許してぇー!」
数回叩かれる毎に良男は心から許しを求めて叫び続ける。そして、
バシーン!バシーン!ベシッ!バチーン!バッチーン!
「うぇぇーん!ママ、ごめんなさーーい!」
50回ほど叩かれたところで良男は今日一番の大きな声で謝ると、百合は叩く手を止めて良男を抱え上げ、椅子に座ったまま良男をだっこした。
「良男。痛かったでしょ?でもね、それだけママも心配したんだからね。」
「うえーん。ママ、ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさーい!!」
良男は百合の胸元のエプロンに顔を埋め、お尻を叩かれていたときよりも
さらに大きな声で叫んだ。百合はそんな良男の背中をポンポンと叩いて
あやし、真っ赤に腫れ上がっているお尻を優しく撫でた。


夕方になり、外には人の姿が少なくなってきた。
そして、そんな町の中を百合は良男をおんぶしながら家に向かってゆっくりと歩いていた。
「良男くん。お尻、痛む?」
「うん、少し・・・。」
「家に帰ったら、すぐに冷たいタオルで冷やしてあげるからね。ある程度腫れが引いたら、お薬も塗ってあげるから、それまで我慢してね。」
「うん!」
良男は元気よく返事をする。さらに二人の会話は続く。
「百合おばさん。白組・・・負けちゃったね。」
「そうだね、惜しかったけどね。」
「僕が、午後の親子リレーにちゃんと出てれば、負けなかったかもね。」
「ウフフ。でも・・・良男くんは、ある意味で赤組に勝ったかもね。」
「え?どうして?」
「今日の良男くんは帽子も白、体操着も白でまさに白組の格好だけど・・・
お尻だけはお猿さんにも負けないくらい赤ーいもんねー。」
「もう!ふんだ!」
百合の言葉にすねて顔を膨らます良男。
「ウフフフ。」
「アハハハ。」
しばらく笑いながら家路へと向かう二人。すると、その途中で百合はある提案をする。
「良男!」
「え?」
「ここから家までママは良男をおんぶして走るわよ。いわゆる二人だけの親子リレーってとこね。いい?」
急にママモードに入った百合に一瞬驚きながらも、すぐ良男は事を理解した。
「うん!」
良男は大きくうなずくと、百合は笑みを浮かべながら、すぐさま全力で走り出した。すると、良男の顔が急にこわばる。
「痛っ!ママ、お尻こすれて痛いっ!」
おんぶされたまま急に走られたので、お尻を痛がる良男であったが、それにかまわず百合は走り続ける。良男も痛みに耐え、笑いながら百合にしがみつき、最後の種目「親子リレー」を楽しんだのだった。


夕日の方へ向かっていった二人を、赤い光がいつまでも照らしていた。