除夜の鐘(F/m)


師走。
今年もあとわずかとなり、繁華街も最後の追い込みとばかりに活気づいている。
今日は大晦日。時間も夕方になろうとしてる頃、良男は百合の家にいた。本来、良男の大晦日はおじいちゃんとおばあちゃんと一緒に過ごし、新年を迎えるのが恒例であったが、今回はおじいちゃんが前日の大掃除の際、ぎっくり腰になり、入院してしまった。そのため、おばあちゃんは当分の間、病院を行き来することとなり、あわただしい年末年始が想定される。
すると、その話を聞いた百合は、それならばとしばらくの間、良男を家に泊めてあげるとの提案を良男に持ちかけ、良男は大喜びで了解した。百合の正月休みが土日が重なって1月6日まであり、よって良男の小学校の始業日である7日の朝まで、良男は百合の家でお世話になる事となった。
そんな良男は今、百合と一緒に夕食の準備をしている。リビングのテーブルに百合特製の料理がずらりと並ばれ、2人で食べきるのは絶対不可能なくらいの量であり、飲み物はジュースとワインが置かれている。
「さてと、これで食べ物は全部置いたかなっと。」
「百合おばさーん。このコップとお皿はどこに置けばいい?」
「それぞれの席に置いてくれる?あ、ワイングラスは私の席にお願い。」
「うん、わかった。」
良男はテキパキと百合の指示通り作業を進めた。
冬だというのに上は生地が薄い水色の長袖シャツに下は黒色の半ズボン。子供は風の子といわんばかりの姿である。
一方、百合はサラっとした長い黒髪をなびかせ、ブラウンのワンピースに白色のエプロン、そして細くスラッとした脚にはストッキングをはいており、相変わらず綺麗な容姿である。
「ウフフフフ。」
「何がおかしいの?百合おばさん。」
「いやね、毎年一人で新年を寂しく迎えていたから、何だか嬉しくてね。」
「僕もすっごく嬉しいよ。毎年あってもいいくらい。」
「だめよ。良男くんには家族がちゃんといるんだから。年末年始は普通なら家族と過ごすものよ。」
「百合おばさんだって僕の家族だもん。」
「もう、嬉しいこと言ってくれるじゃない。」
そう言って百合は良男のおでこに軽くデコピンをする。
「あ、痛ー。へへへ。」
良男は大げさにそう言いながら、おでこをポリポリとかく。
そんな良男を見て笑みを浮かべる百合。すると、何かひらめいたのか良男にこう話しかける。
「じゃあさ、良男くん。こうしない?」
「え?」
「年末年始に良男くんがいる間、私は良男くんのママでいるの。」
「へ!?」
「驚く事ないでしょ?っ雰囲気だけでも家族として新年を良男くんと迎えたいだけなんだから。」
「それじゃ、その間僕は毎日お尻ペンペンされるの?」
「そうじゃないの。確かに良男くんが悪い子になったときにはママになってお仕置きしてるけど、今回はそういう目的じゃないから。」
「なーんだ、よかったー。」
安心して胸をなでおろす良男。
「フフフ。なら、いいかな?良男くん。」
「うん!」
良男は元気に返事をする。
「よーし。そうと決まればこれから思いっきり楽しみましょうね、良男。でもね、もし良男が悪い子になったり、私を「おばさん」と呼んだときは・・・当然、お仕置きよ。」
「えー!悪い子になるはともかく「おばさん」と言っただけでお仕置きなんて・・・。」
「1回言うごとにお尻ペンペン10回だからね。」
「いー!?そんなー、百合おばさ・・・アワワワ。」
「ん?今何か聞こえたぞー?」
「な、何でもないよ。でもそれだと僕だけが損してずるいから、百合ママも僕を「良男くん」と言ったら お仕置きだよ。」
「え、お仕置きって何を?」
「1回言うごとにお年玉1000円!」
「・・・さてさて、冷めないうちに食べましょうね。あ、「おばさん」と言ったらお仕置きってのは冗談だから・・・早く座りなさい、良男。」
百合はそう言い捨てると、スタスタと足早に台所へ歩いて行った。
(逃げたな・・・)
良男はそんな百合の姿を見て、少し勝ったような気持ちになった。


夕食が終わり、年末特番のテレビを見ている二人。すでに後片付けは終わっており、良男は缶ジュースを百合はワインを飲んでくつろいでいた。
百合は普段は家でお酒は飲まないのだが、年末ということや良男がいて賑やかであるということもあり、小瓶のワインなどのお酒を何本か買いこんでいた。
「ねえ、ママ。もう一本ジュース飲んでいい?」
しばらくして良男が百合にこうお願いすると、
「いいわよ。冷蔵庫に同じのが冷えてるから・・・あ、それとは別の缶の飲み物も入っているけど、それは絶対飲んじゃダメだからね。」
「うん。」
そう言って良男は椅子から立ち上がり、台所へ向かった。
ガチャ
良男が冷蔵庫を開けると、缶ジュースが数本冷えていた。それを取り出そうとすると、良男の目に別の缶が飛び込んできた。
(何だろう?)
見ると、大きさが同じくらいで何か果物の絵の描いてある缶であった。
(これもジュースなのかな?)
良男はその缶を冷蔵庫の中から取り出した。
(オレンジの絵が描いてある・・・)
まじまじとその缶を見る良男。そこには確かにオレンジの絵が描いてあるのだがその脇にはカタカナで「スクリュードライバー」と書かれてある。これはオレンジが混ざっているカクテルの名称である。
(こっちのほうが、おいしそう・・・)
そうとも知らず良男は缶の絵だけで判断してジュースだと思い込むと、百合の言葉は年末年始の浮かれからかそっちのけになってしまい、おもむろに缶を開ける。
プシュー
炭酸の空気が缶の中から流れでる音が出て、良男はその飲み口を鼻に近づけにおいを嗅ぐ。
(オレンジのにおいだ)
そう確信すると、良男はそれを勢いよくその場でグビグビと飲みだした。
(あれ、オレンジの味はするけどなんか変な感じ・・・)
三分の一ほど飲んだ後、そんなことを思いながら、その缶を持ちながらリビングの方へと向かった。
「あれ、どうしたの?少し遅かったけど。」
百合は、台所から戻ってきた良男に優しく声を掛ける。
「ねえ、ママ。このジュース・・・味が変だよ?だから、飲むなって・・・言ったの?賞味・・・期限が・・・過ぎてるのかなぁ?」
少し奇妙な口調でそう言いながら、手に持っている缶を百合に見せると、ワインに酔って少し赤くなった百合の顔がサーッと急激に青ざめる。
「良男!まさか・・・それ飲んだの!?」
「・・・え?あ・・・うん・・・飲んだ・・・よ・・・。」
良男は百合の問いかけに答える中、床にヘタッと倒れこんだ。
「良男!!」
百合は自分の座っていた椅子を後ろに蹴り上げ、あわてふためいて良男の側へ向かった。


「う、うーん・・・。」
あれから数時間がたち、今年も残り30分を切ろうとしたとき、良男は目が覚めた。気がつくと、リビングで良男は椅子に座っている百合の膝の上に座るかたちでだっこされていた。
「大丈夫?良男。」
百合が心配そうに声を掛ける。
「ママ・・・僕、どうしたの?」
「どうしたのじゃないでしょ?急に倒れて・・・ママ、すごく心配したんだから・・・そうとも知らず本人は酔っ払ってスヤスヤ眠っちゃうし・・・。」
(酔っ払う?)
良男はまだ事態を把握しておらず、キョトンとしている。
「あのね、あの飲み物はお酒なの。お・さ・け!」
「え?え、あの飲み物って・・・えー!」
ようやく良男は我に返った。
「そう、缶だけ見るとジュースに見えるけど正真正銘のお酒なの。だから絶対飲むなって言ったのに!」
百合はそう声を荒げると、良男をだっこしている手の力がぐぐっと強くなり、相当怒っているのが良男には感じ取れていた。顔も相当こわばっているのが想像できるが、良男は怖くて後ろを振り向く事ができない。
「・・・・。」
「・・・・。」
しばらく、二人は無言になり、テレビに映るお気楽なタレントたちの声だけが無常にも流れている。そんな中、良男の方から口を開く。
「あ、あの・・・ママ・・・ごめんなさい。」
「・・・・。」
こわごわとした声で謝る良男に対し、百合は返事すらしない。
「・・・ママ?」
さらに少し震えながら百合に声を掛ける良男。百合は良男を膝の上でだっこしているため、良男がどんな心境なのかは震えなどで十分伝わっているのだが、全く微動だにしない。それから1、2分間。良男にとっては何時間にも感じる沈黙が続いた。そして・・・
ガバッ
「わっ!!」
百合は、無言で自分の膝の上に座っていた良男を持ち上げると、すぐさま自分の膝の上に良男をうつ伏せにした。あまりに急な行動に良男は思わず声をあげる。それから、百合は良男の半ズボンとパンツをあっという間に膝のところまで下げた。
「ひぃー!ごめんなさい、ごめんなさい、ママ!!」
もう自分がこれから何をされるかすぐにわかった良男は、百合に必死に許しをこう。しかし、百合は非情であった。
バシッ!バシッ!バシッ!バシッ!バシッ!バシッ!
ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!
百合は右手を高く振り上げ、ものすごい勢いと力強さで一言も話すことなく、ただひたすら良男のお尻を何度も何度も叩き続ける。
「びぇぇぇーん!びぇぇぇーん!!」
その間、良男はただ泣き叫ぶだけであった。今までにないといっても過言でない強烈な平手打ちであり、最初の10回で良男のお尻は、通常であれば30回ぐらい叩かれないとここまでならないというぐらい真っ赤に染まっていた。また、百合の表情もいつもの百合からは想像できないほどの怖さが感じられる。
バチーン!バチーン!バチーン!バチーン!バッチーン!
バシーン!バシーン!バシーン!バシーン!バッシーン!
ベチーン!ベチーン!ベチーン!ベチーン!ベッチーン!
「うぎぃぃぃーい!!!」
延々と叩かれる良男のお尻。何を言っているかわからない良男の声。それでも百合は全く言葉を発しないまま、ひたすら右手を振り上げる。もう60回は叩かれただろうか、良男のお尻は真っ赤を超えて濃い赤色に腫れ上がっていた。
バッチーン!バッシーン!バチィーン!バシィーン!バッチィーン!
ベッチーン!ベシィーン!ベチィーン!ベッシーン!ベッチィーン!
ビチィーン!ビシィーン!ビチィーン!ビシィーン!ビッシィーン!
バッシィーン!ビッチィーン!ベッシィーン!ヴァッチィィーン!
「・・・ひぃ、・・・ひぃ、・・・ひぃ、・・・ひぃ、・・・ひぃ。」
相変わらず何も話すことなく、良男を厳しくお仕置きする百合。
いつもなら最高でも60回程度で終わるお仕置きはであるが、今回はついに100回に達した。良男は生まれて初めてと言ってもいいお尻の痛みに意識がもうろうとなり、声がとぎれとぎれになっている。そんな良男の姿を見て百合もさすがに叩く手を止めようとした。しかしその時、
ゴーン・・・・ゴーン・・・・ゴーン・・・・
つけっ放しのテレビから流れる鐘の音。画面にはどこかのお寺が映し出されており、そこから除夜の鐘の音が響き渡っていた。そう、百合と良男はお仕置き中に新年を迎えるというめったにない経験をした瞬間であった。
そして、百合はそんな鐘の音を数回聞くと、なぜか突然叩くのを止めようとした手を再度振り上げた。
バシーン!バシーン!バシーン!バシーン!
バチーン!バチーン!バチーン!バチーン!
「ふぃぎゃあーっ!!」
間隔をあけてお尻に炸裂した平手打ちに良男は再び大声を上げる。百合はその声を聞くと、今度は本当に終わりなのか叩く手を止め、良男の見るも無残な赤紫色に腫れあがったお尻にそっと手を置いた。良男は百合の膝の上でグスグスと泣き続け、力が抜けたようにグッタリとしていた。
ガタガタッ
すると、突然百合は良男を脇にかかえて椅子から立ち上がると、早足にリビングを出る。
「・・・・!?」
良男は訳のわからぬまま連行され、百合はそのまま2階の寝室へ入っていく。
百合は部屋に入ると自分のベッドの方へ向かい、すぐさま良男を床のじゅうたんの上に立てひざをつかせ、上半身をベッドに覆いかぶせるようにしてお仕置きされたお尻をさらけ出す体勢にした。そんな良男の姿を確認すると、百合はお仕置き中全く動かす事のなかった口をようやく開く。
「いいこと、良男?ママがいいと言うまでここでお尻を出したまま反省しなさい!ママはまだまだ許しませんからね!それから、ママはこれから部屋を出るけど、戻ってくる前に勝手に部屋を出たり、パンツをはいてお尻を隠したりしたら・・・もう一度お仕置きしますからね!!」
「・・・・!!」
あまりにも厳しすぎる百合の言葉に良男はガタガタと震えだした。しかし、そんな良男を尻目に百合は振り返ることなく部屋を出ていった。
「・・・・うぇぇぇーん!うぇぇぇぇーん!!うぇぇぇぇぇーん!!!」
百合が部屋を出た後、良男はベッドの布団に顔を埋めて大声で泣き出した。
激しいお尻の痛みと、百合の豹変した態度に対して、ただひたすら泣き続けるのであった。


あれから1時間が経過した。しかし、百合はまだ部屋には戻って来ていない。
良男は百合の言いつけ通り、痛そうに腫れあがったお尻を出したままじっとしていた。まあ、そもそもパンツをはくにもお尻が痛すぎてはけず、部屋を出るにも同じ理由でまともに歩けないからであるが・・・。
しかし、ここで良男の身にある現象がついに出てしまう。
(おしっこ・・・したくなっちゃった)
さすがにお尻を出したまま1時間もたつと、部屋は暖房で暖かくなってはいるが、下半身だけが冷えてしまえば、こうなるのも当然であるといえる。
(どうしよう・・・)
布団を握りしめ、考え込む良男。
(ここでトイレに行ったら、また・・・お尻ペンペン・・・)
こんなことを考え出してガタガタと震える良男。だが、もう限界が近くなってきた。
「えーい!」
良男は思い切って立ち上がる。
ズキィーン
「ひぃー!」
お尻の痛みで思わず直立不動となる良男。しかし、それにもめげず顔を引きつらせながら、膝に半ズボンとパンツを絡ませた状態のまま小刻みな早足で部屋のドアまで行き、ゆっくりとドアを開ける。キョロキョロとあたりを見回す良男。百合はまだ1階にいるらしい。
(・・・よし)
良男は再び物音を立てないよう小刻みな早足でトイレに向かった。痛みで声を出さないように手で自分の口をふさぎながら・・・。そしてついに、トイレの前に着くと、良男は早業でドアを開け、中に入り、そっとドアを閉める。
ズキィーーン
(・・・・!!)
あまりに無理な行動をしたため、再びお尻が激しく痛む。しかし、良男は声を押し殺して耐え抜くと、ついに用を足す。おしっこの音を抑えるため、トイレットペーパーをクッションにするという細かな作業も忘れない。そして用を足し終わると、良男は水を流さずに便座の蓋をとじる。その後、すぐさまトイレのドアを開け、再びあたりを見回して確認すると、また小刻みな早足で寝室へと向かう。
(ふぅ・・・)
心の中で安堵した良男は寝室のドアを開く。すると、
(・・・・!!!)
安堵があっという間に恐怖に変わる。目の前には、ベッドの縁に腕組みをして腰掛けている百合の姿があった。
「・・・・。」
「・・・・。」
百合は無言でキッと良男をにらみつけると、良男はまさに蛇ににらまれたカエル状態になり、黙ってたたずんでいるだけであった。そして、そんな良男に対し、百合は自分の太ももをポンポンと叩いてみせる。
「・・・・!」
良男は一瞬驚いた。しかし、すぐに覚悟を決め、おそるおそると膝に半ズボンとパンツを絡ませて両手で前をかくしながら百合の側に行くと、観念したかのようにすぐさま百合の膝の上にうつ伏せになった。
「ママの言いつけを守らない子は・・・わかってるわね?」
百合はそう冷たく言い放つと、良男はコクリとうなずいた。
「覚悟なさい!」
場所が寝室に変わり、百合の右手が再び高く振り上げられた。良男は、その際に発生した風をお尻に感じると、とっさに目を閉じ、ベッドの布団を両手で思いきり握り締めて衝撃に備える。すると、
「・・・なんてね。」
そう言うと、百合は振り上げた手を下ろすと自分の背後からタオルを取り出し、そっと良男のお尻に掛ける。
「ぎゃー!冷た−い!!」
「ウフフフフ。」
良男は予期せぬ冷やしタオルに思わず百合の膝の上で暴れると、百合はたまらず笑い出す。
もうそこにはあの怖い怖い百合の姿はなかった。百合の背後にはお盆に乗った氷水とタオルの入った洗面器があり、寝室に戻ってきた良男にとって死角となっていた。当然、百合はそれも把握していた。
「驚いたでしょ?」
「・・・うん。」
優しく言葉をかける百合。しかし、まだ良男は心臓はドキドキしている。
「トイレに行ってたのよね。」
「・・・・!」
百合のズバリ一言。良男の行動はすでにお見通しであった。
「まあしょうがないよね。逆に漏らされちゃった方が大変だし。」
「・・・・。」
「良男はもう十分反省したもんね、だからもう許してあげる。でも、ちょっとママもきつく叩き過ぎちゃったかな?だけど、良男が酔って倒れたときはすごく動揺したんだからね。」
百合はそう言いながら、タオルの上から良男のお尻をなでる。
「うん・・・。ママ、ごめんなさい。」
良男は百合に対し、心から謝った。そんな良男を見て、百合は自然に笑みがこぼれる。
「ほら、良男のお尻も痛いだろうけど、ママの手だって痛かったんだよ。」
百合は自分の手のひらを良男に見えるように広げると、真っ赤なもみじのようになっていた。
「痛い?」
「そりゃあ痛いわよ。あれだけ良男のお尻を叩いたんだもの。良男がここで反省してる間、ずっと冷やしてたんだから。でも、良男のお尻に比べれば大したことないけどね。」
「ごめんね、ママ。後で僕がママの手を冷やしてあげる。」
「ウフフ、ありがとう。良男がそう言ってくれるだけでママの手はすぐに良くなるわ。そうすれば、また良男のお尻をたくさん叩けるもんね。」
「もう、ママなんか知らない!」
「フフフ。」
こんな二人の会話が続き、その間、百合は良男のお尻をせっせと冷たいタオルで冷やしていた。
すると突然、百合は良男にこんな質問をした。
「ねえ、良男。」
「何?」
「さっき、ママが何回お尻を叩いたかわかる?」
「いっ?あ、うーん、わかんない。お尻がめちゃくちゃ痛くて数えることなんかできなかったもん。」
「108回よ。すごいでしょ?」
「・・・・!」
百合はにっこり微笑んでそう言うと、良男は驚いて無意識に自分のお尻を手でさする。
「僕、それだけ叩かれるほど悪い子だったもんね・・・。」
「そうね。ママの言うことを聞かないで心配ばかりかける子には、かなり厳しいけどお尻百叩きかなってね。それでね、100回叩いた後、もうやめようかなと思ったんだけど・・・。」
「思ったんだけど?」
「そのときにふとテレビから聞こえてきたのよねえ、あの音が?」
「あの音?」
「除夜の鐘よ。」
「除夜の鐘?」
「年末に、お寺で年をまたいで鳴らす鐘のことよ。でね、そのときに鳴らす鐘の回数が108回なのよ。」
「え?じゃあ、もしかして・・・。」
「そう。あと8回叩けば同じ数になるからちょっと、ね。でも、ちゃんと意味があってやったのよ?」
「意味?」
「昔からの言い伝えだと、人間には108つの煩悩があるんだって。あ、煩悩ってのは良男にわかるように言うと悪い子になっちゃうバイキンみたいなものかな?でね、その煩悩をやっつけるために鐘をその数の分だけ鐘を突いて新しい年を迎えるんだって。」
「へえー。」
「だからね、良男のお尻を除夜の鐘に見立てて108回叩いたってわけ。これで良男の中にいた煩悩が全部いなくなって、新しい年もまたいい子になれると思ってね。」
「ふーん・・・。」
百合の説明を百合の膝の上でじっと聞いている良男。内心、そんな単純な理由で8回も余計に叩いたことを少し不満に思ったが、百合の機嫌を損ねると察知し、口に出すのを思いとどめた。
「ねえ。こういうのはどうかしら。」
「え?」
「もし、これで良男がこの1年もいい子でいられたらさ、また年末にお仕置きしよっか?今回のお仕置きの効果があったってことで、恒例行事にするって感じでね。」
「!!!」
突然の百合の提案に良男は驚きのあまりまるでお尻を叩かれた時みたいに百合の膝の上で跳ね上がる。そして、すぐさまブンブンと首を横に振った。
「アハハ。もう良男ったら、冗談よ冗談。」
「もう!ママの意地悪!」
思わず笑い出す百合に対し、良男はプーッと顔を膨らましてむくれてしまう。
「ウフフフ。ごめんね。」
そう言って、百合は良男の頭を優しく撫でると、良男はまた自然と笑顔になるのだった。
そんな二人の会話がしばらく続き、良男のお尻をある程度冷やされたところで、百合は膝の上にうつぶせになっていた良男を丁寧に抱き上げてベッドから立ち上がった。良男のお尻はむき出しにされたままであり、大分冷やされた後ではあるがまだまだ赤く腫れ上っていてズキズキと痛む状態である。百合はそんな良男のお尻をゆっくりと撫でながら、赤ん坊をあやすかのようにだっこをした。
「さて、良男。これから、一緒にお風呂に入りましょ。お互いお仕置きで汗びっしょりかいたもんね。お風呂は少しぬるめにしてあげたけど、それでもお尻はかなりしみると思うから痛いときはすぐママに言ってね。お尻ナデナデしてあげるから。」
「うん!」
良男は元気に返事をすると、百合に強く抱きついた。
「もう、甘えんぼなんだから・・・。」
百合は良男をだっこしたまま部屋を出ると、ゆっくりと歩き出した。
(良男、少し重くなったかな?そうよね、もう今年で4年生だし、これからどんどん大きくなるんだもんね)
お風呂場へ向かう中、だっこしている良男を見ながら感慨深げに心の中でつぶやきだした。
(そうなると、あっという間に5年生、6年生になって・・・だんだんと大人になっていくのね)
「・・・・。」
一方、良男はそんな百合の顔を不思議そうに見ながら、おとなしく百合にだっこされる。
(あと何回・・・良男にお仕置きできるのかな・・・)
様々な思いが百合の脳裏をよぎる中、二人はお風呂場へと入っていった。
それから結局、良男のお尻の腫れや痛みがひととおりおさまるのに冬休み一杯かかり、百合はその間、良男のお尻のケアに没頭した。良男は短い冬休みをお尻が痛いままで終わる悲しい結果となったが、ずっと百合が側にいてくれたことがその悲しみを吹き消すほどの喜びとなった。



それから・・・時は過ぎ、良男は小学校の卒業式を迎えた。
真新しい学生服に身を包んだ良男は、卒業式を終えると、一目散に走り出した。目的地はもちろん百合の家である。卒業式が土曜日に行われたこともあり、百合が会社が休みで家にいることはすでに周知済みであった。
そして、良男は百合の家のドアをあけると、そこにはすでに百合が待っていた。走ってきたため少し荒い息づかいの良男に百合がゆっくりと近づく。
「良男。卒業おめでとう。」
百合はしみじみとそう言うと、
「ありがとう。ママ。」
良男は元気に返事をした。
あの大晦日の夜から、二人はお仕置きするしない関係なく、二人だけのときはお互いを「ママ」「良男」と呼ぶようになっていた。そして、当然のごとくお仕置きは続けられ、4年生までは月1ペースで良男は百合の膝の上で泣き叫び、お尻を真っ赤にされていた。しかし、5〜6年生になったときには急激にお仕置きの回数が減った。良男が部活動などで百合の家に行く回数が減ったこともあるが、何より良男の心身の成長が大きかった。良男の身長は160cmを超え、約3年で30cm以上伸びた。体重もそれに乗じて増え、もはや膝に乗せてお仕置きするという子供の体格ではなくなっていた。
「・・・・。」
そんな立派に成長した良男をしばらくじっとみている百合に対し、良男が話しかける。
「ねえ、ママ。」
「なあに?」
「ありがとう。」
「え?」
「ママのおかげで、僕、いい子になれたんだよ。」
「・・・・。」
「ママがね、僕が悪い子になったときにお尻ペンペンしてくれたから、いい子になれたんだよ。」
「・・・・。」
「ママがいたから、僕、こうやっていい子のまま卒業できたんだよ。」
「・・・・。」
良男は話すたびに目に涙がたまっていき、そんな良男の言葉を百合は黙って聞いている。
「でもね、僕、まだまだ子供だから・・・ママがいないとダメだから・・・中学生になっても・・・僕のママでいてほしいんだけど・・・うわっ!」
良男が言葉を言い終わると急に百合は良男をガバッと抱きしめた。
「当たり前でしょ!良男が子供だろうが大人になろうが、良男のママは私しかいないんだからね。」
「ママー!」
良男は大きな声で泣き出した。その泣き声に感化され、百合の目からも大量の涙があふれてきた。良男の大きくなったからだを強く抱きしめると、3年前の自分の腰ぐらいの背丈だった良男の姿が頭をよぎる。そして、良男の成長をからだいっぱいに感じると、百合の涙はもう止まらなかった。
「全く、ママをこんなに泣かせて悪い子ね・・・こんな大きくなった悪い子には、お尻ペンペンのかわりにたっぷりと家でお説教してやるんだから・・・お祝いのご馳走を食べながら、ゆっくりとね・・・。」
「うん。ママ、ごめんなさーい!」
百合と良男は二人抱き合いながら、ずっとずっと泣き続けたのであった。


こうして3年余り続いた百合と良男の「リアルお仕置きごっこ」は終わった。