まほーのランプ(ま、ボクはキリスト教徒じゃありませんが)


クリスマスイブだ。
ルナさんが来て二度目のクリスマス。…なんかロマンチックに聞こえるがまぁ普通にクリスマスだろう。
何せ特に何をするわけでもなく俺はこのクリスマスイブの一日を家でぽけーっと過ごしているわけだしな。
そういや本屋には去年ルナさんが買ってきた黒いサンタの話の新刊が置いてある。
こんなサンタさんならぜひ来て欲しい…嘘だ、決してそんな気持ちは…、
「マスター?」
「うぁっ!?ルナさん…」
「やましいこと考えてました?」
「人聞き悪い…考えてませんよっ!!」
「えー?でも年頃の男の子はえっちなことに興味をもって自然じゃないですか?」
「…ずばっと言いますね」
「持ってないんですか?えっちな本とか…あ、マスターオタクだからえっちなアニメかな?」
「なんか最近遠慮が無いですね…」
「で、どうなんです?持ってるんですか?持ってないんですか!?」
そんなに躍起になって聞くことだろうか?
「持ってないんですか…?嘘つきは泥棒のはじまり。泥棒はお尻ペンペンの刑ですよ?」
「ずいぶんマニアックな法律が誕生しましたね…」
えっちな本もアニメも持ってないな…まぁただ。
「友達からエロゲ借りたことならあります」
「へぇ…どうでした?」
「内容は面白かったですよ、泣きゲーでした」
「そうじゃなくてえっちなシーンですよっ!良かったですか?」
「そりゃあもう…ってこの話必要ですか?」
「ちなみにそのゲームのタイトルは…?」
「…やりたいんですね分かります」
「ちちちちちちちちちちちちちちちちちちちちちちち違います」
…うわぁ、口の前に手をおいてあからさまに焦ってる。
「こんなに噛む人見たことないんですが…」
「私はあくまでマスターの趣味を把握しようとっ」
「ランプの精にもそーゆーえっちな気持ちがあるんですね」
「違いますっ!!マスター!あんまり人をからかうとお尻ペンペンですよっ!?」
「理不尽な…、わかりましたよ」
まったく、クリスマスネタな時期に何を話しているやら。
「ルナさん、クリスマスイブですよ?もっとそれっぽい話とかないんですか?」
「彼女作らないんですか?」
すぱっと痛いこと言いやがったwww
作らないんじゃなくてできないんだっ!決して前の恋人のことなんて引きずってないっ!!
「クリスマスシーズンに独り身なんて淋しいですね」
「何か辛いことあったんですか!?なんか今日厳しくないですかっ!?」
「いえ、何も。からかいたかっただけです♪」
「からかったらお尻ペンペンじゃないんですかっ!?」
「それはマスターだけに適用されるルールです♪」
「いじめっこ…」
「何か言いました?」
「いえなにもいってません」
「えらく棒読みですね…というか今ごまかしても遅いですよ」
冷たい視線。いたいよーいたいよー。
「マスター、お尻ペンペンの刑です」
「ちょっ!!それはひどくないですかっ!?」
「大丈夫、ズボンの上からやさしーく五回ぺちんするだけですから♪」
嘘だっ!!絶対痛くするに決まってるっ!!
「ほらー、早く来ないとイターイお尻ペンペンになっちゃいますよー?」
「あぁぁぁぁぁっ!!分かりましたよっ!!」
仕方ない、俺は渋々ルナさんのもとに向かう。
「五回だし…これで良いですよね」
ルナさんは俺の腰に手をまわした。ちょうど尻が突き出てなんとも恥ずかしい。
冷静に言っているが恥ずかしい。
ここで「やーん恥ずかしいーっ///」とか言うほうがもっと恥ずかしい。
「はぁ〜」とルナさんは平手に息を吹きかけた。
「この動作は大事ですよね?」
「知りません…」
「尻だけに?」
「違います、寒いです、凍死寸前です」
「そこまで言いますか」
「だからおしおき追加とか止めてくださいね?」
「おや、マスターにもついに心を読み取る能力が…」
「ちょっ!!待ちなさい待ちなさい慌てなさんなっ!!」
「大丈夫です、一回追加するだけですから♪」
「一回でも痛いもんは痛いですっ!!」
「お尻ペンペン六回なんて格闘ゲームの投げ技によくあるじゃないですか?」
「格ゲーは大体三回くらいです(当社調べww)」
「たった倍ですから♪」
「されど倍ですっ!!」
「良いから、早くいきますよっ!?さっさと終わらせたほうが楽でしょ?」
良くないっ!問題しかないっ!!
しかしこういう心の叫びだけ都合よく読まないルナさん。
「行きますよっ!!」
ちょっ!!早い早い早いはやいはやいはやいはやいはやい…っ!!

ぱちぃんっ!!
「いったぁぁ…、嘘つき、痛いじゃないですかぁ…」
「そりゃあちょっとは痛いですよ♪」
ウィンクをかましてきたルナさん、可愛いんだけど…いかにも意地悪な微笑だな。
「とにかく続き、いきますよ?」
「もう…勝手にしてください…」
「じゃあ、それっ!!」
ぱちぃんっ!
「ひうぅっ!!」
「もう一気にやっちゃいますよ?」
ぱちぃんっ!
「ひゃぁぁっ!!」
ぱちぃんっ!
「くぅぅっ!!」
ぱちぃんっ!
「つぅぅっ…」
五回目で不覚にも涙が滲んだ。つぅぅ…痛い、涙が出るくらい。
「ではでは、最後はちょっと強くしますよ?」
俺はこくっと一つうなづいた。
「それじゃ…とぉっ!!」

ぱっちぃぃんっ!

「つっ!!」
声が出ないっ!!痛すぎて声が出ないっ!!
「あぅぅ…どこがやさしくなんですかっ!?」
「これでもやさしい方ですっ!!」
いじめっこばかばかへんたいっ!!…まぁ声には出さないが。
「さて、お尻ペンペンも終わりましたし、たまには外行きません?」
「へ?」
「部屋にこもってばかりじゃ身体に悪いですよ?」
「はぁ、じゃあ行きましょうか」
「そうしましょう♪」
俺はかばんを半ば手探りで探し出した。

























「で…」
「ごめんなさい、すみません」
「……♪」
「兄ちゃんひさしぶりー♪」

「なぜ俺たちん家に来た?」
リオさんが口元をぴくぴく動かしながら言っていた。
そう、ここは神島宅だ。
どうやらルナさんはもともとここに来るつもりだったようだ。
「いやぁ、ほんとは分かってるんじゃないですか?」
「何をだよ…?」
「ほら、この間英語の宿題出したじゃないですか♪」
…宿題?
あぁ、そういやいつだかにリオさんに勉強教えるとか言ってたな。
いつのまにかこんな師弟関係が築かれていたのか…。
「まさかやってないなんてことはないですよね?」
「あ、あぁ、ちゃんとやったぜ?」
リオさんは机の中をまさぐった。
「えー…これこれ…」
うわぁ…汚いノート。
「と、とりあえず綺麗にノート使いましょうね?」
「以後きをつけまーす」
「で、内容は…どれどれ…」
俺はルナさんのとなりからその中身を見た。




・私は今宿題をしています。

正、I am doing my homework now.

リオ、I was do homewalk now.(私は今、家歩きでした)


・私はリオです。

正、I am Rio.

リオ、I is Lion.(私いずライオン)


・あなたは犯罪を犯してはいけない。

正、You must not crime.

リオ、You are crazy.(お前狂ってる)





こりゃあひでぇやwww
中学レベル…の中でもわかりやすい文法を…ほとんど一年で習う内容を…。
「こ、個性的ですね」
ルナさんの必死なフォロー。流石そういうとこは優しい。
「…すまん」
察したリオさん。
「ねーリオー?これって「あい あむ りお」 だよね?」
うわぁ…秀作のが当たってる。
「俺英語苦手だから…今まで米英の人間の元にいかなかったのがラッキーだから」
すげぇ落ち込んでる…。
「ま、いっかー♪」
立ち直り早い、いいことだ。
「ゆっくり覚えていきましょうね?」
「あ、あぁ…」
リオさんはがしがしと頭を掻いた。
「しかし、本当にクリスマス的な要素ないですね…」
「ああ…ところでカケル?」
「はい?」
「お前さぁ…」
いきなり声が低くなったリオさん。
「シュウに俺がルナに尻叩かれたことばらしたろ?」
「えっ…あーーーーーーーーーーーー…」















「こないだリオさんルナさんに尻叩かれてないてたぞー?」
「ええー?ほんとー?」
「本当だぞ」
「リオかわいそー…」
「秀作はやさしいなー」
















言ったね、俺。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「カケルー?人のそーゆーことばらしちゃだめだよなー?」
いつになく意地悪な口調のリオさん。
「悪い子はおしりぺんぺんされちゃうんだよなー?」
「う…」
「ルナぁ…ちょっと手伝ってくれないか?」
「もちろん♪」
うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!ひどいルナさんひどいルナさんひどいっ!!
「シュウは見てな」
「う、うん…」
「で、私は何を?」
「今日は普段よりきつーくぺんぺんしてやりたいから、耐えられるように手ぇ握って慰めといてやってくれ」
「了解ですっ!!」
ちょっ、そんなに強くっ!!だめだってしんじゃうって!!
そんなことを考える暇もなく…。
「じゃあ来いカケル♪」
ぐっと腕を引かれ、椅子の上に座るリオさんの膝の上に乗せられた。
目の前にはルナさん。
「頑張ってくださいね♪」
そしてやさしく手を握られた。今はその笑顔さえ憎たらしいっ!!
「とりあえずずぼんぬぎぬぎしようなー?」
あえて幼稚園児にしゃべりかけるように言うリオさん。恥ずかしい…むかつくっ!!
しかし瞬く間にズボンと下着を脱がされ、なんとも情けない格好にさせられた。
「じゃあ…、いくぜ?」
「あ、待ってくださいっ」
ルナさんが声をかける。
「ん?」
「お手手にはぁ〜です♪」
あ、あれ大事なのね…。
「あ、あぁ…」
リオさんは手に息を吹きかけた。
「これで良いか?」
「ばっちりです♪」
「よーし、じゃあ今度こそ…っ!!」
手を振り上げる音が聞こえた。ちょっ待ってっ!!

ばっちぃぃぃぃんっ!!

「くっあぁぁぁっ!!」
いったぁぁ…ちょっ、マジで本気なんじゃないか?今までに無いくらい痛い…。
「「うわぁ…いたそう…」」
ルナさんと秀作が同じタイミングで言った。
「まだまだ一回だぜ?」
ばっちぃぃぃんっ!ばっちぃぃぃんっ!
「いったぁぁっ…いたいぃ…」
音が本当に普段と違う。すごく痛い。まだ三回なのに、早くも涙腺崩壊寸前だ。
「マスター、頑張ってください」
「まだまだだぞ?」
ばっちぃぃぃんっ!ばっちぃぃぃんっ!
「いっぎぎ…」
ほぼ無意識に足がばたばたと動く。痛い、逃げたいっ!!
「こーら、足動かすな、痛くするぞ?」
「すでに…いたいです…」
「…まったく」
ばっちぃぃぃんっ!ばっちぃぃん!
「ひあぁぁぁっ!」
どうしようもなくて、ルナさんの手をぎゅっと握り返してみた。
「マスター、痛いですか?」
「はい…」
するとルナさんは俺の耳元に口を寄せ。
「ここはとにかく謝るのが得策でしょう…」
…当たり前ではあるが、小細工するなってことだな。
ばちぃぃぃんっ!ばちぃぃぃんっ!
「ひゃぅぅぅっ!り、りお…さんっ!!ごめんなさいぃ…」
「本当に思ってるのか?」
ぱちぃぃぃんっ!ぱちぃぃんっ!
「ひぁぁっ!!思ってますっ!!反省してますっ!!」
ぱちぃぃぃんっ!ばちぃぃんっ!
「…恥ずかしかったんだからなっ!!」
ちょwwツンデレwww違うか。
ぱちぃぃぃんっ!ぱちぃぃぃんっ!
「い、いぅぅっ!!ごめんなさいっ…ごめんなさいっ!!」
「本当に本当に反省してるか?」
ばちぃぃぃんっ!ばちぃぃぃんっ!
「は、はいっ!!」
「…じゃあ仕方ない、信じてやろう。次で最後な」
「は、はいっ!!」
俺はぐっと歯を食いしばり、尻に力を入れた。
空気を裂く音が聞こえ、そして…、

ばっちぃぃぃぃぃぃぃんっ!!

「ぬぁぁぁぁぁぁぁぁあああちっ!!」
爆発したかと思った。死んだかと思った。
「へへへっ、痛かったろ」
「痛かったですよぉ…」
「はいはい、よしよし、がんばったな」
やけに心の篭ってない言葉とともに尻を撫でられた。
触られるだけでちょっと痛い。
「くっと顔をひずめ、ふと前を見ると…」
「どうです?言ったとおりでしょ?」
ルナさんが一つウインクをした。
可愛いな…まったく。
「さて、そろそろ日も暮れますし、私たちは帰りますね」
急にルナさんが言い出した。
「え…?やけにいきなりだな?」
「すみませんっ、いきますよ、マスターっ!!」
「えっえっ!?」
俺はリオさんの膝から引きずり下された。
「ちょ、せめてズボンはかせてくださいっ!!」
「良いからっ!!」
「良くなっ!!」
「さよならぁぁぁっ!!」
ルナさんに手を引かれ、俺は神島宅を後にした。

「なんだ?あいつ…」


















ルナさんは俺を家ではなく、駅の方向へ連れて行った。
「どこか行くんですか?」
「まぁ、任せてください♪」
「…?」
駅に着くと、俺はルナさんに言われるままに切符を買う。
改札をくぐるとすぐに電車が来た。
ルナさんは俺を引っ張ってその電車に乗せる。
そしてその電車が地下にはいってしばらくの駅で俺を下す。
分かっていただけたと思うが俺たちは地下鉄に乗っていた。
人が多くあまり会話は出来ない。むしろ無言に近い。
ルナさんは電車を降りると今度は階段を登ったとこにある地下鉄ではないタイプの電車に乗せた。
あたりはもうほぼ日が沈みかけている。
そんな中をこんなに急いでなんだっていうんだ?
ここらは俺らの町よりさらに都会だ。まだ微妙に付いていない電灯のせいでその町はやけに暗い。
橋の上の電車は、その町を上から見下ろすように走っていた。
「さて、マスター」
「はい…?」
「見ていてくださいね?」
「え…?何を…」
俺の言葉を聞かないままに、ルナさんは前に歩き出した。
そして、電車の壁をすり抜け、ちょっと遠くを電車に平行に空を飛ぶ…すると。

「あ…」

ルナさんを追いかけるように街のイルミネーションが灯りだした。
クリスマスの飾りが順番にライトアップされだしたのだ。
まるでルナさんの魔法で街に光が満たされるように…。
「綺麗だな…」
俺はぼんやりと外を見ていた。
するとルナさんが近づいてくる。そして一つ、にっこりと笑った。
頭に直接ルナさんの声が響く。
「これを見せたかったんです…」
おれもルナさんに届くように心の声を使ってみた。
「…綺麗です、ちゃんとクリスマスを用意してくれてたんですね」
「ええ、マスターへのプレゼントです」
「…ありがとう」
すると一瞬ルナさんの声が止まった。

「マスター、来年も、再来年も、ずっとずっと未来のクリスマスも、たとえマスターが結婚しても、いつかマスターの体が朽ちても…、こうしてクリスマスを過ごしてくれますよね…?」

口元だけの笑み。
なるほど、彼女作らないのかって…これを言うための伏線か。
俺は声をあげた。きっと周りは俺を怪奇の目で見ただろう…。


「あたりまえじゃないですかっ!!!」















聖なる夜は、少しずつ更けていく。

暖かな街の灯りが一人の少年と、美しい女の心を満たしていった…。