とーえんの誓い〜第一話:あ、いえ、この物語は三国とは何の関係もございません〜


人生何があるか分からない。まさにそうだと思う。
俺だってこんな状況が巡り巡ってやってくるとは思わなかったさ、こんな非現実的な超展開が。
だけどそれが現実…受け止めるしかないというか…別に最悪な事件に巻き込まれたわけではない。
いや、むしろ最高だろ?それが俺の願望だったわけで、しかも二つが同時にかなった。
冴えないオタク少年にとっちゃ最高の現実だ。…冴えない変態少年に訂正してもかまわないが。
ただ、とにかくあまりに信じられない、それだけだ。俺は誰に言うでもなく思ってただけだから…。
一つは兄弟姉妹が欲しいと、一人っ子として生きてきて淋しかったから。、
そしてもう一つ、友人たちには口が裂けてもいえない秘密。











お尻を…叩かれたい。

とんだ変態だろ?笑っちまう。
仮にも今年高校入りたての男子高生のお願いがちびっこみたいにお尻ペンペンされること。
まったく、ナンテコッタイwww
しかし、このとんだ変態のお願い事が、現実と非現実の中間あたりの超絶偶然的な運命によって叶う事になったのが今から一週間前のこと。
そして俺は運が良いのか悪いのか、その痛みを知ることにもなるわけだが…。
とにかく俺がこうも早々と自分の恥ずかしい話を暴露したことにはちゃんと理由が…というかこれを言っとかないと話が進まない。
言ってしまえばこれがこの話に大きく影響してくるわけだな。
そうだ、これが俺を非日常へと誘(いざな)った。
超絶な偶然と俺をめぐり合わせることとなった。
今から数えてたった数ヶ月前に…その偶然とかいう名前の『運命』は動き出していたのかもしれない…。
…なーんてな。
たしかに今この現状は非日常だがそんな大それたことでもないのだ。
ただあの時、まだなんとか中学生の俺はとあるサイトで知り合った友人たち5人とチャットとやらを興じていた。
相手は俺より一個下の女の子、当時(数ヶ月前)17歳の女子高生、当時(しつこいようだが数ヶ月前)18歳の同じく女子高生、当時(三度目まして数ヶ月前)20歳、大学生のお兄さん、当時(もういっそry)21歳、同じく大学生のおねーさん…。
もちろん皆自称だが…。
とりあえずこの五人とは一年近い付き合いがある。ほぼ毎日のようにここで話し合っている仲だ。
しかしネット上で仲良くなると、人間その次のステップに行きたくなる。その時の彼女もそうだったんだろうな。大学生のおねーさんだ。

「あの、皆?今度オフ会開きません?たしか皆東京住みでしたよね?」

オフ会…すなわち簡潔に省略しつつはっきりと言うと…「会わないか?」ということか。

「オフ会ですか…是非やりたいです」
「同じくですっ!!」
「もちろんやりたいに決まってますwww」

おいおい、どんどん話が進んでくぞ?
どうする?たしかにこの人たちは信用したいし俺だって会ってもみたい。
だけど…本当に大丈夫だろうか…?
「じゃあ開きましょう!!」
うぉいっ!!もうそんなとこまで進んでるのかっ!?
「レムさんはどうします?」
レム…あ、俺のハンドルネームだ…。どうする…どうするよっ!?
俺は考えた…少ない脳みそで…少ない脳みそを全力でフル回転させて…。
そしてでた答えは…。


「行きます」


やっちまったぜwww
「よし、決定ですねっ!!」
「じゃあさっそく待ち合わせ場所を決めましょう」
「では住んでる市区町村だけ公開しましょうか、そうすれば全員の一番近い駅にでも出来ますし」
「そうですねー」
ちょっ展開速いぞおまいらwww
「えっと…一応私は江戸川区なんですけど…」

あ、俺と同じだ。

「え、マジですか、私もですよwww」
「あ、俺もです」
「自分もですよっ!?」
「ええええっ!?私もですwww」
「わ、私もなんですけど…」

…こいつは笑えるな。日本って江戸川区だけでできてたのか…。
これは決してノリ突っ込みでもボケでもない。本当にそう思った。

「何故か俺も江戸川区住みです…(苦笑)」

こうして第一の偶然が出来上がった。
まさかたまたまネットで知り合った人間が全員割と近場に住んでいるとは…。
俺たちはここらにある数少ない駅から一つを指定し、そこを待ち合わせ場所に決定した。
それにて今日はお開き。俺はパソコンをシャットダウンした…。

…やべ、めちゃくちゃ手が震えてる。
何ら甘楽で結構焦ってるな俺…大丈夫かい俺…。


と、まぁそれから数えて二回目の週末。いわゆる約束の日ってわけで…、
俺はその例の駅、俺んちからもかなり近い。
辺りには忙しそうに歩き回る人の波、さて、この中からどうやって探せと…、一応全員目印にアップした帽子を被ってるはずなんだけどな…。
…え〜っと…どうします?全然分からないんですがーあははははははははははははー…、
「あの…」
「は、はいっ!!」
いまの心の笑いが見透かされたのかっ!?いきなり女の人に声を掛けられるなんてっ!!
「あの…レムさん…ですよね…?」
「へ…えーっと…あ…」
その人は水色のサンバイザーを被っていた。水色のサンバイザーは…「みお」さんっ!!17歳女子高生っ!!
その人はセミロングに満たすか満たさないか程度のクセ毛の髪をしていて背丈は俺と同じくらい…、
まんまるの目がかわいい…まさに美少女じゃないかっ!!
「えっ、あ、はいっ!!レムですっ!!みおさんですよねっ!?」
「はいっ!よかったぁ…少なくともレムさんはホントに中学生で、ちょっと不安だったから…」
「あ、はは…自分もです…」
ていうか皆そうだろう。とにかく一安心ってとこか?
「他の皆は…まだ来ませんかね…?」
みおさんがそう言う…本名は…あとで聞けば良いか。
「でも、そろそろ来るんじゃないんですか?」
俺は帽子の上から頭を掻いてそう返してみた。
「ですよ…ね…、あ…あの人そうじゃないっ!?」
「えっ!?」
俺はみおさんの指差した方向を見る。そこにはくすんだ緑のキャップを被った男の人。
向こうも気付いたらしい、あっという顔で俺たちを見た…。
「レムさんに…みおさんですか?」
「はいっ…「紅蓮」さんですよね…?」
大学生のお兄さんだ。予想ではか細い人…つまり俺の将来みたいな姿を想像していたんだが、割と体格がいい…、
オタクを自称していたが…、そんな感じじゃない…身長もすごく高くてむしろ体育会系な感じまでするぞ。
しかもなかなかイケメン…、待て待て、なんか俺どんどん劣等感なんだが。
「始めまして…ですかね?」
俺は苦笑に似た笑みを浮かべながら挨拶をした、ずいぶん中途半端なあいさつであるが。
「一応、そうだね…!」
うっ、さわやかフェイスっ!!肉眼で見れる限界間近だっ!!
「よかったぁ…紅蓮さんも本物の大学生だぁ…」
…みおさんはずいぶんふわっとした性格なようだ。
「きっとそろそろ他の三人も来るでしょうね」
俺はぼんやりとそう言いだしてみた。…ちょうどそのタイミング。
「え〜っと…あの…」
後ろから女の人の声っ!!…俺の勘はばっちりだな。
「あ、黄色の帽子っ!!「リー」さんですよね…?」
誰よりも先にみおさんが声を掛けた、すると黄色の帽子の人はにっと笑い、
「はいっ!俺…リーっす!!」
リーさん、18歳の女子高生。目は若干吊り上っていていわゆる猫目。浅く被ったキャップの下はポニーテール…、背丈は俺より少し高い。
どうも男口調でかっこいい系のおねーさんみたいだ…。
そしてこの人も容姿端麗…待て待て、唯一冴えない顔、髪質がちがちでボサボサの俺はどうしたらいいんだっ!?
「えっと…みおさんに…紅蓮さんに…レムさんであってますか?」
「はい、よろしくです…」
「よろしくおねがいしますっ!!」
「よろしく頼みますね…」
全員が思い思いに挨拶を交わす。ずいぶん賑やかになってきた…後はたった二人、
きっとその二人ももうすぐ来る頃だろう。
「おっ、あのニット棒の女の子、そうじゃないっすか?」
リーさんがいかにも元気よく言い出す。その視線の先には確かにニット棒を被った女の子…。
向こうもこちらに気付いたらしく、こっちに近づいてくる。
「あ、あのっ…皆さんは…」
その子は俺たちに向かって緊張気味に語りかけてくる。赤らんだ頬がかわいい。
「はいっ、「エリス」さんですよね!?」
「あっ、はいっ!!」
エリスさん…一個下…中学二年生…。大きな目と真っ黒なショートヘアーが特徴的。
背丈は結構低めで…かなり幼い印象を受ける…おいおい、また美少女かよ…。
本来は喜ぶべきだろうが…どんどん憂鬱になる俺…悲しい話だな。
「いや…ホントに皆さんが優しそうな人でよかったですっ!!」
ずいぶん素直そうな子だ…俺の方こそ良かったよ。生意気な女の子は苦手だからな。…まぁそれをあえて相手には言わなかったが。
「エリスちゃんかわいいなぁぁ〜…」
やけにテンションがあがっているみおさん…なるほど、かわいい子に目がないってわけか。
「えっ…あっ、ありがとう…ございます…」
んー…でもたしかにこの赤ら顔はかわいいな。
ん、んほんっ!!なんでもない。…ともかく残るは一人、言い出しっぺの「らん」さん。
言い出しっぺが遅れてくるのは漫画じゃお決まりだが…、現実となっちゃなかなか無いからな…もう来る頃だと思うんだが…。
「…あ、あの人そうじゃないですか?」
エリスさんが目を見開いた、その視線の先には…。
「あっ、皆さんっ!?」
「い、らんさんですか?」
「はい、らんです。すみません、言い出しっぺが一番最後で…」
らんさん、当時21歳…黒いロングヘアーでこれまた穏やかで容姿端麗なおねーさん…何だが…。
「うわぁ…すごい格好…」
みおさんがふわぁっ…としたカオでそう言う。俺も…というか全員が同意見。
「えっ?そんなに変?」
「いえ、そうじゃなくて…それ全部有名高級ブランドの奴じゃないですか…」
そう、その格好は誰もが知っている有名高級ブランドのもの…。
それを日常的に着ているなんて…金持ち、いや、相当の大金持ちじゃないか。
ここで二つ目の偶然、「一人が非現実的なくらいの金持ちだった」
「え、ああ…ごめんなさい、正直に言うと父が会社の社長をやってるから」
「ほぇ〜すごーいっ!!」
みおさんのテンションが上昇していく。
「さて、とりあえずどっかお店に入って自己紹介でもしましょうよ」
紅蓮さんが半ば強引に話を切り出した。すかさず俺は、
「あ、はい、そうしましょうよ」
そう返す、全員がそれに合意し、俺達は財布にやさしい大手ファミレスに入ることになった。














「えーっと…レムです。本名は…「木島大輝(キジマヒロキ)」です。よろしくおねがいします」
自己紹介、とりあえず本名を言い合うことになった。そしてこれからは本名で呼び合う決まり。俺はとりあえず自分の本名を明かし、次へとバトンを回す。
「次は私ですよね…。みおです本名は「姫道深音(ヒメノミチミオン)」です。恥ずかしながら、ハンドルネームは本名からとってしまいました。よろしくおねがいしますっ!」
最後ににこりと笑ってみお…いや、深音さんの自己紹介は終わり。
「次は俺ですね。紅蓮、本名は「山本健児(ヤマモトケンジ)」です。よろしくお願いします!!」
シンプルでいかにもカッコよい挨拶。男ながらにカッコいいと思った…。
「あ、今度は俺っすね。リーっす。本名は「西森恵美(ニシモリエミ)」っていいますっ!!」
男口調で…逆にかわいいと思った俺は病気だろうか?
「えっと…わたし、ですよね。エリスです…、本名は「金田飛鳥(カナダアスカ)」ですっ!よろしくおねがいしますっ…!」
そそくさと挨拶を終わらせるアスカさん。…かわいい。
そして最後、言い出しっぺのお金持ち、らんさん。
「じゃあ最後にらんです。本名は「桃園楓(モモソノカエデ)」と言います。どうぞよろしくっ!!」
にこりと笑っているカエデさん。改めて綺麗だなぁ…。
「さて、せっかく集まったんですから…しましょうか…その、スパ話を…」
カエデさんがこっそりと言う。そうだ、せっかく集まったんだから。
「そ、そうですね…あ、じゃあ皆さんはどんなシチュが好きですか?」
アスカさんが話を切り出す。ここはいっちょ先陣を切ってみるか。
「俺は姉カーが好きですね。何せ自分が一人っ子で…兄弟に憧れたもので」
俺は苦笑しながらそう言う…と。

「えっ!?」

全員が一文字をユニゾン。な、なんですか…?

「私も一人っ子で兄弟に憧れてんですよ…」
「俺もですっ!一人っ子は孤独だから」
「俺もっす。まったく同じ理由で…」
「同じくです…」
「わたしも…一人っ子で…」
全員が口々に話し出す。
「え…あぁ…偶然ですね。一人っ子ってこの少子化の時代でもまだまだ少ないですから」
はい、ここで第三の偶然、「全員一人っ子で兄弟に憧れている」。
「でも兄弟ってやっぱり憧れますよね!?」
「はいっ、すごく羨ましくて…」
「そんな兄弟とスパ関連なんて…」
「泣いちゃいますねっ!!」
おぉ、なかなか盛り上がったぞ。偶然だがなかなか良いスタートじゃないか…?
しかしその時俺はふとカエデさんに違和感を感じた…。
…なぜかやけに真剣な表情をしていた…気がした。…気がしただけだと思ったのだが。

しかしこの時のこの表情がとんでもない意味を持っていた…もちろんその時の俺は知らないが。

その日は二時間ほどで別れたが、その後俺達はちょくちょくオフ会を開き、ネットでも毎日のように語らうこととなった。
俺個人としては受験があり、なんとか合格…晴れて高校生となる…。
この辺は大して重要じゃないし長くなるからこのくらいで省略な。
大事なのはこの後…今から数えて三週間前、最後のオフ会の時の話なのだ。

その日も普通のオフ会のつもりだった…しかしカエデさんがいきなり突拍子も無いことを言い出したのだ。
「あの…いきなりなんだけど…私正直お金持ちでしょ?」
いきなりどうした?
「あ、はい…たしかに…」
「父がね、結構バカな人で…普通別荘って避暑地とかに買う物だと思うんだけど…昔この辺にちっちゃい別荘買っちゃったの」
…たしかになかなか個性的なお父様で。
「それでね…相談なんだけど…」
さぁ、次がその発言、心して聞いてくれ。

「私たちで…そこに住まない…?」

…は?
俺を含めた全員がキョトンとした顔になる。
「あの…よくわからないんですが…」
「皆兄弟に憧れてるんでしょ?だから私たち…そこで兄弟にならない?」
な、え…はい?
「あの…それ本気ですか?」
ケンジさんがそう言う。俺はそれに続いた。
「第一普通の学生の両親がそんなこと許すはず…」
続いてアスカさん、
「…わ、わたしなんてまだ中学生ですよ?」
「いや、あの…皆が良ければ私、ご両親を説得する自信あるわっ!!」
…な、なんですかその自信。その後にあるのはしばしの沈黙、それを破ったのはエミさん。
「でも…俺は結構興味あるな…」
ぼそっとそう言う。興味は…俺もある。むしろ…やってみたい。しかもこんな美男美女が兄弟ときたら。
「あの…私も、やってみたい…」
「俺も…です…」
「私も…」
皆が次々同意していく…、俺はあまり人に流されるタチではないと思う。…しかしこれは俺の意思…ってことで良いよな。

「俺も…一緒に住みたいです…」

さぁ、非日常のはじまりはじまり…なんてな。














こんなことから義兄弟の誓いを立てちまった俺はさらに一週間後の土曜日、カエデさんを家に呼んだ。
どうやら本気で両親を説得してくれるらしい…、ちなみに他の四人の両親は説得済み…なんなんだこの人の交渉力は。

「ここです、俺んち」
俺んちはマンションの一室。金持ちのお嬢様を入れるには少しお粗末過ぎる。
「では、お邪魔するね」
にこりと笑みを見せられた。俺は家のドアを空け、カエデさんを家に入れた。
さっそく両親のお出迎え、一応「友達のおねーさん」を連れてくるとだけはいってあったから。
「あら、いらっしゃい♪」
愛想良く言う母さん…それに笑顔で返すカエデさん。さぁ、その交渉術を見させてもら…、
「お父さん、お母さん、ちょっと奥へ…」
…へ?
強引に俺の両親を押し込み、部屋の奥に消えたカエデさん…な、なんなんだ?
五分と経たないうちに戻ってきた三人、母さんの口から最初に出た言葉は。

「いってらっしゃいヒロキ!!」
…は?
続いて父さん、なぜかでっかい旅行かばんを手にとって…、
「もう出かける準備はできてるぞ!!着替え、ゲーム、その他お前の必需品がすでに入ってるからっ!!」
は、はぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいいっ!?
お、俺の見てないところで何が起きたんだよっ!?どんな力が働いたんだっ!?えっ!?
かくして大した別れもないまま俺は家を後にした…、この人…いったい何モンだよ?

そして俺はそのままその別荘とやら…いや、カエデさんいわくすでに俺の家らしいが…そこに向かった。
駅から五分ほどの場所…すでにそこには他の四人が集められていた。
そこはどう見ても「ちっちゃい」とは思えない、普通よりちょい大きいくらいの二階建て一軒家。
ここが…俺のお家ですか。
俺はそこへ着くとこっそりと四人に、
「あの…なんなんですかカエデさんの交渉力…」
こう言ってみた。
「…俺たちも驚きだよ」
「まったくです…」
俺たちが雑談をしているとカエデさんは俺たち五人に目を合わせにこりと笑い一言、
「入って♪ここでのルールを決めましょ。とは言っても大体は決めてあるんだけどね♪」
…なかなか本格的だな。俺はそう思いつつ、その部屋の中に入った。
「おじゃましまーす…」
誰が言ったか小さくそんな声がする。
ってか、家の中もなかなか広い、あまり人の出入りが無いのだろう。清潔で新築のような匂いがする。
俺達は家の構造を確認する。全員が口々に「ほぇー」という間の抜けた声を発していた。
玄関に、廊下にはトイレと洗面所が面していて、一階二階合わせて小部屋が三つ。二回にはリビングとダイニング。それは一つになっていてリビング側には大きなソファー、ダイニング側にはご丁寧に椅子が六つそろったテーブル…。
なんだかむずむずするな。
俺たち六人はダイニングのテーブルに腰掛けた。そしてカエデさんが、
「ではでは、私が決めてきたルールを発表しますっ!!」
おおっ、早速だな。
カエデさんは以外はもぞもぞ体を動かしたり咳払いをしたりして緊張に耐えている。
「まずその1、私たちは兄弟だからね。敬語は禁止。年上はお兄ちゃん、お姉ちゃん、もしくはそれに順ずる何かで呼ぶこと!!」
「ちょ、マジですか!?」
「ほら、敬語禁止っ!!」
うっ…強い。もうその条例施行されてるのか!?
とは言っても同居に合意した手前、あまり文句は言えないな。皆同じ気持ちだろう。
「その2、家事は皆で分担すること」
これは特に反対の余地は無い。
「そしてその3、これは私たちみたいなのが集まってるわけだから一番重要で必然的なルールですっ!!」
…必然的?私たちみたいな?…どういうことだ。
「え…まさか…」
アスカさんはすでに気付いたらしい。若さは恐ろしいな。…俺も充分若いつもりだが。

「そうっ!!ルール違反者はお尻ペンペンの刑っ!!」

…あぁ、なるほど、たしかにな。
こうして俺の夢が全て叶った。

そのルールに意義を唱える人はいなかった。結局全員願望が叶ったことになるからな。
しかし…実際にとなるとなかなか勇気がいる。だが…納得した以上、順ずるしかないか。
俺は一言、こう呟いた。

「あ、あの…トイレどこだっけ…カエデ姉ちゃん…」

俺の勇気に乾杯。
















「ご飯できたよーっ!!」
その日の夕食はカエデ…姉ちゃんが作ってくれた。
「はいはーい、今行くから待っててーっ!!」
敬語を捨てる、勇気を絞って最初の一言を発してしまえば簡単だ、意外と皆すぐに慣れたようだ。ちなみに今の声は…、
「遅いよ」
「ごめんごめん」
「ところで…なんと言うか、ミオン姉ちゃんって言いにくい…」
「え、あぁ…そう?」
「だから…ミオ姉ちゃんでいい?」
俺はミオンさん…じゃなかった、姉ちゃんにそう聞いた。すると、
「か、かわいーーーーーーっ!!」
「えっあうっ!!」
なぜか抱きつかれた。意味がわからん。で、でも…悪くないな…結構姉ちゃん胸おっきい…。
ごほっごほっ、なんでもない…。
「いいよっ!!好きに呼んでいいよひーくんっ!!」
ひーくんっ!?なんですかそれっ!?…でもまぁ順応早くて助かるが。
「ほーら、二人とも。早く席について」
カエデ姉ちゃんの声。
「いや、だってミオ姉ちゃんが…」
「えーっ!!ひどーいっ!!」
「いいわけしないで早く座るっ!!」
…怒られた。でもまぁこれも兄弟っぽくて悪くは無い。
「ねーちゃん、早く食おうぜ〜?」
エミ姉ちゃんが苦笑しながらそう言う。そして「はいはい」と笑うカエデ姉ちゃん。一応全員が席に着いた。
「じゃ、いただきまーす」
「いただきまーす」
見事なユニゾン。俺はその声のあとすぐに目の前にあった鶏肉の照り焼き的な何かに手を伸ばした。
「あ…うまい…」
「でしょー?料理は得意なんだから」
嘘でもお世辞でもない。肉汁がじわっとあふれ出てきて甘辛いソースと一緒に流れていく…、すごく旨い。
「たしかにすごく旨いな…」
ケンジ兄ちゃんも…というか全員が同意見らしい。口々にそう言う。
すごいな…ホントにこの人はいろんな面で天才なんじゃないか…?
いや、ホントに旨かった…そんなわけで食事はすぐに終わっちまった。
その後俺達は風呂に入り…もちろん一緒にじゃない、勘違いするな。そして早々と寝ることにしたんだが…、

「あ、寝室一つしかないから皆で一緒に寝るわよ」

…は?
「いや、それはまずいんじゃ…」
だって男女が同じベッドで寝るなんて流石に色々…、
「絶対まずいだろっ!!」
兄ちゃんも同じく。だが…、
「え?私たちは気にしないけど?」
「うん」
「私も」
…女は強い。男が弱すぎるって考え方もあることはあるが。
そしてその結果…。

「あううう…」
寝苦しい。男二人に女の子四人。羨ましいようだが…これは現実じゃかなり厳しい。
と、とは言っても今日は疲れたから結構眠たい。羊でもかぞえりゃすぐ眠れる…すぐ眠れる…すぐ…、
「むにゃ…おにいちゃん…」
あ、アスカっ…腕に抱きつくなっ!!
「むにゃぁ…ヒロぉ…」
エミ姉ちゃんまでっ…てかヒロってなんすかっ!?
こんなん…て、て、ててててててててててててててててててててててててて…、

天国…、くっそ眠れん。



















なんらかんらで次の日。割とこの日は大事になる。
「うー…結局全然眠れなかった」
興奮…その言い方は気に食わん。テンションが変に上がっただけだ。
「おーヒロキ…、お前も眠れなかったろ…」
兄ちゃん…そういう兄ちゃんもそうだろうな。てかこの人は敬語のときとしゃべり方の印象が結構違う。
「まぁそうだね…」
「おいおい、男二人じゃ淋しいだろ?おねーさんが来てやったぞ?」
エミ姉ちゃん…まだ髪を結っていなく長いそれを掻きながら現れた。
「お前なぁ、お前だって男みたいなもんだろ」
「なっ、失礼なっ!!」
「ははは…」
昨日はまだ何か照れくささがあったが…なんか一緒に寝たらどうでもよくなってきた。
そんな風ななんとものほほんとした朝のひととき…だったんだが、
「ヒロキっ!!」
「へっ!?」
いきなりカエデ姉ちゃんに後ろから怒鳴られたっ!?なぜっ!?
「あんたに昨日ごみ捨て頼んどいたでしょ!?今日特別に日曜だけど来てくれる日なんだからっ!!」
「…あ、忘れてた…」
「もーっ!引越しのごみがたまってたのに行っちゃったじゃん」
まっずい…引越し早々しっかり目に怒られた。
「ご、ごめん…」
「だーめ…、どーやらこの家最初のおしおきの被害者はヒロキになりそうだね」
なっ…まっ…い、いやいくらなんでもいきなりすぎないっすかっ!?全然心の準備できてないし話の内容的にも起承転結がまったく…、
「ほらっ、早くおいでっ!」
ソファーの上に座り膝をぽんぽんと叩く姉ちゃん。マジか…?願望だけど…でも…恥ずかしすぎるっ!!
「おぉー、はじめてリアルでF/m見れるぜー」
「や、やめてくれエミ姉ちゃんっ!!」
やっぱり女は強い…。
「ほーら、早く。お姉ちゃんがきつーくお尻ぺんぺんしてあげるから」
「いや、でもやっぱりゴミだし忘れたくらいで…」
「早く来なさい…」
一回り低い声…これはまずい…かな。覚悟決めるか、ま、これが俺の夢だったんだろ?ラッキーなんじゃないか?そ、そうだよな、うん…。
もんもんとしたまま「その」方向へゆっくりと足を運ぶ。
「いい子ね…」
腕を掴まれ、ぐっと引かれ、膝の上に乗っけられた。不覚にもどきっとしてしまう。
それと同時にこらえたような「おぉっ」という歓声…この人たちもスパ好きだなぁおい。
カエデ姉ちゃんは俺の腰に手を置き、そして…ズボンに手をかける。
「ちょっ、ちょっとまだそれは早いっすよっ!!」
「早いかどうかは私が決めるの。悪い子のおしおきは痛いだけじゃないからね」
…「恥ずかしいのもおしおきのうち」ってか?待て待て…でもいざ女の子の前で尻を露出するとなると…か、考えただけで恥ずかしいっ!!
そんな俺の心の声はあっけなく無視され、
「じゃ、脱がすよ♪」
ちょっ、まっ、心の準備が…と喉元に出かかった時、すでに俺の尻は露だった。ひやっとした感覚に襲われる。
「かわいいお尻…」
ミオ姉ちゃんの声…あぅぅぅっ!!もう殺してくれっ!!台所から包丁持ってきて喉を掻き切ってくれっ!!
「ほんと、高校生の男の尻ってのはもっとごっついのかと思ってたなー」
次にエミ姉ちゃん…もういやだもういやだもういやだもういやだもういやだもういやだっ!!
「ひぅっ!!」
カエデ姉ちゃんに尻に手を置かれた感覚と恥ずかしさで我に帰った。
「さぁて、そろそろ本番よ。良いね?覚悟しなさいっ!」
もうここに来た段階で覚悟はできてますよーだ。
でも、ほんとにほんと。これが俺の願望のはず、ずっとこれが夢だった。正直今もドキドキが止まらない…。だったら…だったら早く…早く来いっ!!
「じゃあ、行くわよ…それっ!!」
一瞬の風を切る音、それ以外の静寂…来た…本当にだ。そして次の瞬間。

ばっちぃぃぃぃんっ!!

「あぅぅぅううっ!!」
思わず声に出た。痛い…そしてびっくりした。こ、これがお尻ぺんぺん?初体験なわけだがこんなに痛いものなのか!?予想はもうちょっとマシな…、
ぱちぃぃんっ!ぱちぃぃんっ!ぱちぃぃんっ!
「あぅぅっ!いったぁぁ…」
俺の心の声が中断されるくらい痛い。尋常じゃない。そして一瞬だけ恥ずかしさも忘れた。
ぱちぃぃんっ!ぱちぃぃんっ!ぱちぃぃんっ!ぱちぃぃんっ!
「つぁぁっ!ね、姉ちゃんっ…いたい…っ」
「そりゃあおしおきだもん、痛いのは我慢なさい」
ぱちぃぃんっ!ぱちぃぃんっ!ぱちぃぃんっ!ぱちぃぃんっ!
もう周りの声はよく聞こえない。なんとなくざわざわ言ってる気がするが…恥ずかしい打撃音と自分の鼓動にかき消される。
ぱちぃぃんっ!ぱちぃぃんっ!ぱちぃぃんっ!ぱちぃぃんっ!
「ひぁぁっ…くぅ…いたいっ…よ」
思わず子供めいたことを言いながら、俺はソファーをぎゅっと握り締め、またまた思わず足をばたつかせていた。
「こーらっ。足のお行儀がわるいぞー?」
ぱちぃぃんっ!!とちょっと強めの一発。
「ひゃぁぅっ…ご、ごめんなさいぃ…」
情けない声とともに情けないセリフ…やんなっちゃうね。でもついに涙まで滲み出した。
ぱちぃぃんっ!ぱちぃぃんっ!ぱちぃぃんっ!ぱちぃぃんっ!
「はぅっ…いたいよぉ…ぐすっ…ごめんなさいぃぃっ」
痛みは重なるようにその勢いを増していく。俺の情けないちびっこめいた発言も比例して。
「痛い?じゃああと少し反省しなさいっ」
い、イマイチ理由になってない気がするが…、
ぱちぃぃんっ!ぱちぃぃんっ!ぱちぃぃんっ!ぱちぃぃんっ!
「いぁぁっ…も、もうやぁぁ…ごめんなさいぃ」
ぱちぃぃんっ!ぱちぃぃんっ!ぱちぃぃんっ!ぱちぃぃんっ!
「ヒロキ、じゃあ次からちゃんと約束守る?」
ぱちぃぃんっ!ぱちぃぃんっ!ぱちぃぃんっ!ぱちぃぃんっ!
「ま、守るぅ…」
後からこの声を聞いていたら俺発狂してるな。
ぱちぃぃんっ!ぱちぃぃんっ!ぱちぃぃんっ!ぱちぃぃんっ!
「本当?じゃあ次破ったらもっと痛いよ?」
ぱちぃぃんっ!ぱちぃぃんっ!ぱちぃぃんっ!ぱちぃぃんっ!
「守るからぁぁ…っ」
ぱちぃぃんっ!ぱちぃぃんっ!ぱちぃぃんっ!ぱちぃぃんっ!
「ほんとだね?じゃあ次の一回でおしまい。ちょっと今までのより痛いからね」
最後の一回は一番痛い。お約束だな。俺は目を瞑り歯を食いしばり…ソファーをぎゅ〜っとした。
「じゃあ…最後のいっかいっ!!」

ぱっちぃぃぃぃんっ!!

「くっぁぁぁあっ!!」
じんわりとした感覚が尻を襲う。そしてその次は頭を撫でられる感覚。
「よしよし♪良く頑張ったね。えらいぞー」
優しく頭をなでなでされるのは…おもいのほか気持ちいい。眠ってしまいそうになる。
これも含めて…俺の願望だった。
「うみゅ…」
ちょっと意識して…甘えた声を出してみる。
すると姉ちゃんはもっともっといい子いい子してくれた…のだが。
「ぷっははっ…お、お前っ…かわいすぎるっ」
…エミ姉ちゃんの声、次にミオ姉ちゃん。
「お尻まるだしで「うみゅ」とか最高に萌えっ」
次にアスカとケンジ兄ちゃん。
「お、お仕置きの最中もおにいちゃんちびっこみたいだったっ…ふふっ」
「最高にお前ショタっこだったぞ?」
へっ?かわいい?萌え?ちびっこ?ショタ?
急に現実に引き戻された。むしろ強制送還。恥ずかしさが込み上げ…、
「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁっ!!」
そして俺は叫んでいましたとさ…というお話。
















そしてそれから二週間、今に至る。
なんらかんら、完璧に限りなく近くこの環境に慣れた。
この状況は紛れも無く現実。嘘じゃない。これから…良い様に言えば楽しいことが起こりそうだし、悪く言えば巻き込まれそうだが…、
なんとか綺麗にまとめたいからこんな言い回しをさせてもらうが、
とにかく…人と違う人生も悪くはない…なんとなくそう思う。
これから色々起こるのか起こらないのかは置いておいて…とりあえず何で回想シーンから二週間後の今に至ったのか。

ま、それは別の話だからそのときに期待してほしい。