語尾にアルで何が悪いっ!?


俺は開拓地を広げていた、
といってもそういった職業に就いているわけではない。
自転車で知らない道へ入り、自分の行動範囲を広げる、
いわゆるただのサイクリングだ。
おっと、自己紹介が遅れた、
俺は「新田夜騎士」(にったないと)だ。
どうだ、夜騎士と書いてナイトと読ます!!・・・知ったこっちゃ無いか。
歳は14、中2だ。
趣味はこの「開拓地広げ」・・・。
そして世間一般で言うオタクという種族だ、
あとは・・・もう良いか、
じゃあ自己紹介はこのくらいにしようか。
そんでだな、さっきも言ったとおり俺はこの暑い時期にも関わらず、
物好きにサイクリングをしているんだが・・・、
俺のこの行動に大した目的は無い。
別に特別楽しくも無い。
しかしなぜか俺はこの行動を繰り返してしまう・・・。
ある種のマゾヒストってことかね?・・・知らんか。
そんな自問自答をしながら俺は腕時計を見る。
時計を頻繁に見るのは俺の癖だ、典型的な日本人。
時計は3時5分・・・、
狂って2分ほど進んでいるので正確には3分だな・・・。
まだ日は高いが明るいうちに帰りたい、
・・・じゃあ帰るか。
俺は自転車を走らせる。
スピードを上げると心地よい風が頬に当たる。
・・・この瞬間が最高だ。
俺はスピードを更に上げた。
このスピードならば10分も経たずに家につくはずだ。
そう考えながら俺は自転車を走らせる、
俺の家は14階建てののっぽビルなのでしばらく進むとすぐに顔をだした。
あとはそこへ向かって進むだけ、
信号は見事に俺を受け入れ、常に青色を灯している、
おかげで気分良く家の前までついた、
「・・・ん?」
俺は家の前に立ち止った、
マンションの目の前に引越し車が止まっていたのだ。
「このマンションの空家って・・・俺んちの隣か・・・」
俺はふとそう思った。
そうなるとお隣さんが来るわけだな、
俺はエレベーターに入り、自分の部屋のある12階を押した、
お隣さんはどんな人だろうか?
別にどうでもいいことだがどうせなら美人のおねーさんとかのがありがたい。
そんなことを思いながら12階に着いた、
そしてそこにはポニーテールの若い女性がいた。
「・・・っ!?」
俺は驚いた、何にってその服装にだ。
着物・・・それも上は白いはっぴのような物で細かな刺繍がしてある、
下はなんと言うか、布製のだらだらなズボンのような形状、
そこに帯が巻いてある。
いわゆる中国風の着物だ、
日本人が中国人女性のイメージで、チャイナドレスの後、もしくはその次に
イメージするであろう姿だ。
なぜあんな格好・・・?
俺はついまじまじと彼女を見つめた、
すると彼女が振り向いた。
か・・・かわいい・・・、
しかしそんなことを思うもつかの間、彼女と目が合う。
「あ・・・あの・・・あたしの顔に・・・何かついてるアルか?」
「アル」!!!???
いまどきアルが語尾に付く中国人って・・・、
もしかしたらそういうアキバ系の人なんだろうか?
「あ・・・この服装アルか?オタクか何かだと思ったアルね?」
す・・・鋭い・・・。
「い・・・いえ・・・」
「良いアルよ、おんなじようなモンアル、可愛いから着てるだけネ」
・・・そうなのか・・・。
「・・・ところで・・・ココに引っ越してきた方ですか?
俺、ココに住んでる・・・新田・・・新田夜騎士っていいます」
俺が自己紹介をすると彼女は少し焦ったように、
「アイヤー!ココの住人さんだったアルか!すみませんアル・・・、
あたしココに引っ越してきた「イ ロンロン」アル、
お察しの通りちゃいにーずアルね」
チャイニーズ・・・やはり本当に中国人なのだろうか・・・?
「あ・・あの・・・本当に・・・中国人なのですか・・・?」
「ほえ?なんでアル?」
「いや・・・その服装とか・・・しゃべり方とか・・・、いかにも過ぎるので」
俺はだいぶストレートに質問した、
「あぁ、このしゃべり方はあたしの日本語の先生が
「中国人は語尾にアルを付けるべきアル」って人だったからアル」
「へ・・・へぇ・・・」
変わり者の先生だな・・・。
「その先生かなり頑固で普通の日本語しゃべりたいって言ったら、
怒ってお尻ペンペンされたアルよ・・・」
「・・・は・・・はは・・・」
俺はとりあえず愛想笑いをすることにした、
「ま、長い付き合いになるアル、ヨロシクアルね、ナイト」
彼女は手を合わせお辞儀をした、
「は、はい、宜しくお願いします、イさん」
「あ、ロンロンで良いアルよ」
「あ・・・はい・・・ロンロンさん」
すると彼女は、
「ちょっと待つアル」
そういってロンロンさんはかばんに手を突っ込んだ、
「ハイ、引越しそばアル」
それは85円のカップめんだった、
「あ、ありがとうございます」
「じゃ、あたしは部屋を片付けないといけないからバイバイね」
「あ、はい・・・では」
ロンロンさんは部屋の中に消えていった。
俺もそれを見送り、部屋に入った。
俺はいわゆる鍵っ子なので家の中には誰もいない。
俺はソファーに横たわった。
「ハァ・・・」
深いため息をつく・・・。
実はロンロンさんのある一言が俺の頭から離れなかったのだ・・・。
「お尻ペンペンされたアル・・・」

「お尻ペンペン」
実はこれは俺の憧れであった・・・、
いわゆるスパ愛好家、それもキーだ・・・。
可愛い女の人にお尻を叩かれたい・・・そう思って生きてきた・・・。
とんだ変体だよな?・・・へへっ・・・。
はぁ・・・。

「さて・・・さっきのそばでも食うか」
俺は台所へ向かった・・・。













時が流れるのは速いもので次の日だ。
今日も開拓・・・しかし今日は友人と一緒だ・・・。
「わりぃわりぃ、遅くなった・・・カケル」
「おぉ、久しぶりだな、ナイト」
山口カケル、
俺の親友であり、オタク仲間。
そして何より、俺と同じ趣味の持ち主・・・、
そう、彼もスパ愛好家だ。
何でそんなことしっているかというと俺が唯一自分の秘密をばらした相手であるからであり、たまたま趣味がかぶっていたからだ。
「類は友を呼ぶ」ってね。
まぁ恥ずかしいからお互いその話は基本的にしないのだが・・・。
「さて行くか」
「だな、カケル」
俺たちはいつものように自転車をこぎだした。
「しかし俺たちも物好きだよなぁ?」
カケルが俺に言う。
「まぁな・・・へへっ・・・」
俺はそう答える、会うたびに毎回行う会話。
しかしカケルという人間はなかなか面白い、
なぜかいつも常に元気なさげにしているし、
最近はよく独り言を言っている・・・何かまとわり付いてるのかね?
まぁ、そんなことはどーでもいい。
俺はボーっと空を見る。
東京にしてはいい天気だ、ミンミンとセミがいっそう強く鳴く。
俺はハンカチを取り出し汗をぬぐった。
「ナイト、そういやさ」
いきなりカケルがしゃべりだす、
「ん?」
「お前のマンションにさ」
「俺のじゃない」
「分かったよ・・・お前の住んでるマンションにさ、引っ越してきた人いるだろ」
「なんでそれを知ってる?」
こいつはストーカーか?
「お前の家の前を通ったンだが・・・どんな人だ?」
何を期待しているのか、そんなことを聞く、
「ん・・・中国人の女の人」
「へぇ・・・」
反応薄いっ・・・!!
「それだけか?」
「ああ」
本当俺たち何やってんだろう・・・?

俺たちはその後もそんな会話を続けながら開拓を続け、そのうち夕方になる、
カケルと別れ、そして俺は家に帰ってきた。
俺の部屋の前についた時、ふとロンロンさんの部屋を見た・・・、
・・・ん・・・?
扉が半開きになっている・・・、
普通なら何も思わず終わるのだが・・・この時は違った・・・。
・・・のぞいて見たい・・・、
別にいやらしい気持ちがあるわけではない・・・、
ただなぜか見てみたくなったのだ、
人間として最低な行為だと分かっている・・・、
しかし俺は・・・扉の隙間に顔を向けた・・・。
「何してるアルか!?」
後ろから声がした、ロンロンさんだ・・・。
「ナイト・・・何してたアル?」
「・・・い・・・いや・・・」
ロンロンさんは俺をにらんだ、優しい目ではあったが怒っていた・・・。
「のぞいてたアルね?」
ロンロンさんは低い声で俺に聞いた・・・、
どうしよう・・・ウソはつけない・・・でも認めたら・・・、
嫌われてしまう・・・。
「・・・・・・」
「ナイトッ!!」
ロンロンさんはついに俺を怒鳴った。
「仕方ないアルね・・・入るアル、中で聞くアル」
ロンロンさんは俺を部屋へ導いた・・・。
部屋の中はまだダンボールが残っているものの、きれいに片付いている、
ロンロンさんはリビングに正座した、
「座るアル・・・」
俺は言われたとおりロンロンさんの前に正座した。
「ナイト・・・正直に言うアル・・・、なんでこんなことしたアルか?」
ロンロンさんは俺にそう聞いたが、俺は答えをすぐには出せなかった。
いやらしい気持ちは少しも無い・・・、
泥棒するなんて滅相も無い・・・、
じゃあなぜ・・・?
「分かりません・・・分からないけど・・・」
俺は訳がわからなくなり涙をこぼしていた・・・、
「・・・気になったんです・・・」
俺は一つ搾り出した言葉を口に出した。
「・・・気にしてくれたアルか?それはありがとうアル」
ロンロンさんはにこっと笑った。
「女の子の部屋を見てみたいのは分かるアル、
でも、勝手にのぞいたら「のぞき」アル、犯罪アルよ?」
ロンロンさんは俺の顔を見直した、
「・・・はい・・・」
「もうしないアルね?」
「しません・・・絶対・・・」
「フフッ・・・なら許すアル!!
ドアを開けたままにしておいたあたしも悪かったアルし・・・」
ロンロンさんは俺の頭をなでた、
「でも・・・」
・・・でも・・・?
「許す代わりにおしおきをするアル!!」
「へ・・・おし・・・おき・・・?」
あまりに意外な言葉に俺は呆然となった。
「そうアル、悪い子にはお尻ペンペンするアル」
「いいっ!!」
びっくりした、その一言に尽きる。
いきなり今までの妄想が現実世界にやってきたのだから。
「ほら、早く来るアル、早く来ないととっても痛いペンペンになるアルよ?」
ロンロンさんは自分の膝をポンポンッと叩いた、
・・・膝にうつぶせになれという事か・・・。
あんまり待たせるとまた怒られそうなので俺はロンロンさんの膝に寝転んだ。
「・・・これでいいですか?」
「アイヤー!」
・・・多分良いのだろう・・・。
「じゃあ、お尻出すアル」
「はい?」
意味がわからないです・・・。
「だからお尻出すアル、ズボンと下着を下げるアルね」
「いっ・・いや・・・ちょっと・・・」
「何恥ずかしがってるアルか!?お尻ペンペンの時はお尻出すのが常識アル!」
で・・・でも・・・女の人の前じゃ・・・、
「・・・いやです・・・」
「へー、そんな悪い子は「お尻1万ペンペン叩きの刑」アルよ?」
そ・・・それは・・・、
「わ・・・分かりました・・・」
俺はジーンズのベルトをはずし、一気に下げた、
「OH!かわいいお尻ネ」
顔が思いっきり熱くなる。
「やめてください!!」
「ハハハッ・・ごめんアル」
どうやらだいぶ陽気な人らしい。
「じゃ、いくアルね!!」
俺はぐっと力を入れた、憧れとはいえ現実になると少し恐い・・・。
ぱちぃぃん!!
「うぁぁぁっ・・・ったぁぁ・・」
い・・・痛い・・・とっても痛い・・・、
「痛いアルか?」
「・・・はいぃ・・・」
「じゃあがんばるアル、いくアルよ」
ぱちぃぃん!
「く・・・うぅぅ・・・」
あまりに痛い・・・痛さで今までこらえていた涙がまたこぼれた・・・、
「ふぇぇぇ・・・」
「もう泣いちゃったアルか?情けないアルなぁ・・・」
ぱちぃぃん!
「いたぁぁぁ・・・や・・もぅやぁぁ・・・」
「やじゃ無いアル!おしおきアルよ!?我慢するアル」
ぱちぃぃん!
「いあぁぁ・・・」
ぱちぃぃん!ぱちぃぃん!
「や・・・やだぁぁ・・・ごめんなさいぃぃ・・・」
「謝ってもダメアル!!ちゃんと反省するまでペンペンネ」
ぱちぃぃん!ぱちぃぃん!
ロンロンさんは手加減無く俺を叩いた、
そのたびに俺は情けなく声をあげる・・・くそぉ・・・、
ぱちぃぃん!ぱちぃぃん!
「くあぁぁぁっ・・・も・・もうおしおきやだぁ・・・」
「もう、男の子が何言ってるアル!?そんな子はロンロン嫌いアル!!」
ロンロンさんはぷいっと顔をそむけた。
「そ・・・そんな・・・」
「じゃあちゃんとお尻ペンペン受けるアルか?」
「受ける・・・」
まるで母と三歳児の会話・・・恥ずかしい・・・、
第一いつの間にか俺タメ口聞いてるし・・・。
「はい、良い子アル」
ロンロンさんはまた俺をなでる。
「じゃあもう一度いくアルよ!!」
俺はもう一度力をいれ、体制を立て直す。
ぱちぃぃん!!
「くっ・・・うぅぅ・・・」
「や、弱音吐かなかったアルね?良い子アルよ」
ぱちぃぃん!
「んっ・・くくっ・・」
「よしよし、じゃあ良い子アルからあと10回でおしまいにするアル」
その言葉に俺は黙ってうなずく。
ぱちぃぃん!ばちぃぃん!
「うぃぁぁ・・・」
「あと8回アル、頑張るアル」
「・・・はいぃ・・・」
ぱちぃぃん!ぱちぃぃん!
「くぅぅぅぅっ・・・」
「あと6回アル♪」
ぱちぃぃん!ぱちぃぃん!
「ぬっ・・くぅぅ・・・」
「次は一気に3回ペンペンするアルね」
「・・・はいぃ・・・」
ぱちぃぃん!ぱちぃぃん!ぱちぃぃん!
「いあぁぁぁ!」
「最後の1回、一番痛いぺちんアル、覚悟するアル!!」
ロンロンさんの恐怖の宣言のあと、それはやってきた、
ばっちぃぃん!!!
「うあぁぁぁぁぁっ!!」
「はい、おしまいアル♪頑張ったアルね」
ロンロンさんはにっこりと笑ってもう一度俺の頭をなでてくれた。
・・・正直なところすごく恥ずかしい・・・、
でも・・・うれしかった・・・。
憧れの「おしおきのあとのナデナデ」・・・。
その時ロンロンさんは突拍子も無いことを言い出した。
「ところでナイト、あなたお尻叩かれてちょっと嬉しかったアルな?」
っっ!!!!!!!
「・・・そ・・・そんなわけ・・・」
するとロンロンさんはくすくすっと笑って、
「恥ずかしがらなくても良いアル」
そう良いながら俺の耳に口を近づけた・・・、














「あたしもおんなじアル・・・」














「いぃぃっ!?」
「フフッ・・・といってもあたしは半分カーアルが・・・驚いたアルか?」
ロンロンさんは俺に聞いた・・・、
「・・・まぁ・・・、
じゃ・・・じゃあなんで俺がキーだと・・・?」
「お尻ペンぺンの話の時のナイトの反応・・・、
あとは勘アルね、「中国四千年のひらめき」アル」
そんな・・・じゃあ昨日すでにばれてたんだ・・・、
「ぜ・・・絶対誰にも言わないでください!!」
「モチロンアル!!ナイトも言うなアルよ」
「も、もちろんです」
「フフッ約束アルよ?」
「はい・・・約束です」
するとロンロンさんは笑い出した、
「もう、そんなに行儀良くしなくていいアル、お尻ペンペンの時みたいに」
「うぁぁ!!やめてくださいっ!!」
俺は言葉をさえぎった、
「ハハッ、ゴメンアル」
「・・・もう・・・」
どうやら俺はとんでもない人と友達になってしまったらしい・・・。
でも俺はこのとき一つ予感した・・・、
俺はこのとんでもない人に・・・、
「ロンロンさん・・・さっき分からないって言いましたが・・・」
「ん?何アルか?」
「俺がのぞきをした理由・・・」
「・・・何アル?」
「・・・・・・やっぱりなんでもないです・・・」
「・・・??」














あっけなく恋をしてしまったらしい・・・。